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幕間:正ザクロス教会

――正ザクロス教会――


 ステンドグラスの割れた窓から、冷たい光が差し込んでいる。


 首都シングウの外れ、かつて信仰の象徴と呼ばれた正ザクロス教会。


 その地下深く――

 外界から隔絶された石造りの研究室に、重く鈍い扉の閉まる音が響いた。


「……どういうことだ」


 湿った空気を震わせる低い声。

 黒衣を纏った若い男が、怒気を押し殺すように呟いた。


「なぜヒヨリが――拘置所の外に現れたのだと訊いている!」


 怒号が鋭く空気を裂く。

 問い詰められた男は蒼白になり、膝をついて頭を垂れた。


「も、申し訳ございません! で、ですが、拘置所の監視は万全でした。

 ヒヨリが脱出することなど不可能です! 監視役も“ヒヨリは一日中独房にいた”と証言しておりますし、脱出の痕跡もまったく――」


 黒衣の男は瞼を閉じ、苛立つ息をひとつ吐いた。

 脳裏をよぎるのは、昨夜の民衆の熱狂――“復活したヒヨリ”の報せ。


「……つまり、外で目撃されたヒヨリは偽物ということか」


 低く、冷たい声。

 その瞳が、蝋燭の灯を鋭く反射した。


「……ガスポール。あやつめ――そういうことか」


「い、一体どういうことでしょうか……?」


 黒衣の男はゆっくりと顔を上げた。

 淡い蝋燭の灯が、その端正な横顔を照らし出す。


「御前会議で披露された“フェルミミック”の実演……。

 あの時、奴らは能力の一部をあえて伏せていたのだ。

 ミロからシシンに移ったフェルミミックは、術者本人だけでなく――他者にも“変身”を付与できる。

 ……そう考えれば、すべて辻褄が合う」


 問い詰められた男の顔がさらに青ざめた。


「そ、そんな……では、我々の計画は――」


「もはや猶予はない」


 黒衣の男は椅子から静かに立ち上がった。

 蝋燭の炎が揺れ、壁に伸びた影が不気味に歪む。


「ガスポールが民衆の支持を掌握する前に、我々は目的を果たす。

 ……すぐに準備にかかれ」


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