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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第16話 ギルドに届いた新たな依頼

エルドの分析によって、黒い結晶は魔力を吸収するだけでなく、その性質を変えて放出している可能性が高まった。


古代遺跡と廃工房の紋様にも共通点が見つかったが、結晶の目的や製作者の正体は依然として分からない。


そんな中、冒険者ギルドに新たな依頼が届く。


それは、街の外れにある街道沿いで発生している、魔物の異常行動に関するものだった。

翌朝。


冒険者ギルドへやってきたカイゼルたちは、いつもより騒がしい受付付近の様子に気づいた。


冒険者たちが掲示板の前に集まり、何やら話し込んでいる。


「何かあったのかな?」


リリアが首を傾げる。


「少し様子を見てみましょう」


セレスとともに近づくと、掲示板の前には新しい依頼書が貼り出されていた。


『街道沿いの魔物異常発生に関する調査・討伐依頼』


その下には、街の外れにある小さな集落から届いた報告が記されている。


近頃、街道周辺で魔物が普段よりも頻繁に出現し、荷馬車や旅人が襲われる事件が増えているという。


さらに、集落で使われている魔道具にも不具合が起き始めているらしい。


「魔物と魔道具、両方に異常が出ているのか……」


カイゼルが依頼書を読みながら呟いた。


「これって、今までの黒い結晶と関係があるのかな?」


リリアが尋ねる。


「まだ分からない。ただ、調べる価値はあると思う」


セレスも依頼書を確認し、真剣な表情になった。


「集落の人たちも困っているみたいですね。放っておくわけにはいきません」


「じゃあ、受けようよ!」


リリアは迷いなく受付へ向かった。


「リリア、もう少し慎重に……」


セレスが苦笑しながら後を追う。


カイゼルも小さく息をつき、二人に続いた。


◇ ◇ ◇


受付で依頼を受けた三人は、担当職員から詳しい説明を受けた。


「今回の依頼先は、街から北東へ進んだ場所にあるラネス集落です。普段は街道を利用する商人たちの休憩地点になっているのですが、ここ数日、魔物の襲撃が相次いでいます」


職員は地図を広げ、街道沿いの位置を指し示した。


「被害は荷馬車が三台、旅人が数人。幸い、今のところ死者は出ていません。ただ、集落の周辺で魔道具の不具合も報告されています」


「どんな不具合ですか?」


カイゼルが尋ねる。


「夜間の照明が突然消えたり、水を汲み上げる魔道具が止まったりするそうです。原因は分かっていません」


カイゼルはセレスと視線を交わした。


街の噴水。


ミルナ村の泉。


そして、古代遺跡と廃工房で見つかった黒い結晶。


魔力の異常が、また別の場所で起きている。


「分かりました。現地で状況を確認してみます」


「お願いします。危険な場合は、無理をせず撤退してください」


職員の言葉に頷き、三人は準備を整えて街を出た。


◇ ◇ ◇


昼前。


ラネス集落へ続く街道は、普段なら商人や旅人で賑わっているはずだった。


しかし、今日に限って人影はまばらだった。


道端には、荷車の車輪が地面に深く刻んだ跡が残っている。


その先には、破損した木箱や、散らばった荷物が見えた。


「……ここで襲われたのかな」


セレスが周囲を見渡す。


「おそらくな」


カイゼルは地面にしゃがみ、足跡を確認した。


魔物のものと思われる爪痕が、道の両側に続いている。


だが、それだけではなかった。


地面の一部が黒ずみ、そこから微かな魔力の乱れが感じられる。


カイゼルは意識を集中させた。


「……ここにも、似た反応がある」


「黒い結晶?」


リリアがすぐに尋ねる。


「断定はできない。ただ、魔力の流れが不自然だ」


彼は周囲を慎重に探った。


黒い結晶そのものは見当たらない。


しかし、地面に残った黒ずみの周囲では、魔力がわずかに吸い寄せられ、流れを乱されていた。


「エルドさんの仮説が正しければ、結晶がなくなったあとでも、何らかの影響が残っているのかもしれないな」


「じゃあ、ここにも結晶があったってこと?」


リリアが尋ねる。


「その可能性はある。だが、まだ証拠が足りない」


