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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第27話 第三保管区画の手がかり

 旧排水路の奥で発見された、謎の作業場。


 そこには黒い結晶に関係すると思われる装置と、「第三保管区画」への移送を記した古い記録が残されていた。


 カイゼルたちは手に入れた資料をエルドに渡し、街の古い記録と照らし合わせることにする。


 やがて浮かび上がったのは、現在の地図から消えた施設の存在だった。

「なるほど……。これは、思っていたよりも興味深い資料だね」


 エルドは机の上に並べられた金属板と冊子を見比べながら、静かに呟いた。


 カイゼルたちは旧排水路の調査を終えた翌日、研究工房を訪れていた。


 机の上には、現地で見つけた紙片や金属板の写し、そして第三保管区画と刻まれた板が置かれている。


「この刻印は、これまで見つけたものと同じ系統だ。ただし、中央から伸びる線の配置が異なるね」


 エルドは紙にいくつかの図形を書き出した。


「以前の装置は、魔力を集めたり、流れを変えたりする構造に見えた。今回のものは、複数の経路へ魔力を導くためのものかもしれない」


「じゃあ、黒い結晶を別の場所へ運ぶために使っていた可能性もあるってこと?」


 リリアが尋ねる。


「その可能性はあるね。ただ、魔力を運ぶための装置なのか、結晶そのものを運ぶための道具なのかは、まだ区別できない」


「道具の用途も、装置の目的も、まだはっきりしないんですね」


 セレスが少し残念そうに言った。


「そうだね。でも、今回は一つ大きな手がかりがある」


 エルドは冊子の一行を指で示した。


「『第三保管区画への移送を開始』という記録だ。これは単に魔力の流れを調整する実験だけでなく、何らかの物資を別の場所へ運んでいたことを示している可能性がある」


「第三保管区画……。やっぱり、どこかに実際の施設があったのかな」


 カイゼルは記録を見つめた。


「それを確かめるには、古い街の地図や施設の管理記録を調べる必要があるだろうね」


 エルドは工房の棚から、古い資料の束を取り出した。


「少し時間がかかるかもしれないけれど、僕も調べてみよう。君たちはギルドに、旧排水路の管理記録が残っていないか確認してくれるかい?」


「分かりました」


 カイゼルたちは頷いた。


◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドに戻った三人は、受付の職員に旧排水路の記録について尋ねた。


 職員は少し考えたあと、奥の書類棚から分厚い台帳を取り出した。


「旧排水路の管理記録なら、これが一番古いものだ。ただ、かなり前の資料だから、すべての区画が載っているとは限らないぞ」


「ありがとうございます。確認させてください」


 カイゼルは台帳を受け取り、リリアとセレスと一緒に机へ向かった。


 古い記録には、排水路の補修履歴や、閉鎖された区画の位置が記されていた。


 最初は、どれも今回の調査とは関係がなさそうに見えた。


 しかし、閉鎖区画の一覧を調べていたセレスが、ある項目に気づいた。


「カイゼルさん、これを見てください」


 彼女が指さしたのは、街の北西部にある施設の記録だった。


 そこには、次のように書かれていた。


 ――旧管理施設、地下区画への接続を確認。


 ――施設の用途変更に伴い、地下通路を封鎖。


 ――保管物の移送先、別記録を参照。


「保管物の移送先……」


 カイゼルは、その一文を見つめた。


「この施設が、第三保管区画と関係しているかもしれないね」


「でも、ここには第三保管区画って名前は書かれていないよ?」


 リリアが指摘する。


「そうだな。まだ同じ施設だとは断定できない。ただ、地下通路と保管物の移送という共通点がある」


 カイゼルは記録の番号を控えた。


 その隣には、施設の所在地を示す簡単な地図が添えられていた。


 北西部の古い区画。


 現在は倉庫や空き地が多く、住民もあまり立ち入らない地域だった。


「一度、場所を確認したほうがよさそうね」


 セレスが言う。


「うん。ただ、先にエルドさんにも伝えておこう。別の施設だった場合でも、調査の手がかりになるかもしれない」


 三人は台帳を返却し、控えた記録を持って研究工房へ向かった。


◇ ◇ ◇


「北西部の旧管理施設か……。確かに、可能性はありそうだね」


 報告を受けたエルドは、古い地図と現在の地図を並べた。


「このあたりは、街の拡張に伴って用途が何度も変わっている。古い施設が取り壊されず、別の建物の下に残っていることも考えられる」


「地下に、第三保管区画が残っている可能性も?」


「否定はできないね。ただ、記録上の施設と、君たちが見つけた作業場がつながっているかどうかは、現地を調べないと分からない」


 エルドは地図の一角に印をつけた。


「もう一つ気になることがある。旧排水路の作業場で見つけた装置は、完全に停止していたわけではなかったんだね?」


「はい。ごく弱い魔力が流れていました。途中で装置が動き出しましたが、流れを変えて停止させました」


 カイゼルが答える。


「そうか……。それなら、地下の設備の一部が今も機能している可能性がある。現地を再調査するなら、十分に注意したほうがいい」


 エルドは少し考え、別の紙に簡単な図を描いた。


「これまでの資料から考えると、黒い結晶は周囲の魔力を吸収し、その性質を変えて放出する。装置は、その反応を制御したり、特定の方向へ導いたりするためのものかもしれない」


