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浸透世界のデリット  作者: 朝露 壱
第一章 魔術師アルト・クレッシェード
7/9

1-6 「信用」

「・・・」


―――まだ、私達はあなたを信用した訳ではありません。


(・・・信用)


アルトは第零部隊の待機室で、フレルルの言った言葉を思い出しながら考え込むように椅子に座る。

幼い頃から迫害を受けてきた自分は、信用という言葉を信用していない事もまた確かで、その事実は否定できない。


(・・・だから、信用されていなくても当然だ)


静寂に包まれた部屋で溜息を吐く。

他の隊員たちは皆出かけているか仕事でこの待機室にはほとんど居ない。


「・・・何してるんだ?」

「なぁ、図書館か本あるところ、重荷魔術書、魔法書が置かれた場所とかって無いか?」

「それならアウローラ国立図書館があるが・・・何するんだ?」

「・・・ストレスを発散するために魔術の勉強でもしようかと」

「それならコレを持って行け。特別待遇されるぞ」


そういって手渡されたのは手帳の様な物だった。


「サンキュ」


短くそれだけ言うと、アルトは待機室を後にした。

溜息を吐いた後、クロウはアルトの顔を思い出す。


(・・・全く。・・・警戒心くらい解けばいいと思うんだが)


そういえばアルトは、エルドの樹に育てられたという事は聞いたが・・・というか知っているが、何故エルドに育てられているのか、という事は聞いていない。

・・・だが、いつか自身から話すだろう。


「クロウ」


後ろを振り向くとソコに居たのは、赤い髪の女性――もとい、第一作戦隊長のルルーシャだった。

クロウは顔を歪め、ルルーシャを冷たい視線で眺める。


「・・・随分と気に入ってるようだな。あの、アルトという少年」

「だからなんだ」

「・・・アノ少年から、禍々しい魔力を感じるぞ」

「・・・」


禍々しい魔力・・・というのは、知っていた。

アルト・クレッシェードの持つあの禍々しい魔力の正体こそ掴めはしなかったが・・・。


「だから、何だ?」

「・・・ふむ」


フッと笑うルルーシャは、クロウを眺める。

その視線は、まるで観察するような物だった。

あまり気分のいい物ではなく、クロウは顔をしかめる。


(・・・コイツのこういう視線が嫌いだ)


ルルーシャとは長い付き合いだ。

実際は彼女の方が実力は上だろうし、権力さえも上だろう。

クロウの入隊試験の際、彼女が試験管で試験を見ていたのだが・・・まぁ、その話はまた今度にしよう。


「よほど、気に入っているのだな」

「・・・」

「血が騒ぐ、という奴か?」


・・・アルト・クレッシェードと出会った、エルドの木の下で感じた違和感。

何故か始めてあった様な気がしない、あの感覚。

いまだ、消えてはいない、不透明な感情は、血が騒いだというものではなく。


「・・・血が騒いだ、か・・・。いや、コレは魂が騒いだ、と言う奴だ」

「・・・魂、ね」


最初に出会った時、記憶が騒ぎ、心が騒ぎ、魂が騒いだ。

不透明な感情は、俺を長い眠りから覚ますかのように。


(エルドに育てられた者・・・だというわけじゃない。・・・違う。もっと、大切な物だ。・・・忘れていた、何か)


