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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第7話 初めての三人旅と、森に潜む魔物

カイゼル、リリア、そしてセレス。

それぞれ違った個性を持つ三人は、魔力異常の調査を通じて行動を共にすることになった。

まだ出会って間もない彼女たちとカイゼル。

そんな三人が次に受けるのは、街の外にある森での魔物討伐依頼だった。

しかし、その森では、通常の魔物とは違う異変が起きていた。

「よーし! 今日も頑張ろう!」

朝の冒険者ギルドに、リリアの元気な声が響いた。

「……朝から声が大きいな」

「いいじゃん! 元気なのは大事だよ!」

カイゼルが軽く息を吐くと、隣にいたセレスが微笑んだ。

「ふふっ。リリアさんらしいですね」

「でしょ? セレスも今日はよろしくね!」

「はい。私にできることなら、精いっぱい頑張ります!」

三人は掲示板の前に立った。

今回の目的は、街の西に広がる森林での魔物討伐。

近隣の村から、森に棲む魔物が増えているという報告が届いたらしい。

「討伐対象は、牙狼が数匹……か」

カイゼルは依頼書を確認した。

牙狼は群れで行動する狼型の魔物だ。単体ならそれほど強くないが、連携して獲物を追い詰める習性がある。

「私に任せて! 素早さなら負けないよ!」

リリアは胸を張った。

「……群れ相手に一人で突っ込むなよ」

「分かってるって!」

「昨日も似たようなことを言っていたな」

「うっ……今日はちゃんとするもん!」

そのやり取りを聞きながら、セレスが小さく手を挙げた。

「あの、私は後ろから回復と補助を担当しますね。必要なら防御の結界も使えます」

「……頼りにしている」

「はい!」

受付で依頼を受けた三人は、街の西門から森へ向かった。

◇ ◇ ◇

森に入ると、木々の隙間から柔らかな日差しが差し込んでいた。

鳥の声が響き、風が葉を揺らす。

一見すると、穏やかな森だった。

だが、カイゼルは歩きながら周囲を観察していた。

「……静かすぎるな」

「え? そうかな?」

リリアは首を傾げた。

「鳥の声はする。でも、地面に残る足跡が多い割に、ほかの小動物の気配が少ない」

「それって、どういうことですか?」

セレスが尋ねる。

「魔物が増えて、小さな生き物が逃げているのかもしれない」

カイゼルはしゃがみ込み、土に残った足跡を確かめた。

牙狼の足跡。

しかも、一匹や二匹ではない。

「……依頼書に書かれていた数より多い可能性がある」

リリアは短剣を抜いた。

「じゃあ、気をつけないとね!」

「そうだな。二人とも、俺から離れすぎないように」

「了解!」

「分かりました」

三人は警戒を強めながら、森の奥へ進んでいった。

しばらく進むと、木の根元に小さな荷車が倒れているのが見えた。

その周囲には、破れた袋や散らばった木箱が転がっている。

「……誰かが襲われたのかな」

リリアが近づこうとした。

「待て」

カイゼルが手で制する。

荷車の周囲には、牙狼の足跡がいくつも残っていた。

だが、それだけではない。

地面には、何かを引きずったような跡もある。

「……まずは周囲を確認する」

カイゼルは魔力を薄く広げ、周囲の気配を探った。

すると、少し離れた茂みの向こうから、複数の魔力反応が返ってきた。

「……いるな」

「牙狼?」

「おそらく」

カイゼルが視線を向けた直後、茂みが大きく揺れた。

飛び出してきたのは、灰色の毛並みを持つ魔物たち。

一匹、二匹、三匹――。

さらに奥から、もう数匹が姿を現した。

「わっ、思ったより多い!」

リリアが構えを取る。

牙狼たちは三人を囲むように広がり、低い唸り声を上げた。

その動きは、ただ獲物に飛びかかるだけではない。

互いの位置を確かめながら、逃げ道を塞ごうとしていた。

「……連携しているな」

カイゼルは静かに呟いた。

「リリア、左側を頼む。深追いはするな」

「分かった!」

「セレスは後方から援護を。危険を感じたら、すぐに結界を張ってくれ」

「はい!」

カイゼルは正面の牙狼たちへ向き直った。

「……来い」

牙狼の一匹が飛びかかる。

カイゼルは身体をわずかに傾けて攻撃をかわし、手のひらを向けた。

「魔性――衝撃変換」

魔力の性質を変え、相手の勢いを横へ逸らす。

牙狼は地面を転がり、仲間の進路を塞いだ。

その隙に、リリアが駆け込む。

「そこっ!」

短剣が閃き、一匹の牙狼が倒れた。

「よしっ!」

しかし、喜ぶ間もなく別の牙狼が横から迫る。

「リリアさん、右です!」

セレスの声が響いた。

「えっ、わっ!」

リリアは反射的に身をひねり、牙狼の突進をかわした。

「ありがと、セレス!」

「まだ来ます!」

セレスが杖を掲げると、淡い光がリリアの身体を包んだ。

「身体強化の補助をかけました! 少しだけ動きやすくなるはずです!」

「助かる!」

リリアは地面を蹴り、牙狼の懐へ踏み込んだ。

先ほどよりも素早い動きで攻撃をかわし、短剣を振るう。

一匹、また一匹と、牙狼が倒れていった。

カイゼルは二人の動きを確かめながら、残る魔物を迎え撃つ。

三人の連携は、まだ完璧ではない。

それでも、リリアは仲間の声を聞き、セレスは戦況を見ながら必要な支援を行っている。

「……悪くない」

カイゼルが呟いた、そのときだった。

森の奥から、ひときわ大きな唸り声が響いた。

グルルルル……!

