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紫陽花の香りは青くて少しだけ甘い  作者: 海野はな


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4/18

 神社を出ると、予定通りラーメン屋さんに行った。少し遅い時間になってしまったけれど、まだ行列ができていてかなり並んだ。


「そういえば、あんなに紫陽花いっぱい咲いてたのに、あんまり香りは感じなかったね。雨だからかな?」


 ラーメン屋さんの入口付近には一株の紫陽花が咲いている。列に並びながら私がそう言うと、たけちゃんは紫陽花の方角に向かってクンクンと鼻を動かす。


「うん、ラーメンの匂いしかしない」

「そりゃそうでしょ」


 紫陽花とは距離がある上に、雨にも関わらずラーメンの匂いが一面に漂っているのだ。ユリのように強い香りの花でない限り、勝てるはずがない。


 ラーメンは評判通りの味だった。大盛に餃子まで平らげたたけちゃんは、外に出て満足そうに自分のお腹をさする。けっこう食べてるのに、お腹は出ていないし、変わらず太らない。なぜだ。


「美味しかった。また来よう」

「紫陽花、それともラーメン?」

「どっちもですよ。花より団子みたいに言わないでくださいよ、ははは」



 そこからバスと電車に乗って最寄り駅まで戻り、駅ビルを少しふらついてから外に出た。建物内にいた時には気がつかなかったけれど、雨がずいぶんと強くなっている。


「ちょっと待ったほうがいいかな?」

「うーん」


 たけちゃんはスマホで天気アプリを開く。画面の中で雨雲が動く様子を見ながら、肩をすくめた。


「ちょっとはマシになるかもだけど、しばらく降るっぽい」

「じゃ、帰ろっか」


 この雨だからだろう、ロータリーにタクシーは止まっていなかった。そもそも裕福ではない学生同士。タクシーという選択肢は最初からほとんど考えていない。


 私の部屋よりもたけちゃんの部屋のほうが駅から近い。傘をさしても降り込んでくる中、私たちは足早に彼の部屋に駆け込んだ。


「はぁ、濡れちゃったね。タオル貸してくれる?」

「はいよ」


 びちょびちょになってしまった靴下を脱いで、濡れた体を軽く拭きながら「お邪魔しまーす」といつものように部屋の中に入り、窓から外を眺める。もう薄暗くなってきたけれど、雨足が弱まる気配がない。


「すごい雨。夜までに止むかなぁ?」


 帰れなくなっちゃう、と呟いた私に、たけちゃんが自分の体を拭いていた手を止めた。


「……なら、泊まっていったら」

「えっ?」

「この雨じゃ帰れないだろうし、夜になったら気温も下がるし、濡れたら風邪ひくし、さ……」


 いつもの揶揄うような、冗談を言っているような感じではなかった。私の反応を探るように、そして少しの不安をにじませた目で、彼は私を見つめている。


「嫌じゃなければだけど」


 トクンと鼓動が跳ねた。


「……嫌じゃ、ないよ」


 雨は、朝まで止まなかった。

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