カイゼルは立ち上がった。


「まずは集落で話を聞こう」


◇ ◇ ◇


ラネス集落に到着すると、三人は入口付近で年配の男性に声をかけられた。


「もしかして、ギルドから来てくれた冒険者さんたちかい?」


「はい。今回の依頼を受けた、リリアです!」


リリアが元気よく答える。


「カイゼルです。こちらはセレスさんです」


「よろしくお願いします」


セレスが丁寧に頭を下げた。


男性はほっとした様子で頷いた。


「私はこの集落の代表をしている、ダンという者だ。来てくれて助かったよ」


ダンの案内で、三人は集落の中を歩いた。


住民たちは不安そうな顔で話し合い、壊れた荷車の修理に追われている。


家の壁に取り付けられた照明用の魔道具も、いくつかが停止していた。


「このあたりで魔物の襲撃が増えたのは、いつ頃からですか?」


カイゼルが尋ねた。


「五日ほど前からだね。最初は森にいる魔物が街道に出てくるようになっただけだったんだ。だが、二日前から急に数が増えて……」


「魔物の種類は?」


「狼型の魔物が多い。ほかにも、小型の魔物が群れで現れるようになった」


ダンは困ったように眉を寄せた。


「それと、妙なことがあってね。襲ってきた魔物の中には、普段なら人間を避けるような種類までいたんだ」


「……分かりました」


カイゼルは静かに頷いた。


魔物の生態が変化している。


それが黒い結晶による影響なのか、別の原因なのかは、実際に調べてみなければ分からない。


「魔道具の不具合についても、見せてもらえますか?」


「もちろんだ。こちらへ来てくれ」


ダンは三人を集落の共同井戸へ案内した。


井戸の横には、水を汲み上げるための魔道具が設置されていた。


ところが、装置は停止しており、操作しても反応しない。


カイゼルが魔力の流れを確認すると、装置の内部で魔力が不規則に揺れていた。


「……これも同じだ」


彼は聖性を薄く広げ、乱れた魔力の状態を確かめた。


やはり、魔力の流れに不自然な歪みがある。


だが、街で見つけたものほど強い反応ではない。


「少しだけ、調整してみます」


カイゼルは慎重に魔力の乱れを抑えた。


装置の内部を流れる魔力が安定し、停止していた機構が再び動き始める。


水が勢いよく汲み上げられ、井戸の脇に設置された水桶へ流れ込んだ。


「おおっ! 動いたぞ!」


ダンが驚きの声を上げた。


周囲にいた住民たちも、安堵したように顔をほころばせる。


「ありがとうございます! これで水を運ぶ手間が減ります!」


「いえ、まだ完全に原因を解決できたわけではありません。しばらく様子を見てください」


カイゼルはそう答え、装置から手を離した。


「それに、魔物の異常も調べる必要があります」


◇ ◇ ◇


その日の夕方。


三人はダンから聞いた情報をもとに、集落近くの森へ向かった。


森の入口には、魔物が通ったと思われる足跡がいくつも残されていた。


「この先に、魔物が集まっている場所があるらしいね」


リリアが周囲を警戒しながら言った。


「ああ。まずは様子を確認しよう。無闇に近づく必要はない」


カイゼルの言葉に、リリアは頷いた。


セレスも支援魔法をすぐに使えるよう、魔力を整えている。


しばらく進むと、木々の向こうから唸り声が聞こえてきた。


三人は足を止め、茂みの陰から様子を窺う。


そこには、数匹の狼型の魔物がいた。


しかし、その動きは明らかに不自然だった。


互いに警戒し合うように唸りながら、同じ場所を何度も行き来している。


そのうちの一匹が、突然地面に爪を立てた。


黒い筋のようなものが、首元から背中にかけて浮かび上がる。


「……あれは」


カイゼルの目が細くなった。


魔物の体内を流れる魔力が、激しく乱れている。


その乱れ方は、以前に見た黒い結晶の影響とよく似ていた。


「カイゼルさん、あの魔物……苦しんでいるように見えます」


セレスが小声で告げる。


「ああ。だが、まだ結晶が埋め込まれているかは分からない」


その瞬間、狼型の魔物の一匹が顔を上げた。


三人の気配に気づいたのか、鋭い唸り声を上げる。


ほかの魔物たちも一斉に振り向いた。


「気づかれた!」


リリアが短剣を抜く。


狼たちは地面を蹴り、三人へと突進してきた。


「リリア、正面を頼む! セレスさんは後ろから支援を!」


