第3話 ~『異性』の口づけ~
あれから、日は過ぎて。私の発作の度にちおちゃんはキスをしてくれて、わんわん泣く私をただ優しく抱き締めてくれた。
私は、きっとちおちゃんが好きだ。でも、『あの人』の事も大好きで。こんな不純な気持ちでいるのはどちらにも顔向けできない。
そんなある日。
「きゆちゃん、おはよ」
「ん……」
ちおちゃんなんだか声が高い? 起き上がって、んーと伸びをする。そしてちおちゃんを見る。なんか胸がふくらんで……。
「今日のアタシは女の子! 次はいつ元に戻れるのかしら……」
わあ……女の子のちおちゃんも色気があるなぁ……。こういう女性を目指したい……。女の子?
「可愛いね」
「あら! ありがと!」
そういえばちおちゃんの呪いの事忘れてた。なんかいろいろありすぎて。
「あんまりびっくりしないのね~。ちぇっ。驚かせようとしたのにぃ」
「だってちおちゃんはちおちゃんだから」
前にもこんな事あった気がするから。
「まあいいわ。水浴びにいってらっしゃい」
「ちおちゃんは一緒に行かないの?」
「……きゆちゃん、大事な事教えてあげる」
なんだろう……ちおちゃん真剣。
「男は狼なの。体がちょっと女になったからって隙を見せちゃダメ」
「私もオオカミ少女って言われてたからお揃いだね」
「……いいから一人で行ってきなさ~い!!」
「なんでダメなんだろう……」
私は水に身を沈めて口から泡をぶくぶく出した。
準備を整え、さあ出発という時にそれは起こった。
「あ……」
「きゆちゃん!」
全身の痛み。呪いの発作だ。
ちおちゃんはすぐさまキスをする。しかし……。
「う……うう……!」
「なんで……」
ちおちゃんは、はっとした様子だった。そう、解呪の方法は『異性』からの口づけ。ちおちゃんの体は今、女性だ。
「痛……い……! う……あ……!」
「きゆちゃん……! アタシ……! なんで……!」
ちおちゃんは泣きながら私の手を握ってくれた。
しばらくして、痛みが引いてきた。
「ちお……ちゃん……」
「きゆちゃん……? もう大丈夫なの……?」
「ん……」
「お水……!」
ちおちゃんはゆっくり私を起こしてくれて水筒のお水を飲ませてくれた。
「ありが……と……」
「お礼なんて……言わないで……」
ちおちゃんは赤い目で言う。
「アタシ……きゆちゃんにプラスになる事なんにもできてない……。アタシから旅に誘っておいてこの様……。キスしてもしなくても、きゆちゃんを苦しめ……」
私はちおちゃんの唇に人差し指を当てた。
「ちおちゃん……あのね……私……ちおちゃんに出会えて良かった……。ちおちゃんがあの地獄から救ってくれた王子様なんだよ……」
私はちおちゃんが握っててくれた手を開く。そこには私が力の限り強く握り、爪を立てたせいで血だらけになったちおちゃんの手があった。
「ちおちゃん……私の手……ずっと握っててくれた……。こんなに傷だらけになっても……私の手を離さないでくれた……私は……」
私は力なく笑う。
「それがとっても嬉しいんだ」
私は人差し指を退ける。
「きゆ……ちゃん……」
ちおちゃんは私を抱き締めてぐすぐす泣いた。「いつもと逆だね」なんて言ったら「今くらいいいでしょ」って言われたから私は笑った。
「ちおちゃん、はい、お水」
「ありがと……」
ちおちゃんから貰った水筒を今度はちおちゃんに渡す。
ちおちゃんは水をごくごく飲み干すと、ぷはー! と言っていつものちおちゃんの顔に戻った。
「アタシ、決めた!」
「何を?」
「アタシがきゆちゃんを幸せにする!」
「へ?」
ちおちゃんの唐突な言葉に私は面食らう。
「なんか……思い出せない人の事も含めて、私はきゆちゃんを丸ごと愛す!」
「えと……えと……なんで……?」
私は困惑するばかりだ。
「だってアタシ、きゆちゃんの事好きだから!!」
「へ?」
「覚悟しなさい!」
「は、はい……」
ちおちゃんの宣言に、私は思わず敬語になってしまった。
「ランランラン~」
ちおちゃんはご機嫌。しばらく休んで、私達は出立した。手を繋いで。いや、正確には繋がれて。
ちおちゃんは包帯を巻いた手で私の手を握った。戸惑っていると「好きな人とは手を繋ぎたいもの」と潤んだ目で見られて折れた。
いいのかな……でもちおちゃんは楽しそうだし……いいのかもしれない。
「ねえ、きゆちゃん」
「なあに?」
「その人とはどこまでいったの?」
どこまで? どこまでとは。
「お手々繋ぐ? キス? それとも……」
ちおちゃんの言葉に私はぼっと顔が熱くなった。そういえば……どこまでだろう……。なんだかとんでもないところまで行った様な気がする……。
「最後までいったのね」
ちおちゃんは何か察した様だ。
「ああああ……わ、わかんない! わかんない!」
私は恥ずかしくてそう言った。
「アタシともする?」
ちおちゃんは笑う。
「わ……わかんない……」
ちおちゃんと私は、これからどうなるのだろう……。期待と不安を胸に、私達は歩く。




