表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫陽花の香りは青くて少しだけ甘い  作者: 海野はな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/13

 私たちのお付き合いは、その後も順調に続いた。

 どちらかというと大学から近くてちょっとだけ広い私の部屋にたけちゃんがいることが多くなって、お互い忙しいながらも顔を合わせる時間は増えていた。


 ある日たけちゃんがどこからかゲーム機を手に入れてきて、勝手に私の部屋のテレビにつないでいた。


「なんでここに……?」

「俺の部屋、テレビないから」

「そうだったね」


 たけちゃんはテレビをもっていない。パソコンとスマホがあればなんとかなってしまうから、買わなかったそうだ。

 それがわかった上で手に入れたのだから、最初からここでやるつもりだったのだろう。


「一緒にやりましょうよ。ゆかさんとゲームしたくてもってきたんですよ」


 なんて都合のいいことを言いながら、さくさく取り付けていく。わざと敬語を使ってくるあたり、ふざけつつ、わずかには悪いと思っているらしい。


「自分がやりたいだけでしょう」

「まあまあまあ、座って」


 まるでたけちゃんちのような口調だが、ここは私の部屋だ。だけどそう言われてしまうと素直に従ってしまう。なぜだ。


「ちなみに、これはどこから?」

「バイト先の先輩が新機種を買ったらしくて、こっちはもういらないからって安価で譲ってくれた。なんとソフト付き」


 じゃーんと効果音をつけて彼はソフトを並べ、まずはこれだよねとひとつを選んでセットした。誰でも知っているであろう赤と緑のヒゲと桃色姫が、画面に映し出される。


「懐かしい。私、ゲーム久しぶり」

「そうでしょうそうでしょう。ちょうどやりたいと思っていた、そうですよね?」

「わかったよ、そういうことにする」


 わくわくしてしまった時点で、私の負けだ。

 差し出されたコントローラーを苦笑しながら受け取る。


「俺の彼女、優しい〜。大好き」


 軽い感じのその言葉に、私はドキッとした。

 わかっている。本気で言ったわけではないのだ。嘘だとまでは思っていないけれど、真剣に選んだ言葉じゃない。

 だけどそれでも嬉しくて、ちょっとだけにやけてしまう。


 俺の彼女。

 もう一年以上もその状態のはずなのに、なんだか心がそわそわして、浮ついた気持ちになる。そして「大好き」の言葉。その言葉のまま、信じてもいいだろうか。


 軽い気持ちで付き合い始め、燃え上がるような感情は持っていなかった。だけどいつしか私は、とっくにたけちゃんに落とされていたのである。


「調子いいなぁ、もう」

 

 顔に集まってしまった熱を隠すように、私も軽く応える。

 私をそうさせた人はすでに画面に夢中だ。

 大丈夫、気づかれていない。



 ゲーム機がきてから、私たちはたびたび二人で熱中するようになった。


「桃色姫さぁ、攫われすぎじゃね?」

「それはそう。あ、やられた」

「何度死んでも健気に立ち向かっていくおじさんたち、泣けてくるね。もはや助けなくてもいいのでは?」

「それは状況によるでしょう。まるいち、姫は不可抗力により攫われている。まるに、姫は実は楽しんでいる。どっちだと思う?」

「まるさん、姫がラスボス」


 そんなどうでもいいことを話しながら、二人でコントローラーを握る。


「あ、またやられた。このコース難しい。たけちゃんできる?」

「おう、任せてお……」

「早っ。いやいやいや、そこで落ちる?」

「おちつけ大丈夫だ、あと十人もいる。十回やればクリアするはずだ。あら」


 二回目もわりと早くにやられ、三回目の画面が進んでいく。たけちゃんは手を動かしながら、口も一緒に動かす。器用だな。


「ところで十人ってなんだよ。復活ってなんだよ。ゾンビかよ。実はホラーゲームだったのかよ。なんでここにカメがいるんだよ。リクガメかよ。あー、カメは、飛ばないっ」

「やられてしまいましたね。ツッコミが止まらないたけちゃん選手、はたして十回でゴールできるのでしょうか」


 たけちゃんはパズル系がとても強くて、四匹以上同じ色がそろうとぷよっと消えるゲームではハンデありでも私はあまり勝てなかった。

 連敗しすぎて私が不機嫌になると出てくるのは、例の攫われまくる桃色姫とその敵や仲間たちがカートでレースするゲーム。こちらは過去にやったことがあって、私が強かった。


 旧型のゲーム機は、なんだかんだ言って私とたけちゃんを夢中にさせた。

 ある日深夜まで熱中してしまって、翌朝見事に寝坊。二人そろってサークルに遅刻してしまい、仲間たちから生あたたかーい視線を浴びたのは、いい思い出、……いや、黒歴史のひとつである。



 ゲーム機が来てからというもの、たけちゃんはますます私の部屋に入りびたるようになった。

 それまでは週に一日か二日、私がいるときに短時間一緒にいる程度だったけれど、それがだんだん回数が増え、時間も伸びた。

 お互いの合鍵を交換してからは、私がいなくても、たけちゃんだけで私の部屋にいる時間も出てきた。ただし彼なりの一応の線引きはあるらしく、勝手に入ることはない。私がいない場合は必ず事前に連絡をくれて許可を求められた。


[今日バイトないから行こうと思ってるんだけど、先に入ってていい?]

[ごはん用意してくれるならいいよ!]


 そして「かしこまりました!」というスタンプが送られてくる。

 そんな日が週に一日か二日あり、週の半分近く一緒にいて、残りは別々。


 私の部屋にたけちゃんがいるのを嫌だとか迷惑だと思ったことはなかった。緩く始まった関係は相変わらず緩く機能しており、お互いの都合が優先。合えば一緒に過ごすけれど、そうでなければ深く干渉することはない。

 そんな関係が心地よくて、ずるずると、ゆるやかに、私たちは続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