「そうか。・・・クロウ。私はあのアルト・クレッシェードがどうしてもいけ好かない。何故だかわかるか?・・・魂が、騒ぐからだ」


それだけ言うとルルーシャはカツ、と靴を鳴らしながら部屋を去っていく。

俺はしばらく黙り込んだ後、同じくして部屋を後にした。







アウローラ国立図書館。

約一億以上の図書が置かれており、数々の魔術書、魔法書が置かれ、主に利用する者としては魔術師、魔法使い、魔法戦士が多い。

図書館自体は数千年という長く古い歴史を持っているが、建物自体は歴史を感じさせない美しい物だった。

図書館の周辺には魔法陣が多々存在し、結界系の物で魔物から護っている様だ。

周辺を見渡すと、噴水がいくつか設置されている。

噴水といっても、水にかなり近い状態の魔力の粒子だ。

アルトは一頻り周りを見渡した後、図書館の受付まで向かった。


「あの」

「あ、ハイ。何でしょうか?」


受付譲は営業スマイルを向ける。

アルトはクロウから受け取った手帳を見せた。


「あぁ。アウローラ魔法騎士団の方ですね?どうぞ、ご案内します」


案内されるまま、中へ移動していく。

昼間だと言うのに館内は進むたびに薄暗く、灯りは何時の間にか受付嬢の持っていたカンテラ(ランプ)だけになっていた。

けれどもそれだけではほとんど灯りが足りず、アルトは火の精霊の力を借りて右手に小さな炎を灯した。

しばらく歩いていくと、巨大な扉があった。

巨大な扉には何か紋章が刻まれているようだが、この暗さでは良く見えない。

鍵の様な物を取り出し、受付嬢は鍵穴へと差し込んだ。

大きな音を立てて、扉は開いていく。


―――パチンッ


炎が周囲を徘徊し、蝋燭へくまなく火を灯していく。


「どうぞ。ご自由にお楽しみください。お帰りになる際は、コチラに置かれてあるテレフォンをお使いになって私をお呼びになってください」

「あ、ハイ」


それだけいうと、受付嬢は去って行った。

館内―――特別待遇と呼ばれるこの部屋の周辺を見渡した。

一般に開かれているあの館内とは違い、本棚が多く壁には強力な紋章が描かれている。

一切の敵を外部から護る強力な物だ。・・・一体誰が描いたのだろう。

壁に手を置くと、手が弾かれた。


「・・・ッ」


手のひらを見ると、チリチリと自分の魔力が粒子となって空へ消えて行く。


(・・・エナジードレイン系)


魔力を吸収する系統の結界も描かれているみたいだ。

常人(・・)なら、この結果に触れただけで全ての魔力を吸収され、身体が疲労するだろう。


(俺は普通じゃない、からか)


「・・・本、見てみるか」


本棚から一冊、本を取り出して表紙を開いてみた。

白いページには、蒼い光っている文字が描かれている。

その文字は、今では存在するはずのない古代魔術文―――古代魔術が記された物だった。

古代魔術は普通の一般的に使われている魔術とは全く違う。

力の根源となるのは魔力ではなく、《魂》。

《魂》の力が、《魂》の純度が力へと変換される。

古代魔術は、《魔法》、そして《魔法》より強大と呼ばれる《魔術》とは違う強大な力を秘めている。

古代人、かの英雄《勇者》が使用していたといわれる力だ。

そして、その古代魔術をベースに作られたのが魔術と、魔法。

アルトはページをめくりつつその文を詠んで行く。

文の文字は、ユラユラと青い炎を灯す。

・・・読めるわけ無い文字が、頭へと次々に入り込んでいく。


「・・・《古代魔術》・・・《聖母マリア》・・・《ガブリエル》・・・?」


古代魔術の形式と、そして聖母の名、そして上位天使の名前が描かれていた。

一ページ目の最後には。


「《人工天使アイリス》・・・?」


人に造られた天使、人工というのは、そういう意味だろうか。


(・・・だが、人工の天使なんて・・・在り得ない)


「あれ?アルト君?」

「ッ!?っだ!?」


驚いて本が手から滑り落ちて本の角が足へ直撃する。


「だ、大丈夫?」

「・・・泣きそう」


レイスはアルトの顔を除きこんだ。

痛みを堪えて本を拾って表紙を開く。


(・・・!?)