残っていた牙狼たちが、突然動きを止めた。

そして、何かに怯えるように後ずさり始めた。

「……何だ?」

カイゼルが森の奥を見つめる。

木々の間から、巨大な影が現れた。

通常の牙狼よりも二回りは大きな身体。

黒ずんだ毛並み。

そして、額から伸びる歪んだ角。

「うそ……。あれ、牙狼の群れのボス?」

リリアが息を呑んだ。

セレスも顔を青ざめさせる。

「でも、あんな姿の牙狼は、聞いたことがありません……!」

巨大な牙狼は、三人を見つめて唸った。

その身体から、濁った魔力が漏れ出している。

カイゼルの目が細くなった。

「……この魔力」

昨日の魔石で感じたものと、よく似ている。

ただし、今回はもっと濃い。

まるで、何かに無理やり魔力を流し込まれたかのようだった。

巨大な牙狼は地面を蹴った。

「二人とも、避けろ!」

カイゼルの声と同時に、牙狼が突進してくる。

その速さは、通常の魔物とは比べものにならなかった。

カイゼルは魔力を展開し、攻撃の軌道を逸らそうとする。

「魔性――」

しかし、魔力をぶつけた瞬間、異常な反応が起きた。

カイゼルの魔力が、牙狼の身体に触れた途端、乱されたのだ。

「……っ!」

衝撃を完全には逸らしきれない。

カイゼルは横へ飛び退き、爪の一撃をぎりぎりでかわした。

巨大な牙狼の爪が地面をえぐり、土が飛び散る。

「カイゼル!」

リリアが叫ぶ。

「大丈夫だ!」

カイゼルは立ち直り、牙狼を見据えた。

魔力を打ち消すというより、触れた魔力を不安定にしている。

昨日の黒い欠片と同じ系統の異常なのか。

それとも、別の原因があるのか。

まだ分からない。

だが、一つだけ確かなことがあった。

普段どおりの魔法だけでは、簡単には倒せない相手だ。

「……なら、やり方を変える」

カイゼルは周囲の地形を確認した。

巨大な牙狼は、再び突進の姿勢を取っている。

正面から受け止めるのは危険だ。

ならば――。

「リリア! 右へ誘導してくれ!」

「分かった!」

リリアは素早く横へ走り、短剣で牙狼の注意を引いた。

「こっちだよ、でっかいの!」

牙狼がリリアを追って向きを変える。

その瞬間、セレスが杖を掲げた。

「防御結界、展開します!」

淡い光の壁が、牙狼の進路の一部に現れる。

牙狼は結界を避けようとして、進路をわずかに変えた。

その先には、大きな岩があった。

「今だ!」

カイゼルは地面へ手を向けた。

「魔性――地形変化!」

岩の周囲の土が盛り上がり、牙狼の足元を不安定にする。

牙狼は勢いを止めきれず、岩へと激突した。

「グォオオッ!」

鈍い音が森に響いた。

巨大な牙狼がよろめく。

カイゼルはその隙に、濁った魔力の流れを見極めた。

異常な魔力は、胸元に集中している。

「……そこか」

彼は魔力を一点に絞り、牙狼の胸元へ放った。

「聖性――干渉解除!」

