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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第19話 採掘場に残された記録

西の採掘場で、黒い結晶によって動き出した古い採掘機械を停止させたカイゼルたち。


現場からは、魔力供給や反応値について記された紙片と、見慣れない刻印が施された金属片が見つかった。


これまでの調査で、黒い欠片には複数の種類が存在する可能性が浮かび上がっている。


カイゼルたちは、それらの記録をエルドに見せるため、再び魔道具研究工房へと向かう。


しかし、そこに残されていた記録は、すべてを明らかにするには不十分なものだった。

「なるほど……採掘場の機械が、黒い結晶から魔力を受け取っていたんだね」


北区にあるエルド魔道具研究工房。


作業台の上には、カイゼルたちが採掘場から持ち帰った紙片と金属片が並べられていた。


エルドは眼鏡の位置を直しながら、紙片に記された文字を一つずつ確認していく。


「『魔力供給、再開』『反応値、安定せず』『採掘機構への接続を維持』……。単なる採掘機械の点検記録とは、少し様子が違うね」


「やっぱり、普通の魔道具じゃないの?」


リリアが作業台をのぞき込む。


「少なくとも、一般的な魔道具の運用記録とは違う。特に、この『反応値』という表現が気になるね」


エルドは紙片の一部分を指で示した。


「普通なら、魔力の残量や供給量を記録するはずだ。ところが、これは魔力そのものが何かに反応することを前提にしているように読める」


「魔力が、何かに反応する……?」


セレスが首をかしげた。


「例えば、魔物や魔道具に魔力を流したとき、その対象がどんな変化を示すか。そういったものを測定していた可能性がある、ということだね」


「でも、採掘場で使われていたんですよね? 鉱石を掘るための機械なのに、そんな実験をする必要があるんでしょうか?」


「そこが分からないんだ。採掘機械の性能を高めるためだったのか、別の目的があったのか……。今の記録だけでは断定できないね」


エルドは落ち着いた声で答えた。


カイゼルは、作業台に置かれた金属片を見つめていた。


表面には、円形の刻印が施されている。


ミルナ村で見つけたものや、古い遺跡、廃工房に残されていたものと、よく似た構造だった。


「この刻印も、調べてもらえるか?」


「もちろんだよ」


エルドは金属片を手に取り、拡大鏡を使って細部を確かめた。


「やはり、以前見せてもらったものと共通点があるね。ただ、線の配置が少し違う。単に同じ印を使っているというより、基本となる構造を用途に合わせて変えているようにも見える」


「用途に合わせて?」


「例えば、魔力を集めるための構造と、集めた魔力を別の場所へ送るための構造では、必要な仕組みが違うだろう? この刻印も、それぞれの役割に応じて変えられているのかもしれない」


