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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第8話 黒い欠片の秘密と、三人の約束

森での討伐依頼を通じて、カイゼルたちは魔力を乱された巨大な牙狼と遭遇した。

その身体に埋め込まれていたのは、街で発見したものとよく似た黒い欠片。

偶然とは思えない二つの異変に、カイゼルは調査を続けることを決める。

そして、初めての本格的な戦いを終えた三人は、それぞれの思いを語り合うことになる。

冒険者ギルドへ戻った頃には、空が夕焼けに染まっていた。

「つ、疲れたぁ……!」

リリアはギルドの椅子に座り込むと、机に突っ伏した。

「森の中をあんなに走り回るとは思わなかったよ……」

「……自分から走り回っていただろ」

「だって、あの大きな牙狼、速かったんだもん!」

「それはそうだが……」

カイゼルは小さく息を吐いた。

隣では、セレスも少し疲れた様子で椅子に腰かけている。

「でも、皆さんが無事でよかったです。あの魔物、普通の牙狼とは明らかに違いましたから……」

「ああ。胸元に埋め込まれていた黒い欠片が関係している可能性が高い」

カイゼルは、受付へ向かった。

今回の依頼は、牙狼の群れによる被害を抑えること。

群れを撃退しただけでなく、異常な状態にあった個体も発見したため、報告する必要がある。

「依頼の報告をしたい」

受付の女性は書類を受け取り、目を通した。

「牙狼の群れを撃退し、異常個体も発見したんですね……。これは管理局にも伝えた方がよさそうです」

「それと、これを調べてほしい」

カイゼルは収納魔法から、黒い欠片を取り出した。

布に包んだまま、受付の机へ置く。

女性は不思議そうにそれを見た。

「これは……?」

「魔力を乱す性質がある。街で発見したものと、魔物に埋め込まれていたものだ」

「魔物の身体に……?」

受付の女性の表情が険しくなる。

「分かりました。専門の調査員に確認してもらいます。こちらは慎重に扱いますね」

「ああ。頼む」

報告を終えると、三人はギルドの外へ出た。

◇ ◇ ◇

夕暮れの街は、昼間よりも穏やかだった。

店先には明かりが灯り、人々は夕食の買い物をしている。

リリアは歩きながら、ふとカイゼルを見上げた。

「ねえ、カイゼル」

「何だ?」

「今日の戦いなんだけどさ……。あの大きな牙狼、どうしてあんなに強くなってたんだろう?」

「……黒い欠片が魔力に干渉していた可能性が高い」

「でも、あれって魔物を強くするための道具なのかな?」

「分からない。魔力を乱すだけなら、わざわざ魔物の身体に埋め込む必要はないからな」

カイゼルは少し考えた。

「……強化するためなのか、何かを調べるためなのか。それとも別の目的があるのか」

「うーん……。難しいね」

リリアは腕を組んだ。

その隣で、セレスが静かに口を開いた。

「私は……あの牙狼、苦しんでいるように見えました」

二人が彼女を見る。

「胸元の魔力が乱れていたとき、あの子の身体も震えていました。もしかしたら、黒い欠片によって無理に魔力を変えられていたのかもしれません」

「……そうか」

カイゼルは、森で見た牙狼の姿を思い返した。

確かに、あの魔物は最初から殺意だけで動いていたわけではない。

魔力の乱れに苦しみ、周囲のものへ攻撃していた可能性がある。

「……もしそうなら、原因を取り除けば、元に戻るかもしれないな」

「はい。そうだったらいいなと思います」

セレスは優しく微笑んだ。

リリアも大きく頷く。

「うん! 次に同じことが起きても、今度はもっと上手く助けられるようになろう!」

その言葉に、カイゼルは二人を見つめた。

二千年前、彼の父と母も、誰かを守るために戦っていた。

だが、二人は世界のすべてを背負い、最後には自分の命まで差し出した。

カイゼルは、ふと自分の手を見つめた。

「……俺は」

小さく声を漏らす。

「ん? どうしたの?」

リリアが首を傾げた。

カイゼルは少し迷ったあと、言葉を続けた。

