1-4 「戦闘」
「・・・う・・・?」
目を覚ますと朝日が目に飛び込んできた。
周りを見るとまだほとんどが熟睡していて一行に目を覚まそうとはしない。
ビールの瓶がアチコチに乱雑にちらばっていた。
「・・・ハァ・・・」
側にあった脱いでおいたマントを側において、ボォッと空を見る。
(何だか変な夢を見てたみたいだ。・・・にしても、痛みまで感じるとか・・・どんだけリアルなんだよ)
アルトは立ち上がって空を見上げた。
澄んだ空の中、魔法陣が大きく描かれている。
空中に浮かぶあの魔法陣は、この大都市に結界を作っているようだ。
魔物が来ないように、か。
結界には色んな種類があるが、アレは大型の魔除けの種類の結界らしい。
すると後ろからガチャガチャと言う物音が聞こえてきた。
振り向くと機械を弄っている少年がソコに座っていた。
俺よりも年下だろう少年は、俺に気が付くとフッと俺を見た。
「・・・何?」
「あ、いや・・・何作ってるの?」
「・・・戦闘魔法兵器」
戦闘魔法兵器・・・?
アルトは首をかしげて、彼が作っているものをのぞいた。
筒の様な物に魔法石を取り付けているようだった。
魔法石の色は赤で、攻撃タイプの石ではあったが、純度が弱く、攻撃力は低いものだと判断したアルトは、持っていた鉱石の中で標準クラスの物を選んで差し出す。
破壊力が強いと扱いが難しくなるから、コレくらいが調度いいだろう。
「・・・ありがと」
そういって受け取った少年は、嬉しそうに機械にはめ込んだ。
「・・・誰?」
「えーっと。俺はアルト・クレッシェードっていうんだ。昨日、此処の部隊に配属になったんだ」
「・・・アルト。・・・俺は魔道機械製作師、クライト・クライア」
「クライトか。よろしくな」
アルトが手を差し伸べるとクライトはその手を軽く握った。
「・・・」
「・・・?」
ジィッと、コチラを見ているのでアルトは不思議そうに首をかしげた。
・・・何だか最近、色んな奴に顔を見られるような気がする。
「何か顔についてるか?」
「・・・別に・・・。・・・なぁ」
「何だ?」
「・・・お前、兄妹居たりとかする?」
「・・・居ないと思うけど」
「居ないと、思う?」
「・・・俺、捨て子だったから。ずっとエルドに育てられてきたし」
「・・・」
「だから兄弟がいるとか居ないとかは、全く判らない」
「・・・そう」
そう短く答えると、クライトはまた機械に向き直った。
カチャカチャという金属がぶつかり合う音だけが静寂を支配した。
若干、空気が重く感じられる・・・。
・・・嫌だな、この空気。
「・・・ねぇ」
「?」
「アルトは、」
――――ズンッ
地面が沈むような振動を感じて、アルト――――俺は、何とかその場に踏ん張った。
振動で全員が一気に眼を覚まして飛び起きる。
「なんっ何だァ!?」
警報が急に鳴り出し、アナウンスらしき物が響いた。
《――――前方に悪魔を発見。直ちに総員位置に付け》
「チィッッ!オイ!新入り、早く位置に着け!」
「い、位置って・・・!?」
「適当に悪魔を迎え打てばいいんだよ!」
「は、はぁ・・・」
俺は側に置いてあったマントを羽織って、外に飛び出した。
◆
「・・・何だ?あの悪魔は・・・?」
モニター越しで突如現れた悪魔を凝視する。
悪魔の証明ともいえる黒い、暗い魔力があふれ出しているのは確かだが・・・。
・・・それにしたって様子がおかしすぎる。
悪魔らしき者は黒いフードで身を隠し、顔は仮面で隠していた。
暗い魔力をあたりにあふれ出し、城を見続ける。
悪魔はユラリとこちらを見た。
仮面からのぞき見える、赤い、眼が。
コチラを、凝視する。
「!!」
「来ます!!」
悪魔野右手がゆっくりとこちらに向けられる。
その右手が淡い赤い光を放ち、やがてその光は大きくなって、放出された。
「ぐっ・・・」
何とか結界で防いだものの、城はあまり持ちそうにも無い。
コレをこのまま何発も喰らえば・・・。
悪魔が再びその右手に魔力を込める。
詠唱が、小さく聞こえた。
「・・・ッ」
―――――ズドォォォォンッ
砲撃が一斉に何種類にも分かれてコチラにめがけて放たれる。
「っつぅ・・・」
「!」
目の前。
煙が晴れて、結界を造り出して悪魔の前に立っていたのは。
「アルト・クレッシェード!!」
「何!?」
(あの魔砲撃の中を・・・歩いてきたのか!?)