カイゼルは静かにうなずいた。


もしエルドの推測が正しければ、これまで見つかった刻印は、同じ仕組みを基礎として作られている可能性がある。


しかし、それだけでは黒い結晶の目的までは分からない。


「もう一つ、気になることがある」


カイゼルは採掘場で見つけた紙片を指した。


「『対象の――』と書かれていた部分だ。何かの対象について記録していたように見える」


「そうだね。前の廃工房で見つかった記録にも、『対象の魔力反応、想定値を超過』という文章があった」


エルドは二枚の記録を並べた。


「この二つが同じ研究に関係しているなら、採掘場でも何らかの対象を使った試験が行われていた可能性がある」


「対象って、魔物とか?」


リリアが尋ねる。


「魔物かもしれないし、魔道具や鉱石のような物質かもしれない。あるいは、魔力を持つ別の何かかもしれないね」


「……人間や魔族の可能性もあるのか?」


カイゼルが静かに尋ねた。


工房の空気が、わずかに変わった。


エルドはすぐには答えず、記録をもう一度見直した。


「可能性だけなら、否定はできない。ただ、今ある資料から、そこまで推測する根拠はないね。確かなことと、想像にすぎないことは分けて考える必要がある」


「そうか」


カイゼルは、それ以上追及しなかった。


まだ分からないことばかりだ。


焦って答えを決めつけても、真実から遠ざかるだけかもしれない。


◇ ◇ ◇


「それにしても、どうして採掘場なんかで、こんな研究をしていたんだろう?」


リリアは腕を組み、考え込んだ。


「鉱石を掘るためだったら、もっと普通の魔道具を使えばいいのに」


「閉鎖された後も機械が動いていたことを考えると、魔力を供給する仕組みだけは残されていたのかもしれませんね」


セレスが記録を見つめながら答えた。


「でも、どうして今になって動き始めたのでしょう……?」


その疑問に、誰もすぐには答えられなかった。


採掘場の機械は、長い間停止していたはずだ。


それが黒い結晶の反応によって再び動き出した。


誰かが結晶を置いたのか。


以前からあったものが、何らかの理由で反応を始めたのか。


あるいは、外部から魔力を送り込まれたのか。


考えられる可能性はいくつもあった。


「採掘場が閉鎖された時期についても、調べたほうがよさそうだね」


エルドが言った。


「もし黒い結晶が後から持ち込まれたものなら、閉鎖された時期と、異常が始まった時期を比較できる。そこから何か分かるかもしれない」


「その記録はギルドにありますか?」


セレスが尋ねる。


「採掘場の管理記録なら、街の資料保管所かギルドに残っている可能性がある。ただ、かなり古い場所だからね。すべての記録が残っているとは限らない」


「じゃあ、調べに行こう!」


リリアはすぐに立ち上がった。


「待って。まだ話は終わっていないよ」


エルドは穏やかに制した。


「もう一つ、確認してほしいことがあるんだ」


彼は作業台の引き出しから、一枚の古い写しを取り出した。


そこには、数百年前の遺跡調査で記録されたという円形の刻印が描かれていた。


カイゼルは、その図を見て目を細めた。


「……これは」


「以前、君たちが見せてくれた刻印に似ているだろう?」


エルドは写しを机の中央に置いた。


「ただし、完全には一致しない。今回の金属片に刻まれている線の一部は、この古い記録には存在していないんだ」


「ということは、後から付け足されたんですか?」


セレスが尋ねた。


「そう考えることもできるね。古い刻印を参考にして、別の仕組みを組み込んだのかもしれない。あるいは、どちらもさらに古い技術をもとに作られた可能性もある」


カイゼルは図をじっと見つめた。


二千年前の世界で、彼が知っていた魔法の仕組みとは異なる。


少なくとも、彼の記憶にある一般的な魔法陣とも違っていた。


この世界では、彼の知らない技術が長い年月をかけて発展してきたのだろう。


だが、今回の刻印には、どこか引っかかるものがあった。


単純に魔力を流すためのものではない。


魔力の性質そのものに干渉するような、独特の構造。


カイゼルは、採掘場で黒い結晶を停止させたときの感覚を思い返した。


あの結晶は、周囲から魔力を集めるだけではなかった。


集めた魔力を変化させ、別の性質を持たせてから放出していた。


「……魔力の流れだけじゃなく、魔力そのものを変えているのかもしれない」


カイゼルの言葉に、エルドが顔を上げた。


「魔力の性質を変える、ということかい?」


「ああ。集めた魔力を、そのまま使っているわけじゃないように感じた」


「なるほど……」


エルドはしばらく考え込んだ。


「確かに、君がこれまで見せてくれた反応とも一致するね。もし魔力の性質を変える仕組みが組み込まれているなら、魔道具の停止や魔物の異常行動にも説明がつく部分がある」


「でも、それなら何のためにそんなことを?」


リリアが尋ねる。


「そこが一番の問題だね」


エルドは静かに答えた。


「技術の存在と、その目的は別の話だ。仕組みが分かっても、何に使おうとしていたのかは、別の記録がなければ分からない」


◇ ◇ ◇


話し合いを終えた三人は、ギルドへ戻ることにした。


エルドは採掘場の記録と金属片を預かり、引き続き調査してくれることになった。


ただし、黒い結晶そのものは危険性が残っているため、専門の設備が整うまでは工房に持ち込まないほうがよいという判断になった。


「まずは、採掘場が閉鎖された時期と、管理記録を確認することだね」


工房の入口で、エルドが三人に告げる。


「もし何か分かったら、こちらからも連絡するよ」


「ありがとう、エルドさん」


カイゼルは短く礼を述べた。


「こちらこそ、貴重な資料を見せてくれてありがとう。君たちが見つけたものは、魔法技術の歴史を調べるうえでも重要な手がかりになるかもしれない」


エルドはいつもの落ち着いた表情で微笑んだ。


