暁に咲く 六
「だから言ったろ」
柄まで赤く染まった剣を手にさげて、伯英は淡々と告げた。
「あんたは、おれたちを買いかぶりすぎだって」
自らがつくった血だまりに伏す男の頭がぎくしゃくと動き、よどんだ目が伯英を見あげた。
「それか、芝居の見すぎだ。崖を駆けおりて敵将の首をとってこいってのは、さすがに無理があるぜ」
なあ、と伯英は尋ねた。虞朱圭と名乗っていた男に。
「虞朱圭はどこにいる」
本物の使者は。
「あんたがどこかで手にかけたんだろ。本物の使者どのをさ。どこでやったのか教えろよ」
「なぜ……そんな、こと……」
「たいした理由はねえよ。ただ帰してやりたいだけだ」
虞朱圭という名の男を。せめて亡骸だけでも故郷へ、家族のもとへ。
「……はっ」
奇妙な音がした。ごぼりと、沼底から泡が噴き出すようなその音は、倒れた男の喉からもれたものだった。
「まったく……おしい、ですねえ……」
口から血泡をこぼしながら、男はたしかに笑っていた。おかしくてたまらないというように。
「……あなた……なが、い……でき……」
男の身体が痙攣した。震えがおさまったとき、両眼の光は消えていた。
黙然と男を見おろしていた伯英の唇が、かすかに動いた。知ってるよ、と子怜の耳には聞こえた気がしたが、さだかではなかった。
「おまえ」
亡骸から視線をはずして子怜を見た伯英は、いぶかしげに眉をひそめた。
「なんで笑ってんだ」
いつかの夜と同じ問いだった。そのときは返せなかった答えを、子怜は口にする。
「綺麗だから」
あっけにとられたように伯英は目を見ひらく。
「なにが」
「あなたが」
笑みを濃くして、子怜はつづけた。
「あなたには、赤がいちばん似合う」
血の朱が。
伯英はしばし無言で養い子の顔を見おろしていたが、ややあって頭をふり、足もとの血だまりから小刀を拾いあげた。
「役に立ったみたいだな、これ」
濡れた刀身を、伯英は袖でぬぐう。
「けどな、なんだっておまえはまた一人でふらふらしてんだよ。まったく、聞き分けがいいんだか悪いんだか……」
小言つきで返された小刀を受けとりながら、子怜は「伯英」と呼びかけた。
「うん?」
「おかえり」
大きな手が頭をなでてくれた。




