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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第14話 工房に残された実験痕

北区の裏路地で、黒い結晶を扱う謎の人物と遭遇したカイゼルたち。


相手には逃げられたものの、黒い結晶の破片を手に入れ、使われなくなった工房を発見した。


そこには、黒い結晶の正体につながる手がかりが残されているかもしれない。


三人は逃げた人物の足取りを追うため、工房の調査を始める。

「さて……どこから調べようか」


工房の中へ戻ったリリアは、散らばった木箱を見渡した。


先ほどまで人がいたはずなのに、室内は静まり返っている。


窓は板で塞がれ、壁際には古い工具や壊れた魔道具が積まれていた。


一見すると、何年も使われていない廃工房にしか見えない。


しかし、カイゼルは床に残された新しい足跡を見逃さなかった。


「見た目ほど古くはないな。最近まで、ここで何かをしていたらしい」


「でも、こんなに道具が散らかってるよ?」


リリアが近くの作業台を覗き込む。


「散らかっているというより、使い終わった道具をそのまま置いていったように見えるね」


セレスは机の上に残された金属製の器具を観察した。


その器具には、細い溝が何本も刻まれている。


「これ、魔道具の部品でしょうか?」


「かもしれない。だが、今のところ用途は分からないな」


カイゼルは器具に触れず、魔力の流れを確かめた。


ほとんど反応はない。


ただ、溝の奥に、ごく微量の黒い魔力が残っていた。


「……ここにも痕跡がある」


「黒い結晶と同じもの?」


「ああ。完全に同じとは言い切れないが、似た反応だ」


カイゼルは周囲を見渡した。


作業台の上だけではない。


壁際の棚、床に置かれた箱、部屋の奥にある大きな装置。


あちこちに、微かな魔力の残滓が残っている。


この工房では、黒い結晶を使った何らかの実験が行われていたのだろう。


「二人とも、気になるものがあったら教えてくれ。無理に触る必要はない」


「分かった!」


「はい、カイゼルさん」


三人は手分けして、慎重に調査を始めた。


◇ ◇ ◇


しばらくして、リリアが部屋の奥から声を上げた。


「ねえ、これ見て!」


彼女が指差した先には、大きな金属製の装置が置かれていた。


装置の中央には、黒い結晶を固定するための窪みがある。


その周囲には細い金属板が円形に配置され、複雑な刻印が刻まれていた。


「いかにも怪しいね……」


リリアが装置の周りを回りながら呟く。


「触らないでくれ」


カイゼルがすぐに声をかけた。


「えっ? まだ触ってないよ!」


「分かってる。だが、装置に残った魔力が不安定だ」


カイゼルは装置の前に立ち、聖性を薄く広げた。


すると、中央の窪みから周囲へ向かって、微かな魔力の流れが浮かび上がった。


その流れは通常の魔道具とは異なっていた。


魔力を受け取り、決められた術式に沿って動かすのではない。


装置の中央に何かを置き、そこから周囲の魔力を集めて、性質そのものを変えているようだった。


「……黒い結晶を使うための装置か」


「じゃあ、あの結晶はここで作られていたの?」


セレスが尋ねる。


「まだ分からない。結晶を作る装置なのか、それとも結晶の性質を調べるためのものなのか……」


カイゼルは刻印を注意深く観察した。


円形の紋様。


その内側を走る細い線。


中央の窪み。


古代遺跡で見た紋様と、共通する部分がいくつもあった。


ただし、完全に同じではない。


遺跡の紋様は、周囲の魔力を集めるための構造が中心だった。


一方、この装置の刻印は、集めた魔力を複数の方向へ分配するように組まれている。


「同じ仕組みを基にしているのかもしれないな」


カイゼルが呟いた。


「ということは、遺跡にあったものも、こういう装置の一部だったのかな?」


リリアが尋ねる。


「可能性はある。だが、これだけで断定することはできない」


カイゼルは装置から一歩離れた。


「少なくとも、この工房にいる人物は、遺跡の紋様と似た仕組みを知っていたらしい」


その言葉に、三人の間に緊張が走った。


◇ ◇ ◇


「カイゼルさん、こちらにも何かあります」


セレスの声が聞こえた。


彼女が見つけたのは、部屋の隅に置かれた木箱だった。


中には、破損した魔道具の部品や、細長い金属片が詰め込まれている。


その底に、折り畳まれた紙が一枚残されていた。


「これは……記録でしょうか?」


セレスが紙を広げる。


そこには、いくつかの図形と数値、短い文章が書き込まれていた。


