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玉蘭花伝  作者: いろは
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28/29

暁に咲く 六

「だから言ったろ」


 つかまで赤く染まった剣を手にさげて、伯英は淡々と告げた。


「あんたは、おれたちを買いかぶりすぎだって」


 自らがつくった血だまりに伏す男の頭がぎくしゃくと動き、よどんだ目が伯英を見あげた。


「それか、芝居の見すぎだ。崖を駆けおりて敵将の首をとってこいってのは、さすがに無理があるぜ」


 なあ、と伯英は尋ねた。虞朱圭と名乗っていた男に。


「虞朱圭はどこにいる」


 本物の使者は。


「あんたがどこかで手にかけたんだろ。本物の使者どのをさ。どこでやったのか教えろよ」

「なぜ……そんな、こと……」

「たいした理由はねえよ。ただ帰してやりたいだけだ」


 虞朱圭という名の男を。せめて亡骸だけでも故郷へ、家族のもとへ。


「……はっ」


 奇妙な音がした。ごぼりと、沼底から泡が噴き出すようなその音は、倒れた男の喉からもれたものだった。


「まったく……おしい、ですねえ……」


 口から血泡をこぼしながら、男はたしかに笑っていた。おかしくてたまらないというように。


「……あなた……なが、い……でき……」


 男の身体が痙攣した。震えがおさまったとき、両眼の光は消えていた。


 黙然と男を見おろしていた伯英の唇が、かすかに動いた。知ってるよ、と子怜の耳には聞こえた気がしたが、さだかではなかった。


「おまえ」


 亡骸から視線をはずして子怜を見た伯英は、いぶかしげに眉をひそめた。


「なんで笑ってんだ」


 いつかの夜と同じ問いだった。そのときは返せなかった答えを、子怜は口にする。


「綺麗だから」


 あっけにとられたように伯英は目を見ひらく。


「なにが」

「あなたが」


 笑みを濃くして、子怜はつづけた。


「あなたには、赤がいちばん似合う」


 血のあかが。


 伯英はしばし無言で養い子の顔を見おろしていたが、ややあって頭をふり、足もとの血だまりから小刀を拾いあげた。


「役に立ったみたいだな、これ」


 濡れた刀身を、伯英は袖でぬぐう。


「けどな、なんだっておまえはまた一人でふらふらしてんだよ。まったく、聞き分けがいいんだか悪いんだか……」


 小言つきで返された小刀を受けとりながら、子怜は「伯英」と呼びかけた。


「うん?」

「おかえり」


 大きな手が頭をなでてくれた。



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