淡い光が走る。

濁った魔力の流れが、一瞬だけ途切れた。

巨大な牙狼は大きく身体を震わせ、その場に崩れ落ちた。

森に静寂が戻る。

「……倒した、の?」

リリアが息を切らしながら尋ねた。

「ああ。だが、近づくな。まだ確認が必要だ」

カイゼルは慎重に近づき、牙狼の様子を確かめた。

呼吸はある。

命を落としたわけではない。

そして、胸元から漏れていた濁った魔力は、少しずつ弱まっていた。

「……魔力が落ち着いてきている」

セレスがそっと近づき、牙狼を見つめた。

「この子、苦しんでいたんでしょうか……?」

「……その可能性はある」

カイゼルは牙狼の身体を調べた。

すると、胸元の毛の奥に、小さな黒い欠片が埋め込まれているのを見つけた。

昨日、街で発見したものとよく似ている。

「……やはり、関係があるのか」

彼は欠片に直接触れないよう、魔力で包み込んだ。

その瞬間、欠片の表面に細い筋が走る。

そして、すぐに光を失った。

カイゼルはそれを魔法収納へしまった。

「……街の異変と、無関係とは考えにくいな」

リリアは不安そうに牙狼を見つめた。

「誰かが、こんなことをしたのかな……?」

「まだ分からない。ただ、普通の自然現象ではなさそうだ」

カイゼルは静かに答えた。

「まずは、この魔物を安全な場所へ移そう。目が覚めても暴れないよう、しばらく様子を見る必要がある」

「分かった!」

リリアはすぐに頷いた。

セレスも杖を握り直す。

「私も手伝います。傷があるなら、治療できるかもしれません」

三人は協力して、巨大な牙狼を森の入口近くまで運ぶことにした。

依頼そのものは、群れの討伐として十分な成果を上げている。

しかし、カイゼルにとっては、それ以上に重要な手がかりが見つかった。

街で発見した黒い欠片。

そして、魔力を乱された巨大な牙狼。

二つの異変は、どこかでつながっている。

「……少しずつ、調べていくしかないな」

カイゼルは森の奥を振り返った。

木々の向こうは、夕暮れの影に沈んでいる。

その奥に何が潜んでいるのか。

まだ、誰にも分からなかった。

今回は、カイゼル、リリア、セレスの三人が、初めて本格的な討伐依頼に挑戦しました。

リリアの素早い攻撃、セレスの補助魔法、そしてカイゼルの冷静な判断。まだ完全な連携とは言えませんが、三人は少しずつ互いの力を理解し始めています。

一方、森で発見された巨大な牙狼には、街で見つかったものとよく似た黒い欠片が埋め込まれていました。

魔物を異常な状態にしたのは誰なのか。そして、黒い欠片は何のために使われているのか。

少しずつ、街の異変の正体に近づいていきます。

次回、第8話では、討伐依頼の報告と黒い欠片の調査を進める中で、三人の絆がもう一歩深まります。

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