「ただ、無理はしないでほしい。黒い結晶が関係している場所では、何が起きるか分からないからね」


「分かりました!」


リリアが元気よく答える。


セレスも、しっかりとうなずいた。


「カイゼルさんも、無理をしないでくださいね。危ないと思ったら、私たちにも相談してください」


「ああ。俺も気をつける」


カイゼルはそう答えた。


けれど、セレスは彼の顔を見つめたまま、少しだけ心配そうな表情を浮かべていた。


カイゼルはいつも、危険なものを見つけると自分から近づき、誰かを守るために先頭に立とうとする。


それは頼もしいことでもある。


しかし、自分一人で抱え込んでしまうのではないか。


そんな不安が、彼女の中には残っていた。


「……何かあったら、ちゃんと私たちにも話してくださいね」


もう一度、セレスが言った。


カイゼルは一瞬だけ目を伏せ、それから彼女を見た。


「分かった。約束する」


その返事を聞いて、セレスはようやく微笑んだ。


◇ ◇ ◇


ギルドへ戻ると、受付の職員が三人に声をかけてきた。


「西の採掘場の件ですね。報告は受けています。現場の安全確認が終わるまでは、採掘場への立ち入りを禁止することになりました」


「それがいいと思う。まだ、内部に危険なものが残っている可能性があるから」


カイゼルは答えた。


「それと、採掘場が閉鎖された時期や、当時の管理記録を調べたいんだが、資料保管所で確認できるだろうか?」


「古い記録でしたら、街の資料保管所に問い合わせてみるのがよいと思います。採掘場の管理者が提出した書類が残っているかもしれません」


「ありがとう。明日、確認してみるよ」


受付の職員はうなずき、手元の書類に必要事項を書き込んだ。


三人はギルドの一角にある席へ移動した。


「明日は資料保管所ね!」


リリアは椅子に腰かけると、テーブルに両腕を置いた。


「今度こそ、黒い欠片の正体に近づけるといいんだけど」


「少しずつですが、分かってきたこともありますよ」


セレスが穏やかに言う。


「少なくとも、あの結晶が魔力を集めたり、性質を変えたりすること。そして、場所によって違う反応を示すことは分かりました」


「ああ。あとは、誰が何のために使っているのかだ」


カイゼルは窓の外を見つめた。


街の夕暮れは、いつもと変わらない。


人々は家路を急ぎ、店先には明かりが灯り始めている。


平穏な日常の中で、黒い結晶に関する異常だけが、少しずつ広がっているように思えた。


もし、誰かが意図してそれらを設置しているのなら。


その人物は、何を確かめようとしているのだろう。


そして、なぜ今になって活動を始めたのだろう。


カイゼルには、まだ答えが見つからなかった。


そのときだった。


「……あれ?」


リリアが、ふと声を上げた。


「どうした?」


「さっきから、あの人がこっちを見てる気がするんだけど」


リリアが視線を向けた先には、ギルドの入口があった。


冒険者や依頼人が行き交う中、壁際に一人の男が立っている。


顔はフードに隠れており、服装も特に目立つものではない。


だが、男は三人と目が合った瞬間、すぐに視線をそらした。


そして、そのままギルドを出ていった。


「知り合いじゃないよね?」


セレスが不安そうに尋ねる。


「俺は知らない」


カイゼルは立ち上がり、入口へ向かった。


外を見回したが、男の姿はすでに人混みに紛れていた。


ただ、地面には小さな紙片が落ちていた。


カイゼルはそれを拾い上げた。


紙片には、見覚えのある円形の刻印が描かれていた。


採掘場で見つけたものと、よく似た印だった。


しかし、その円の内側には、これまで見たことのない短い線が一本加えられていた。


「……これは」


カイゼルの目が細くなる。


紙片の裏には、短い文字が書かれていた。


『次の反応地点、確認済み』


それだけだった。


名前も、場所も、差出人も記されていない。


「カイゼル、それって……」


リリアが紙片をのぞき込む。


セレスも隣から文字を確かめた。


「次の反応地点……。やっぱり、誰かが黒い結晶を使っているのでしょうか?」


「その可能性は高いと思う」


カイゼルは紙片を折りたたみ、魔法収納へ収めた。


偶然落ちたものとは考えにくい。


あの男は、カイゼルたちに見られていることを承知で、この紙片を残したのだろうか。


それとも、何かを伝えようとしていたのか。


どちらにしても、これまでの調査とは違う段階に入ったように感じられた。


黒い結晶の痕跡を追っているのは、自分たちだけではない。


そして、相手もまた、自分たちの存在を認識している。


「明日は資料保管所へ行こう。それから、この紙片についてもエルドさんに見てもらう」


カイゼルは二人に告げた。


「うん。今度は逃がさないんだから!」


リリアは拳を握りしめた。


「でも、無茶はしないでくださいね。相手が何を考えているのか、まだ分からないんですから」


セレスの言葉に、リリアは少しだけ気まずそうに笑った。


「分かってるって。ちゃんと周りを見るから!」


その様子を見て、カイゼルは小さく微笑んだ。


三人は明日の調査に備え、ギルドを後にした。


その背後で、誰もいなくなった入口の脇に、黒い小さな影が一瞬だけ揺れた。


だが、それに気づく者はいなかった。

第19話を読んでくれてありがとう!


今回は、西の採掘場から持ち帰った記録をエルドに調べてもらい、黒い結晶が魔力を集めるだけでなく、その性質を変化させている可能性が見えてきました。


さらに、ギルドでは謎の男が現れ、カイゼルたちに「次の反応地点、確認済み」という意味深な紙片を残していきました。


黒い結晶を使っている人物は、いったい何者なのか。そして、なぜカイゼルたちの調査を把握しているのでしょうか。

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