第21話-1:儀式当日――終
第21話、長くなったので2話に分けます。
『……一回死んどけ、このタコが』
パオタロがニヤリと笑ったのが、声の響きだけで伝わってきた。
でもすぐに真顔に戻ったみたいで、低く抑えた声に変わる。
『今から作戦を話す』
その言葉に、軽く頷いた。
次の一手を待つ兵士――なんて格好良くはないけど、全身がギュッと緊張で固まっていく。
『お前はずっと役立たずだった』
いきなりの言葉に、思わず顔をしかめる。
『おい、そういうのはもういいって言ったろ!』
『黙って聞け! 結果として、お前はガブリエウに“無視できる存在”だと思わせることに成功したんだ。これは大きな成果だ。それに広間は、もうどれが誰の血肉かも判別できない状態だ。ガブリエウは俺がまだ生きてるなんて考えもしちゃいないはずだ』
……なるほどな。
――確かにガブリエウは俺たちを完全に意識の外に置いている。
つまり今なら――奴の隙を突ける可能性があるってわけだ。
『今、戦況は膠着している。
この均衡を崩せるのは、実質“存在していない俺たち”だけだ』
パオタロの声には、静かな決意が滲んでいた。
『だけど、属性解放しないと強い魔法って使えないんじゃないのか?
今の俺たちに何ができるんだよ。戦闘が始まってるこの状況では“火竜”で追い払うことも難しいだろ?』
『……ガスポール先生から教わった“魔法科学”を使う』
『魔法科学……?』
思わず眉をひそめる。全然ピンとこない。
その反応を見て、パオタロは小さくため息を吐いた。
『……いい。俺の言う通りにやれば爆発する。
お前に期待してるのは土属性と風属性の基本魔法だけだ。
俺は潜伏魔法で魔法器を消耗していて、他の魔法まで手が回らないからな』
土と風の基本魔法――ラァラに教わっておいてマジで助かった。
『なんだ、簡単そうじゃん』
半分は虚勢、半分は本心だった。
パオタロはその軽口に一瞬だけ苛立つ気配を見せたが――すぐに流した。
『今からあいつを殺る』
パオタロの視線の先では、ライクンとガブリエウが激しくぶつかり合っていた。
その声には、揺るぎない決意が乗っている。
『俺たちはここからだ。ヒカル』
『当たり前だろ、パオタロ』
二人が短く交わしたその言葉には、これから始まる戦いへの覚悟が滲んでいた。
◆
「隊長はガブリエウを圧倒している!
隊長が闘いに集中できる環境を作ることが我らの役目だ。
とにかく雑魚を隊長に近づかせるな! いいな!?」
「おおっ!!」
警備隊の士気は明らかに高まっていた。
だが――ガブリエウと対峙していた当のライクンだけは、戦いの中で徐々に強まる“違和感”を無視できずにいた。
――周りから見れば、私が圧倒しているように見えるかもしれない……が違う。
たしかに、私の攻撃は一方的だ。
だが実際は、ガブリエウが巧みに受け流しているだけ。決定打には程遠い。
ライクンは血煙と叫びが飛び交う広間を鋭い目で見渡す。
――ガスポール殿は王族と列席者の避難を完了し、すでに離脱されたようだな。
だが、大火力を使えば味方を巻き込む……火属性を強みとする私にとって、この状況は不利、か。
焦燥が胸を刺す。
ライクンは深く息を吐き、内に渦巻く感情を押しつけるように沈めた。
静かに決意を固める。
――ならば、少し誘ってみるとしよう……!
「おい小僧! いつまで亀のように籠もっているつもりだ?」
広間に挑発的な声が響く。
それに応じるように、ガブリエウが余裕の微笑みを浮かべて返す。
「ボクはあなたのことを殺したくないんですよ。貴重な人材ですから」
「ハハ、私をいつでも殺せるかのような言い方だ」
「それは失礼いたしました。ライクン、ボクはあなたを尊敬しているのです」
「それは光栄だな」
ライクンは一瞬、ガブリエウの“妙に軽い”言葉に違和感を覚え、目を細める。
――やはり、彼奴にはテロと連動した目的があるということか。
だが――時間稼ぎならこちらに好都合だ。
今頃テロは鎮圧され、王血部隊最強の『イチイセン』がこちらに向かっているはずだからな。
その時だった。
シングウ城の近くで、爆竹のような乾いた音が鳴り、続けざまに花火が二度上がった。
「……え!? なんだとぉ……!!」
ガブリエウの顔色が一瞬で変わった
「……はぁ? あの兄上がぁ!? こんなに早くぅ!?」
目は大きく見開かれ、唇は痙攣している。
「おっかしいよねぇ!? ボクのほうはさぁ!! あとちょっとだったのにさぁああああ!!」
先ほどまでの余裕は完全に消え、ガブリエウは驚愕と焦燥に歪んだ表情のまま頭を掻きむしる。
混乱と怒りに震えるその姿は、広間全体に張りつめた緊張をさらに強めた。
ライクンの目が鋭く光る。
わずかな隙を見逃すまいと、冷徹な判断力が瞬時に反応する。
――勝機……!
しかし次の瞬間、ガブリエウの表情は再び不気味なまでの満面の笑みに変わった。
得体の知れない微細な粉末が舞い上がり、その身体を包み込む。
その姿はまるで霧の中へ溶けるように消えた。
そして、舞い上がった埃が炎に触れた瞬間――。
耳をつんざく轟音とともに、広間を揺るがす爆発が巻き起こった。
◇
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『粉塵爆発だ』
パオタロの口から出た作戦は、にわかには信じがたいものだった。
『土属性には物質生成の特性がある。合図したら、お前の正装着から埃を生成しろ。
ポイントは“微細な布からできた埃”であることと、それを“大量”に生成するってことだ』
思わず眉をひそめたが、ラァラに叩き込まれた基本魔法の知識が頭に浮かぶ。
土属性には“物質生成”の特性がある――たしかにそう教わった。
正装着から埃を生み出すイメージを描くと、
すぐに白っぽい細かい埃がポロポロ……いや、際限なく湧き出してきた。
『そうだ。その調子で大量に作れ。
あとは、風魔法で一気にガブリエウのいる場所まで飛ばせ。
奴を濃い霧のように埃で包み込むイメージだ。そこに火を付ければ、爆発する』
爆発って……つまり、それで奴を吹き飛ばすってことか。
――人を殺すってことだよな……。
ついさっきまで「俺がぶっ殺してやる」なんて息巻いてたくせに、
いざ現実になると胸の奥が鉛みたいに重く沈んでいく。
言葉にするのは簡単でも、実際にやるのは……こんなにも重いのか。
ゴクリと唾を飲み込む。
想像するだけで胃が冷たくなる。けど――やるしかない。
汗ばんだ手のひらを握りしめながら、黙って頷いた。
『……わかった。で、埃は潜伏させるのか?』
『当然そうしたいところだが、一つひとつの埃まで潜伏させるのは今の俺には無理だ』
『あー、そっか。埃一粒ずつ別扱いになるのか……』
納得したように口にはしたが、胸の奥では複雑な感覚が渦巻いていた。
『だから、まずは埃を視界に映らない薄霧みたいに散らして床に流すんだ。
ガブリエウの後方に集めてから、一気に舞い上げる感じで頼む』
パオタロの声には、普段よりわずかな緊張が混じっていた。
『……火は俺が付ける』