「でも、何のためにそんなことをしているのかは、まだ分からないんですよね」


 セレスが確認する。


「その通りだね。魔道具の性能を調べていたのか、魔力に変化を起こす実験をしていたのか、それとも別の目的があったのか。現段階では、どれも可能性にすぎない」


 エルドは図を置いた。


「ただ、保管区画という名前が本当にその施設で使われていたのなら、何かを長期間保管するための場所だった可能性もある。そこに何があったのかを調べる価値はあるだろう」


 カイゼルは静かに頷いた。


 これまでの調査では、黒い欠片や装置が残されている場所を一つずつ追ってきた。


 しかし、今回の記録は、それらが使われていた場所だけでなく、保管や移送を管理する施設が存在した可能性を示している。


 点だった手がかりが、少しずつ線になり始めていた。


◇ ◇ ◇


 その日の午後、三人は北西部の旧管理施設へ向かった。


 街の中心から離れるにつれ、人通りは少なくなっていった。


 古い石造りの建物が並び、長い間使われていない倉庫も見える。


 地図に記された場所へたどり着くと、そこには半ば崩れた建物が残っていた。


「ここが、旧管理施設……?」


 リリアが周囲を見回す。


 建物の正面には、かつて看板があったと思われる跡が残っている。しかし、文字は風雨に削られ、ほとんど読めなくなっていた。


「建物の一部は崩れているけど、地下へ続く入口が残っている可能性はあるわね」


 セレスが壁沿いを確認した。


 カイゼルは周囲の魔力を探る。


 建物の中には古い魔力の残滓がわずかに漂っていた。だが、それだけでは黒い結晶に関係する場所なのかどうか、判断できない。


 入口の扉は壊れ、内側には崩れた木材が散乱していた。


 三人は足元に注意しながら、中へ入った。


 建物の一階には、古い机や棚が残されているだけだった。


 地下への階段も見当たらない。


「うーん……。何もないね」


 リリアが肩を落とした。


「記録では地下区画につながっていたはずなんだけど……」


 セレスも首をかしげた。


 カイゼルは壁と床を慎重に調べていた。


 すると、建物の奥にある棚の裏側で、わずかに魔力の流れが変化していることに気づいた。


「二人とも、ここを見てくれ」


 棚を少し動かすと、壁の下部に小さな金属板が埋め込まれていた。


 表面には、円形の刻印がある。


 そして、その隣には、文字がかろうじて残っていた。


 ――地下区画、封鎖。


 リリアが目を見開いた。


「やっぱり、地下があるんだ!」


 カイゼルは金属板を調べた。


 封鎖の仕組みは古く、現在はほとんど魔力が残っていない。しかし、板の端には、何かを差し込むための細い溝があった。


「鍵か、専用の道具が必要なのかもしれない」


 セレスは周囲を探したが、それらしいものは見つからなかった。


「今は無理に開けないほうがよさそうね」


「ああ。仕組みを確かめてからにしよう」


 カイゼルは刻印を記録し、周囲の状態を確認した。


 そのとき、建物の外から、かすかな物音が聞こえた。


 三人は同時に振り返った。


 誰かが、建物の外を歩いている。


 足音は入口の前で止まり、しばらく動かなかった。


 カイゼルは静かに魔力の気配を探った。


 強い魔力は感じられない。


 だが、相手が何者なのかは分からなかった。


 やがて足音は遠ざかっていった。


「……誰かが、ここに来ていたのかな」


 セレスが小さな声で尋ねる。


「分からない。偶然通りかかっただけかもしれないし、俺たちを見ていた可能性もある」


 カイゼルは入口へ目を向けた。


 足元には、新しい靴跡が一つ残っていた。


 それは建物の中へ入ってきたものではなく、入口の前で立ち止まり、そのまま立ち去ったように見えた。


 まるで、誰かがこの建物を確認しに来たかのように。


 カイゼルは靴跡の位置を記録し、三人は建物を後にした。


◇ ◇ ◇


 日が暮れるころ。


 旧管理施設から少し離れた建物の陰で、一人の人物が街の地図を広げていた。


 地図には、旧排水路の作業場と北西部の旧管理施設が記されている。


「……そこまで辿り着いたか」


 人物は、旧管理施設の印を指でなぞった。


 しばらく考えたあと、別の紙を取り出す。


 そこには、短い文章が記されていた。


 ――地下区画の封鎖状態を確認。


 ――開放の兆候があれば、保管記録を回収する。


 人物は紙を折りたたみ、懐へしまった。


「先に回収しなければならないものがある」


 その声は、夕暮れの街に静かに消えていった。

 第27話を読んでいただき、ありがとうございます!


 今回は、旧排水路で見つけた「第三保管区画」という記録をもとに、北西部の旧管理施設を発見しました。


 施設の地下には封鎖された区画が存在するようですが、開くための仕組みはまだ分かっていません。


 さらに、カイゼルたちが訪れた直後、その場所を確認していたと思われる人物の存在も浮かび上がりました。


 黒い結晶をめぐる調査は、単に過去の遺物を調べるだけでは済まなくなりつつあります。

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