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第58話-2:魔法競技祭当日――エドワードの覚悟

「――そのような経緯で、私はウカクとサカクを伴い、王族の方々を地下牢までお連れしたのです」


 エドワード公が語り終えると、再び地下牢には重苦しい沈黙が満ちた。


 アモン陛下は険しい面持ちのまま頷き、その視線を逸らさずにエドワード公を見据えている。


「しかし道中、ウカクとサカクの王族への扱いは、あまりに目に余るものでした。

 彼らには私を監視する役目もあったのでしょう。話し合いの余地はなく――陛下と、地下牢に現れたイチゴセンを守るためには、彼らを斬るしかありませんでした」


 その言葉に、シシンが鋭く割り込む。

 掌には依然として魔力が渦を巻き、声には警戒と緊張が滲んでいた。


「今回のクーデターの首謀者はルードヴィヒ殿。その実行役は第三貴族フリードマン家、第四貴族ヒルマン家、第五貴族ワイズマン家――

 つまり、第一貴族テックマン家は無関係だと言いたいのか?」


 エドワード公は一拍置き、冷静に応じた。


「我が息子たちが関与している以上、弁明の余地はありません。

 ガブリエウは精神操作により洗脳下にあり、仮に正気に戻ってもなおクーデターを継続するでしょう。

 アーヴィングは自力で洗脳を解いたものの、その後イチニセンを襲撃したことを、通信機から確認しております」


 シシンの瞳がさらに鋭さを増す。


「では、エドワード公が訴えたいこととは何だ?」


 エドワード公は静かに息を吸い、言葉を選ぶようにして告げた。


「玉座の広間にはヒヨリ殿が控えておりました。

 ルードヴィヒ殿は、不安定になっているヒヨリ殿の精神を巧みに突き、完全な精神支配へと持ち込もうとしていると推察します。

 ヒヨリ殿は我が国にとっての“光”。

 彼女が操られ、王血部隊が殲滅されるようなことになれば――取り返しがつきません。

 手遅れになる前に、なんとしても安全のうちに彼女を止めねばならないのです」


 その告白に、シシンの表情が一瞬凍りついた。

 瞳の奥で、激しい動揺が揺れる。


 だが、すぐに冷静さを取り戻し――疑惑の眼差しをエドワード公へと向けた。


「……エドワード公、あなたの話には、何一つ確かな証拠がない。

 ヒヨリを餌にして、我々王血部隊を操ろうとしている可能性もある」


 シシンの言葉とともに、地下牢の空気は再び凍りついた。


 その時、エドワード公の腰の通信機が鳴り、作戦本部からの一斉通信――

 シシンから総指揮権を引き継いだカエイの声が飛び込んできた。


『状況は把握した。だが現状、戦力に余裕がなく、支援可能な班がない。

 戦力が整うまでの間、ニイニセンと協力してガブリエウを足止めせよ。――無理はするな』


 エドワード公は静かに息を吐いた。


「シシン殿、もはや時間がありません。確かに私には証拠がない。

 だが今、動かねば――本当に手遅れになる。

 ヒヨリ殿に関して、私ができるのはここまでです。

 あとはシシン殿、あなた自身が進む道を決断するほかありません」


 そう言うと、エドワード公はアモン陛下に向き直り、片膝をついて力強く頭を垂れた。


「陛下……!

 この件が落ち着いた暁には、どのような処分も甘んじてお受けいたします。

 ですが今は――我が愚息どもの暴挙を止めることこそ、私の責務。

 どうか、もうしばしの猶予をお与えください!」


 アモン陛下はゆっくりとシシンへと視線を移す。

 シシンの掌には、いまだ淡い魔力が揺らめいていた。


 陛下はわずかに表情を緩め、静かな声音で告げる。


「シシンよ、行かせてやれ。

 ――私は、エドワードの覚悟を信じよう」


 シシンは短く息を呑み、しばし逡巡した。

 やがて、掌の魔力をゆっくりと解く。


「……御意」


 その声には、隠しきれない迷いが微かに滲んでいた。


 エドワード公は深く一礼し、毅然とした態度で立ち上がる。

 そして地下牢を出ようとしたとき、シシンの傍を通り過ぎた。


 その刹那、二人の視線が交錯する。


 言葉を交わすことはなかったが、

 互いの胸には、抑えきれぬ複雑な感情が確かに渦巻いていた。


 エドワード公はシシンを見て小さく頷くと、静かに背を向け――地下牢を後にした。





 地下牢に残されたシシンは、拳を固く握りしめた。


 エドワード公の言葉は、すべて正論だった。

 それにヒヨリの精神状態を考えれば、放置など論外だ。

 少なくとも彼女の居場所を突き止め、身の安全を確保しなければならない。


 最近、ヒヨリのこととなると冷静さを欠く自分に、シシンは苛立ちを覚えていた。


 その時、新たな足音が地下牢に響いた。


「シシン君!」


 イチイセン――ユラ、サラ、シシカの三人が駆け込んでくる。

 三人とも緊迫した面持ちで辺りを素早く見渡した。


 間髪入れず、シシカの通信機から作戦本部の切迫した声が飛び込んでくる。


『待て……ヒヨリが本当に攻撃しているのか!?

 諜報部隊・五、状況が理解できない!』


 もはや一刻の猶予すら許されなかった。


 シシンは眼鏡に手をやり、軽く位置を直す。

 短い“間”ののち、低く鋭い声で命じた。


「シシカ――一斉通信を立ち上げろ」


「はっ、はいっ!」


 シシカが動揺を押し隠しながら通信機を起動し、シシンへ向ける。


 シシンは迷いのない声で命じた。


「甲種部隊長シシンより、全部隊へ通達。

 エドワード公とヒカルは無実だ。繰り返す――両名は無実である。

 各隊、両名と接触次第、その行動を全面的に支援せよ!」


 息を継がず、さらに言葉を重ねる。


「それからヒカル!

 新魔法“モラタ”を使用した状態なら、支援が可能なはずだ!

 すぐに諜報部隊・五の救出に向かえ! 俺もすぐに合流する!」


 数秒の沈黙ののち、通信機から勢いのある声が返ってきた。


『こちらヒカルっ! 直ちに諜報部隊・五の救出に向かいますっ!!』


 その声を聞いた瞬間、

 シシンの口元には、確信と覚悟を帯びた微かな笑みが浮かんでいた。


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