「任せて!」


「分かりました、カイゼルさん!」


リリアは素早く横へ跳び、先頭の狼の攻撃をかわした。


そのまま短剣で脚を狙い、相手の動きを鈍らせる。


セレスは二人の周囲に防御の魔法を展開し、別の狼が側面から飛びかかるのを防いだ。


カイゼルは魔性を使い、地面に散らばった石を浮かせて狼たちの進路を塞ぐ。


だが、魔物たちは痛みを感じていないかのように、何度も立ち上がって襲いかかってきた。


「このままだと、きりがないよ!」


リリアが声を上げる。


「分かってる。少し待ってくれ!」


カイゼルは魔物の魔力の流れを観察した。


攻撃を受けても動き続ける理由は、単に凶暴化しているからではない。


魔力が異常なほど活性化し、体の動きを無理やり支えているようだった。


その奥に、黒い結晶と似た性質の歪みがある。


「……やはり、何かに干渉されている」


カイゼルは聖性を展開した。


まずは一匹の魔物に狙いを定め、乱れた魔力の流れを慎重に整えていく。


「――干渉解除」


魔物の体を覆っていた黒い筋が、一瞬だけ弱まった。


狼は足を止め、苦しそうに首を振ったあと、警戒するように後ずさる。


「効いた……!」


セレスが声を上げる。


「よし。二人とも、無理に倒さなくていい。魔力の乱れを抑えれば、落ち着かせられるかもしれない」


カイゼルは続けて、ほかの魔物にも同じように干渉した。


リリアは魔物の攻撃を避けながら時間を稼ぎ、セレスは防御と支援を続ける。


やがて、狼たちの動きが次第に落ち着いていった。


最後の一匹が唸り声を止めると、魔物たちは三人から距離を取り、森の奥へと去っていった。


「……なんとか、落ち着いたみたいだね」


リリアは短剣を収め、深く息を吐いた。


「はい。でも、どうして急にあんな状態になったんでしょう?」


セレスが尋ねる。


カイゼルは狼たちが去っていった方向を見つめた。


「それを調べるために来たんだ。もう少し周囲を確認しよう」


◇ ◇ ◇


森の奥を調べていたカイゼルは、倒木のそばで足を止めた。


地面に、小さな黒い欠片が落ちていた。


彼は慎重に近づき、魔力の反応を確かめる。


間違いない。


以前に見つけた黒い欠片と、よく似た性質を持っている。


「……ここにもあったか」


「それって、今までのものと同じ?」


リリアが尋ねる。


「性質は似ている。ただ、ずいぶん小さいな」


カイゼルは欠片を魔法収納へ収めた。


セレスは周囲を見渡し、不安そうに呟いた。


「ということは、街だけじゃなくて、こういう場所にも黒い欠片が置かれているんでしょうか……」


「可能性はある。だが、誰が何のために置いたのかは、まだ分からない」


カイゼルは立ち上がった。


今回の事件は、単なる魔物の異常行動ではなかった。


魔道具の故障と、魔物の魔力の乱れ。


その両方に、黒い欠片と似た性質が関わっていた。


「この欠片もエルドさんに調べてもらおう。今までのものと比べれば、何か違いが分かるかもしれない」


「うん! これでまた一歩、真相に近づいたね!」


リリアが笑顔を見せる。


「でも、まだ油断はできませんね」


セレスの言葉に、カイゼルは頷いた。


「ああ。これが一つの場所だけで起きているとは限らないからな」


三人は集落へ戻るため、森を後にした。


その頃、街から離れた場所にある小さな建物では、誰かが机の上の地図を見つめていた。


地図には街道といくつかの集落が記され、そのうちの一つに小さな印がつけられている。


人物はその印を見下ろし、静かに呟いた。


「……反応が弱まったか」


しばらく考えたあと、人物は地図を折り畳んだ。


「別の場所も確認する必要があるな」


灯りが消え、部屋は再び暗闇に包まれた。

ラネス集落で発生していた魔道具の故障と魔物の異常行動。


カイゼルたちは調査の結果、どちらにも黒い欠片と似た性質が関わっていることを突き止めた。


新たに発見した欠片をエルドに調べてもらえば、これまでのものとの違いも分かるかもしれない。


しかし、黒い欠片が複数の場所で見つかっているという事実は、誰かが意図的にそれらを配置している可能性を示していた。

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