「……誰かを助けるのは、大切なことだと思う。でも、自分まで無理をしてしまったら、助けられるものも助けられなくなる」

リリアは真剣な表情で聞いていた。

「だから、危険なときは退くことも考えてほしい。二人とも、自分を大事にしてくれ」

一瞬、二人は驚いたように目を見開いた。

やがてリリアが、にっと笑った。

「分かった! でも、それはカイゼルも同じだからね!」

「……俺も?」

「そう! カイゼルって、何でも一人で何とかしようとする感じがするもん!」

カイゼルは返す言葉に詰まった。

セレスも静かに頷く。

「私もそう思います。カイゼルさんは落ち着いていて、頼りになります。でも……一人で抱え込まないでくださいね」

「……」

二人の言葉に、カイゼルは目を伏せた。

自分では、特別なことをしているつもりはなかった。

ただ、二人を危険な目に遭わせたくなかっただけだ。

けれど、二人は彼のことも心配してくれている。

「……分かった。気をつける」

「よしっ!」

リリアは満足そうに頷いた。

「じゃあ、約束ね!」

「……約束?」

「うん! 危険なときは助け合うこと。一人で無茶をしないこと!」

セレスも微笑んだ。

「私も約束します。お二人が傷ついたときは、できる限り力になります」

カイゼルは二人を見つめた。

そして、静かに頷いた。

「ああ。約束だ」

それは、何気ない会話の中で交わされた小さな約束だった。

しかし、カイゼルにとっては、久しぶりに誰かと交わした大切な約束でもあった。

◇ ◇ ◇

その夜。

カイゼルは宿屋の部屋で、一人、黒い欠片を取り出していた。

小さな机の上に置き、魔力を薄くまとわせる。

表面には、あの細い筋が浮かび上がった。

「……やはり、普通の魔石ではないな」

カイゼルは聖性を使い、欠片の魔力の流れを観察する。

すると、内部に不自然な構造があることが分かった。

外から魔力を吸い込み、内部で性質を変え、再び外へ流す。

その過程で、周囲の魔力に乱れが生じているらしい。

「……魔力を変換しているのか?」

ただし、変換の仕組みは現代の魔法とは異なる。

術式を組み上げて現象を起こすというより、魔力そのものの性質に直接干渉しているようだった。

カイゼルの知る原初魔法に似ている。

だが、同じではない。

「……誰が、こんなものを作った?」

欠片の奥には、まだ解明できない部分が残っていた。

無理に魔力を流し込めば、何が起こるか分からない。

カイゼルは調査を中断し、欠片を収納魔法へ戻した。

「……今は、これ以上調べない方がいいな」

窓の外には、夜空が広がっていた。

二千年前の夜空と、同じ星はあるのだろうか。

そんなことを考えながら、彼は椅子から立ち上がった。

この世界には、知らないことが多すぎる。

それでも、今は一人ではない。

「……明日も、少しずつ進もう」

カイゼルは灯りを消した。

その頃、冒険者ギルドの奥では、黒い欠片の調査を依頼された職員が、報告書をまとめていた。

「魔力を乱す未知の物質……。街の魔道具と魔物、両方に影響している可能性あり、か」

職員は難しい顔で書類を閉じた。

「……管理局だけでなく、研究院にも連絡した方がよさそうだな」

黒い欠片を巡る調査は、少しずつ動き始めていた。

だが、その正体にたどり着くには、まだ多くの時間が必要だった。

今回は、森での依頼を終えた三人が、黒い欠片について考えながら、互いに助け合う約束を交わしました。

リリアとセレスは、カイゼルを頼りにするだけではなく、彼自身にも無理をしてほしくないと思っています。

一人で生きてきたカイゼルにとって、誰かに心配され、支え合うことは、これから少しずつ大切になっていくはずです。

一方、黒い欠片の内部には、現代の魔法とは異なる仕組みが隠されていました。

この異変が何を目的としているのか、まだ答えは出ていません。

次回は、三人が街を離れた小さな集落へ向かい、新たな依頼を通じて、黒い欠片に関する手がかりを探していきます。

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