だが、紙の一部は黒く変色し、文字が読み取れなくなっている。


「見せてくれ」


カイゼルは紙を受け取り、目を通した。


記録の大部分は判読できなかったが、いくつかの言葉だけは残っていた。


――魔力吸収。


――性質変換。


――制御限界。


そして、最後の行には、かすれた文字でこう記されていた。


『対象の魔力反応、想定値を超過。実験を中断する』


「実験……?」


リリアが顔をしかめる。


「やっぱり、ここでは黒い結晶を使って何かを試していたんだね」


セレスは不安そうに紙を見つめた。


「でも、何のために……?」


「そこまでは分からない」


カイゼルは記録を慎重に畳んだ。


「ただ、この装置と関係している可能性は高い。エルドさんに見てもらおう」


そのとき、カイゼルは紙の端に、小さな印が押されていることに気づいた。


円の内側に、三本の線が交差したような紋様。


古代遺跡で見つけた円形紋様とは違うが、どこか似た構造を持っている。


彼はその形を記憶に刻み込んだ。


「……これも、調べる必要があるな」


◇ ◇ ◇


調査を続けていた三人だったが、突然、工房の奥から小さな音が響いた。


カチッ。


「今の音、何?」


リリアが短剣に手をかける。


カチッ、カチッ。


今度は、先ほど調べていた金属製の装置から音が聞こえた。


中央の窪みに、黒い光が灯っている。


「まずい……!」


カイゼルはすぐに二人の前へ出た。


装置の内部に残っていた魔力が、再び動き始めていた。


周囲の魔力が吸い寄せられ、中央へと流れ込んでいく。


「二人とも、離れて!」


カイゼルは聖性を展開し、魔力の流れを探った。


だが、装置の構造は複雑だった。


無理に流れを止めれば、内部に蓄積された魔力が一気に放出されるかもしれない。


「カイゼルさん、どうすれば……!」


セレスが緊張した声で尋ねる。


「装置そのものを壊すのは危険だ。魔力の流れを少しずつ切り離す」


カイゼルは意識を集中させた。


まず、聖性で魔力の乱れを抑える。


そして、魔性を使い、中央へ流れ込む魔力の向きをわずかに変えた。


聖性と魔性を同時に無理やりぶつけるのではない。


それぞれを切り替えながら、装置の流れを一つずつ解いていく。


黒い光が不規則に明滅した。


装置が低く唸り、金属板が震える。


「あと少し……!」


カイゼルの額に汗が浮かぶ。


やがて、中央へ向かっていた魔力の流れが途切れた。


黒い光が消え、装置は静かに停止した。


「……止まった」


リリアがほっと息を吐く。


セレスも胸を撫で下ろした。


「よかった……。カイゼルさん、怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


カイゼルは手を下ろした。


装置は停止したものの、完全に安全になったとは限らない。


「これ以上は触らない方がいい。専門家に調べてもらおう」


「エルドさんに見てもらうんだね?」


リリアが尋ねる。


「ああ。装置の構造も、残されていた記録も、俺たちだけでは分からないことが多すぎる」


三人は必要な記録をまとめ、工房を後にする準備を始めた。


◇ ◇ ◇


工房を出る直前、カイゼルはもう一度、室内を振り返った。


黒い結晶を使った装置。


実験を中断したという記録。


そして、遺跡に残されていたものと似た紋様。


これらは偶然に並んでいたわけではないだろう。


だが、黒い結晶を誰が作り、何を目的として実験していたのかは、依然として謎のままだった。


「……まだ、分からないことばかりだな」


カイゼルが呟く。


「でも、少しずつ近づいてるよ!」


リリアは前向きな笑顔を見せた。


「そうですね。焦らずに、一つずつ確かめていきましょう」


セレスも頷いた。


カイゼルは二人を見て、静かに微笑んだ。


「ああ。まずは、これをエルドさんに見てもらおう」


三人は街の中心部へ向かって歩き始めた。


その背後では、誰もいなくなった工房の奥に、停止した装置がひっそりと残されていた。


その中央の窪みには、黒い粉がわずかにこびりついている。


そして、その粉の一部が、風もないのに小さく揺れた。


まるで、まだ完全には終わっていない何かを示すかのように。

使われなくなった工房で、カイゼルたちは黒い結晶を利用した実験装置と、実験の中断を示す記録を発見した。


装置には古代遺跡の紋様と似た構造が使われていたが、その目的はまだ分からない。


手がかりは増えたものの、黒い結晶の謎はさらに深まっていく。

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