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幕間:静かな再生

 ――御前会議から、一か月後。


 シングウ城の外縁に、新たな研究施設が完成した。

 名は「魔法試打所」。“魔女の嫉妬”を無効化するために建てられた実験施設である。


 ここでは、あらゆる属性の魔法効果が遮断される。

 ただし発動の瞬間だけ、床下の感応板が反応して青く灯る。

 新魔法の開発に際し、魔法効果を遮断しつつも、発動そのものが成功したかどうかは認識できる仕組みだ。


 また、もし“魔女の嫉妬”が発動していれば、青に赤が混じる――。

 青は安全、赤は危険。

 その単純な指標が、王国に再び「希望」という名の光を灯していた。


 本日、その完成を祝う記念式典が盛大に催されている。

 王族や高官、御前会議に列席した貴族らが一堂に会し、

 壇上では、試打所実現の功労者としてガスポールとヒヨリが勲章を授与されていた。


 拍手が広がる。

 だが、その中心に立つヒヨリの瞳は、どこか遠かった。

 拘置所を出たあと、彼女は王血部隊からの離隊を申し出ていた。


 『グロリア修道院で、まだ罪を犯していない“未来のテロリスト”たちを裁いてしまいました。

  その過ちは……どれだけ時間が経っても消えません』


 そう言った彼女に、ガスポールは何も返せなかった。

 現在、ヒヨリは王血部隊を離れ、魔法書室の職員として静かな日々を送っている。


 一方、ヒカルの心は、救護訓練襲撃事件のあと、完全に止まっていた。


『だから俺たちは、これからもずっと――

 “ひたすら前に進み続ける最強のコンビ”なんだ』


 モラタの最後の言葉が、何度も頭をよぎる。

 けれど、自分には何の力もない。


 ただ空虚な時間が過ぎていくだけだった。


 せっかく仲良くなったカイトやミヤコと顔を合わせても、

 もう何を話せばいいのか分からなかった。


 二人の気遣いさえも、どこか遠くの出来事のように感じてしまう。

 結果、会話はほとんど途切れ、ただ形式的な挨拶だけが交わされる日々が続いた。


 そんなある日――。

 ヒカルは、ふと“戦闘訓練場・弐”を訪れた。


 そこでは、泥と汗にまみれたエミリが倒れていた。

 フウコやシスイの高度な訓練についていけず、何度も叱責され、それでも立ち上がっていた。


 息も絶え絶えで、指先が震えても――諦めようとしない。


「……何やってんだよ」


 思わず漏れた声。


 それは、かつて「これでも私、優秀なんです」と胸を張った彼女への苛立ち――

 いや、彼女にそんな言葉を言わせた自分への苛立ちだった。


 そして、モラタに救われた命でありながら、何ひとつ変わろうとしない言い訳を並べていただけの、自分自身へのどうしようもない歯がゆさでもあった。


 その日を境に、ヒカルは何かに取り憑かれたかのように魔法書室に籠もり始めた。


 その傍らで、ヒヨリは静かに彼を見守っていた。


 ヒカルもまた、分からないことがあるたびにヒヨリを頼りながら、

 少しずつ笑顔を取り戻していった。


 互いに言葉は少ない。

 けれど、その静けさの中に――確かなぬくもりがあった。


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