そこには、文字なんて何処にも描かれてはいなかった。


「どうしたの?」

「あ、いや。何でもない・・・」


慌てながら本を本棚へと押し込む。


「ところで何で此処に?」

「あ、俺は魔術の勉強でもしようかと思ってな。・・・レイスは?」

「あーっと・・・。僕はたまに此処で読書をしてるんだよ」

「そ、そうなんだ」

「初めてなんでしょ?此処に来るの」


そういうとレイスは一冊の本を取り出して表紙をめくった。

ページの文字が、淡い灰色の炎を纏って現れる。


「此処の本は、《記憶の本》とも呼ばれてるんだ」

「記憶の本?」

「うん。何処かの誰かの記憶の本。記憶が綴られた、追憶の本」


レイスはクスリと笑ってパタンッと本を閉じた。


「中には不老不死なんて題名の本も在るんだよ」

「へぇ・・・」


彼は静かに笑う。

その笑顔は、冷笑だった。


「僕の本も、一応この中に在るんだよ」

「・・・」

「探しても、他の本の中に埋もれて判らないだろうけどね」

「・・・レイス、お前―――」


――――ドガンッ


館内が大きく揺れた。

衝撃が身体中に伝わって、一瞬倒れそうになる。


「ッ!?」

「・・・結界が」


頭上を見ると天上に描かれていた魔法陣―――結界が、大きく歪み始めていた。

外部から魔法で攻撃されているようだった。

これだけの術式が歪むほどの魔力を受けているという事は、相当な魔力の持ち主か。


「・・・黒仮面か・・・」

「アルト君!」


―――ドンッ


再び館内が大きく揺れた瞬間、魔法陣が爆ぜる。

粒子となった魔力は当たりにガラス片の様に四散した。

と、同時に天井が破壊される。

コンクリートと魔力の粒子が降り落ちる中、黒い影が同時に入ってきた。

誰かが着地する音が聞こえた瞬間、ピリピリとした魔力を肌で感じた。


「―――魔粒子砲(マジック・ホールド)

「!」


ズドンッと言う衝撃が身体を貫く。


「っ痛・・・」


衝撃はまともに受けたものの、外傷は受けなかった。

結界系の魔法陣、シールドを展開していたお陰だった。


「アルト・クレッシェード」

「!?」


シールドを展開したままアルトは顔を上げる。

ソコに居たのはあの黒い仮面の男だった。

黒い魔力を身に纏い、闇を纏うような風貌で静かに佇んでいる。


「お前、何で俺の名前・・・ッ」

「・・・共に来てもらおう。貴様に会わせたい方がいる」

「・・・何処に、誰に・・・」

「魔界、だ。そしてお前に会わせたい方は、魔界の―――」



残虐な王(ブレイク・フレイア)



冷たい声が館内へ響き渡った瞬間、直ぐ横を掠める形で一閃の光が迸り、仮面の男へ一直線に向かった。

が、その攻撃を簡単に避ける男は、更に冷たい目で攻撃した者を見据える。


「・・・」

「レイス・・・?」

「アルト君。逃げてください」


振り向くとそれ以上の冷気の気配を放つレイスが両手に魔力を放ちつつ立っていた。

アルトはグッと唇を噛み締める。


「大丈夫ですよ。僕は。・・・貴方は僕が負けるとでも思っているのですか?」


クスリと冷笑ではなく、今度は普通の笑顔で振り向いたレイスにアルトは頷いて館内を後にする。

レイスは男を再び冷たい眼で見据える。


「貴方には消えてもらいますよ。魔界の使者」

「・・・貴様は・・・」


顔色を変えた男に魔力で作られた剣を携え立ちふさがる。

その剣は淡い灰色の粒子を放っていた。


「・・・貴方にアルト君は差し上げられません」

「・・・判っているような、口ぶりだな」

「勿論、そうですよ。知らなければとっくの間に僕は自分のキャラを通して退散していますから。・・・でも、知ってるからこそ見過ごせない。・・・どうせ彼を《覚醒》させるつもりでしょう?」