アルト・クレッシェードは何食わぬ顔で、溜息混じりに男を見やる。
男は何も喋らないまま、目の前に唐突に現れたアルトへ視線を変える。
「――――お前。何か喋れよ」
ただ、そう言ったアルトはタンッと音を立てて靴のつま先で地面を叩いた。
巨大な魔法陣が、地面に現れる。
「なっ・・・」
「じゃないと、このまま攻撃するぜ」
「・・・!」
初めて男の顔に焦りが感じられる。
その視線はアルトから、魔法陣へ変わり、直ぐにアルトの顔を見た。
魔法陣が青い光を帯びながら、発動の準備を終える。
アルトは、何とか自分の感情を抑えようと深呼吸を何度も繰り返した。
(幾ら得意な術式だからって・・・簡単に時間を長く費やせるようなものじゃない・・・。早く終わらせないとな)
すると男は一度溜息を吐き、アルトを見る。
「・・・アルト・クレッシェード・・・」
「・・・?」
フッと、視界から男が消えた。
油断していたか、と気配を探るが、その必要は無くなる。
「・・・何故、此処に・・・」
「ッ!」
目の前まで接近してきた男に、反射的にアルトは魔方陣の発動を行おうとした。
だが、魔法陣は破壊される。
粉々に砕け散った、青い破片は、魔力となって消えて行った。
「・・・しまっ」
ガンッ
「!」
思いっきり頭を鷲掴みにされ、まるで脳が揺さぶられるような感覚に陥る。
記憶が、揺さぶられる。
「あ、がっ・・・!?」
忘れていた記憶が、底から浮き上がってくる。
まるで、深海から泡が出てくるように。
忘れかけていた記憶でさえ、溢れていく。
(・・・意識、が)
落ちていく、闇の底へ。
ゆっくりと、瞼を閉じ掛ける。
世界が段々と、色褪せてゆく。
「新米ッ!!防御しろッ!」
「ッ!」
「・・・魔道砲、魔力充電完了」
―――――ズドンッ
青い光が矢となって男の身体を掠めた。
強制的に覚醒させられた頭で、アルトは後方を見遣った。
後方にいたのは、魔道兵器と呼ばれる筒状の物に魔石を埋め込んだ物。
魔石からは、青い光が放出されている。
「・・・ッ・・・」
「・・・クッ」
男が魔法を発動させようとした。
黒い光が男の右手へ集中的に集まってゆく。
「我は魔の力を受け入れし闇。光を受け入れし人共を掃討せし存在である。我の魔力に呼応せし精霊。闇を持って、光を掃討せよ。闇の精霊、汝の力を借りて我は光を掃討せん」
極めて複雑に組み替えられ短く唱えられた詠唱に呼応するように、暗い光がアルトに向かって放たれた。
―――タンッ
再びつま先で地面を叩く。
今度はより複雑な魔法陣へと作り変えた。
「・・・破壊王の審判」
魔法陣から、眩いばかりの赤い光が溢れ出した。
その魔法陣からみえる暗い底の見えない闇から這い上がってきたのは、《鬼》と呼ばれる魔族の中で第三勢力と恐れられる種族だった。
《鬼》は巨大な目玉でアルトを見遣った後、目の前の見知らぬ男に今度は視線を遣った。
《鬼》は奇怪な音を発す。
否、ソレは言葉だ。
人間にとって、音と呼ばれる物に近いだけだ。
『貴様か・・・。我を呼んだのは。・・・貴様が我を呼ぶのはもう何年ぶりになるだろうな』
「・・・は?」
アルトは首をかしげた。
何故ならアルトは《鬼》と呼ばれる存在を召喚するのは初めてだったからだ。
正直なところ、今までならあまり召喚術と呼ばれる魔術儀式など興味は無かったが、今回だけは相手に合わせてソレ相応の力の持ち主に頼ろうと、魔の存在である《鬼》に頼っただけなのだが。
《鬼》はアルトを見遣る。
『なるほど。貴様・・・禁忌を』
「・・・?」
『記憶が無いのか・・・まぁいい。今回は手を貸してやろう』
《鬼》は咆哮する。