「・・・」


今度は目の色が変わり、仮面の男は顔を歪めた。

「・・・貴様等人間は、随分と傲慢だな」

男は静かに呟く。

「俺達の大切な物を、奪っていく」

「・・・ソレは僕の台詞ですよ・・・」

レイスは眼を閉じて、深呼吸をする。

「僕は知っているんだ。彼を―――生まれる遥か前から」

「・・・!」


スッと、レイスは右腕を天へ掲げた。

全魔力がその右腕へ集中する。

今から使うのは、全魔力放出魔法。

魔族程度なら、退ける事が出来うる術だ。

声を静かに潜めて、言葉という呪文を紡げる。



魔力解放(オープン)



呪文の術式は一気に周辺に広がり、巨大な魔法陣が作成される。

魔法陣はレイスの魔力を吸収し、魔力を全解放する。

眼を閉じて、フッと空を仰いだ。

閃光が、当たり一面に迸る。







ズドンッ


「ッ!?」


自身の様な地響きが響きわたり、図書館は爆発を起こした。

空を見ると空に描かれた国を護る結界系の魔法陣が大きく乱れていた。

今にも壊れそうだ。


「レイス・・・」


アルトは図書館を呆然と見つめる。

魔力の波動は、完全に消失している。


「・・・生きている、よな」


いや、生きている。

魔力を全解放したのかもしれない。

周囲を見渡すと突然の爆発に驚く住民達が混乱していた。

すると突然後ろから大きな声が響き渡る。


「アルト!一体何が起きている!」

「・・・クロウ」


今までに起きた事を話し、クロウは頷いて図書館を見上げる。


「・・・アイツの事だ。無事だ」

「・・・」

「・・・それよりもお前だ。顔色が悪い。大丈夫か?」


言われて見てアルトは自分の顔を窓ガラスに映した。

確かに顔色が悪く、気が付けば吐き気を感じていた。


「・・・う・・・」

「アルトッ!」


吐くと同時に後ろから様々な声が聞こえてきた。

どうやら第零部隊の総員達の声と足音みたいだ。


(・・・何だか、気乗りしない)


アルトは一頻り吐いた後、空を虚ろな目で見る。

破壊されかけた魔法陣が宙を徘徊している。

魔法陣は青く澄んだ色で、国を護るように―――。


「・・・」


スッとアルトは両手を空に向けて差し延べる。

魔力が両手に集中して一気に放出され魔法陣が少しずつ再構築されていく。

前ほどの強力な結界は作り出すことは出来ないが、魔物程度なら退ける力を持つ結界を造った。

フッと身体中の力が抜けて、その場に倒れこむ。


「アルトッ!」


第零部隊の面々の顔が見える。

アルトは眼を細め、何とか意識を紡ぎながらもボォッとした意識の中で声を聞く。

声は静かに意識の中を曖昧に回りだす。


「・・・直ぐに私が回復いたしますわ」


アルトは回復しようとするフレルルの腕を掴んで、魔法の発動を妨害する。


「・・・何故、妨害するのですか?」

「・・・生憎、俺は誰も信じない主義なんでな」


自己治癒魔法で自分の傷を癒し、回復していく。

魔力こそは回復しないが、コレで何とか体は動かせるだろう。

立ち上がって、アルトは図書館内へ向かおうとした。


「待て、何処に行く!アルト!」

「・・・レイスを探しに行く」

「今はあぶねぇぞ!まだ敵がいるかも知れねぇ!」

「なら、大歓迎だ。俺はアイツに言いたいことがある」


アルトはゆっくりとした足取りで、破壊されかけた図書館へ向かう。

仮面の男が言っていた、俺に会わせたい人物が、何故かどうしても気になる。

そして、レイスの事も―――。

相変わらず短い話がダラダラと続いていきますが、多めに見てくれたら嬉しい限りですorz

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