その咆哮に呼応するかのように、術で操られたドラゴンが姿を現す。
「な、なんだぁ!?」
「・・・召喚術・・・」
「あ?んだソレ?」
「・・・かつて古の時代にあった忘れられた魔術儀式。魔の存在と契約を果たした末に習得できるという高等技術の上、エルドの守護を受けた者しか使用は硬く禁じられているはずだが・・・」
(それ以外に考えられるとなれば・・・)
すると《鬼》が一際大きい咆哮を上げた。
天にまで響くその咆哮は、魔力に変換され魔術と化して天から地へと再び帰ってくる。
さながら、散弾銃の弾丸の如く、光となって。
「グッ・・・」
このままでは危険と判断したのか、男はドラゴンと共に消えて行った。
さながらメテオと化した光の散弾は、ゆっくりと収まっていく。
後に残ったのは、《鬼》と、静寂だけだった。
その静寂を破ったのは、クロウ・デリットで、口を開く。
「《鬼》・・・本当の名前、あるんだろ?教えてくれねぇか?」
『何故貴様に?』
「また呼び出すかもしれねぇし・・・。またあんな奴出てきたら召喚術くらい使うかもしれない。それに《鬼》じゃ呼びにくいしな。別にいいだろ?減るもんじゃないし」
『・・・』
《鬼》は一瞬黙った後、口を開く。
『我が名は、鬼族第一級鬼神、《クロト》である。・・・人間、アルト・クレッシェードよ。我が名を心して受け取るが良い』
それだけ言うと、鬼神は消えて行った。
周りはクロトとの会話など勿論聞こえるはずもなく唖然とこちらを見ている。
アルトはソレに気付いて、全員の方を振り向いた。
(気まずいんだけど・・・どうしたらいいんだよ)
「え、えーっと・・・終わり、ました・・・」
その声に、しばらく沈黙していたが、やがて全員が歓声を上げた。
「新米スゲーッ!」
「頼もしいぜ!これから宜しくな!」
「え、あ、いや・・・」
顔が火照っているのに気付いて、アルトは急いで顔を隠した。
何だか嬉しいけれども、恥ずかしい。
「よっし!今日は勝利祝いにパーティーだ!」
(えぇぇぇぇ!)
昨日に続けてパーティーをまたするのか。
苦笑しながら、アルトはそのまま小隊の皆に連れられその場を後にした。
◆
「・・・報告します」
黒い仮面を被った悪魔は、ゆっくりと頭を下げ、ひざまづいたまま俺の顔を見た。
この悪魔の名は、誰も知らない。
なんて呼べばいいか迷った末、本人が《ナニカ》と呼んで欲しいと、そう言った。
俺は玉座に座ったまま、その男の報告を聞く。
王間は、静寂だけが支配している為、しばらく沈黙していた男がゆっくりと口を開く。
「・・・魔族同様の魔力を持つ人間と今日、対峙しました」
「・・・魔族同様の、魔力」
そんな人間は未だかつて、1人しか知らない。
勿論、ソイツだって人間ではないが、人間としての存在に近い者だったことは間違いない。
「・・・ソイツの名は、聞いたか」
「・・・・アルト・クレッシェード、と」
「・・・何?」
アルト・クレッシェード。
・・・なるほど。それが、名か。
胸に光る青い石のペンダントを握り締め、仮面の男を見遣る。
「報告ご苦労・・・。・・・興味があるな。そのアルト・クレッシェードとやらは。・・・一度会ってみたい物だ」
そういうと、俺は玉座から立ち上がって笑う。
「《ナニカ》に命ずる。アルト・クレッシェードを我の元へ連れて来い」
「・・・ハッ」
仮面の男は煙となってこの場から消える。
青い石のペンダントは、青い輝きを放ちながらこの暗い世界を映している。
アルト・クレッシェード。
何故その名が、今語られるのか。
どこかで、あの《魔術師》が微笑んでいるような気がした。




