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お酒の影響でふわふわしていた頭が、一気にクリアになっていく。それにも関わらず、理解は追いつかない。
「なんの、冗談?」
「冗談なわけないよ。そんな趣味悪い冗談、言うはずない。責任でもなんでも取るから、俺と結婚してほしい」
私の手からするっと雑炊を食べるときに使っているレンゲがこぼれ落ち、カシャンと音が鳴った。だけどそれすら気にならないくらい、私はたけちゃんから目が離せない。
「どういう、こと?」
「好きだから。俺はゆかが好きなんだよ。ずっとずっと、ゆかだけが好きだ。別れてからも忘れられなくて、忘れなきゃと思えば思うほど好きになって、もうどうしようもなくて、俺は今でもずっと、ゆかが好きだ」
きっと言い始めたら止まらない、という感じなのだろう。ちょっと早口でまくしたてるようだ。だけどしっかりと聞き取れて、その言葉が胸にささる。
同時に混乱していた。
たけちゃんの口から発せられているはずなのに、それはまるで私が思っていたこと。それは私のセリフなのだ。たけちゃんが好きで、ずっとずっとたけちゃんだけが好きで、忘れられなくて。
だから少し、咎めるような口調になった。
「なんでたけちゃんがそれを言うの」
「え?」
「忘れられなくて、ずっと好きだったのは私のほうだよ。忘れようとすればするだけドツボにはまって、どんどん好きになっちゃったのは、私のほうだよ。今でも好きなのも、どうしようもないのも私のほうだよ」
一度本人に好きと言ってしまえば私ももう止まらなくて、自分でもなにを言っているんだろうと思いながら気持ちをぶつける。
思い返せば、そうだった。私とたけちゃんは、なんでも思ったことを話して、喧嘩になったとしてもぶつけて、言いたいことを言い合って。本来はそういう関係だったはずだ。
長い間それができなくなってしまっていたけれど、今は大丈夫な気がした。ダメでも止まらないから、私の一番の気持ちを、ぶつけにいく。
「ずっとずっと、たけちゃんだけが好きだよ」
たけちゃんは私の目をまっすぐに見たまま固まってしまった。
すごく長い気がしたけど、実際はきっとほんの数秒。たけちゃんはゆっくり自分の口を手で覆った。
「え……。それって。それってさ……、お互い同じように思ってたってこと?」
「……どうやら、そうみたいだね」
私が肯定すると、たけちゃんは今度は顔全部を手で覆った。
「うわぁ、なんでぇ……」
彼の言いたいことはよくわかった。だったら最初から別れなければよかったとか、思っていることがあったならさっさと言えばよかったのにとか、そんな、いろいろ。
なんでこんなに遠回りしたんだろう。
だけど、どうしてだろう、「ああ、もう……」と呻いているたけちゃんを見たら、なにかが心の中でストンと落ちて、しっくりとはまった気がした。
たけちゃんは一通り嘆いたあと、はあぁぁと大きく溜息を一度吐いて、仕切り直しのつもりなのか、グラスを手に取った。一口飲もうとしたようだけど、中身は入っていない。さっきグイッと飲み干していた。なんだか格好がつかない感じでそっと元の場所に戻したので、私は笑ってしまった。
「では、えーと、改めまして、ゆかさん。……改めたけどなに言っていいかわかんない」
「なにそれ」
私は笑う。たけちゃんも頭をポリポリ掻きながら笑う。
今度は私から、話しかけた。
「結婚とのことですが、順番が違いませんか。まずはヨリを戻そう、というところからではありませんか?」
「俺はすぐに結婚で全然いいんだけど。まあ現実としてそうはいかないのはわかる。ということで、結婚を前提としてヨリを戻しましょう」
「ふふ」
「それで、俺はゆかさえいれば他になにもいらない、って言いたいし実際思ってるけど、現実的なことを考えると、もちろん仕事しなきゃいけないし、まあその他もろもろ考えなきゃいけないこともあるわけです」
「そうだね。そこはゆっくり、これから詰めていけばいいんじゃないかな」
「そうしましょう。だけどゆっくりじゃなくて、特急でもいいよ」
なんだか不穏なことを言うので笑ってしまった。気持ちが通じ合ったのだから、そこはゆっくりでいいと私は思う。
「先に言っておくと、今一番のネックが距離があることなんだけど。将来的にゆかがずっと大阪にいるなら俺がそっちに行ってもいいと思ってるから」
「そうなの?」
「そうなの。なにが言いたいかっていうと、俺の都合に合わせろと言うつもりはないってこと。といってもすべてをゆかに合わせるのも難しいかもしれないけど、まあそこは相談していきましょう」
わたしは「うん」と頷く。
「それでゆかさん。いい感じに話がまとまっているような気もしますが、まだ返事がもらえてないんだけど」
「うん?」
たけちゃんはサワーの代わりにお茶を一口飲んで、また背筋をピシッと伸ばした。ついさっき、私は同じ光景を見た。
「俺は理学部出身で、理系なんです」
「うん、知ってるよ?」
「それを言い訳にしますが、今のこの気持ちを上手く言葉で表すことができない。きっと文学部の人だったらこういうとき綺麗に表現できると思うんだけど」
「なに、私、ハードル上げられた?」
クスクスと笑う。たけちゃんもふっと笑う。
「だから、思ってることそのまま言うね」
たけちゃんはそう言うと、すっと真面目な表情になった。だけどさっきとは違って切羽詰まった感じではなく、私を柔らかい目で、でも私をまっすぐに見ている。
「ゆかが好きです。結婚してください」
私は一瞬泣きそうになって、それを堪えて、でも涙は出てしまった気がする。
強がりじゃなくて、嬉しくて、どんな顔をしたらいいのかわからない。
一度深呼吸して、なるべくキリッとした顔になるように努力してみる。
「文学部だからといっていつも詩的な表現をしていると思ったら大間違いです。過度な装飾などつけずに思ったままを綴るのもまた、文学ですよ」
「そうなんだ?」
「だから、私も気持ちをそのまま言うね」
笑っているつもりだけど、もしかしたら泣いているかもしれない。ひどい顔かもしれない。だけど一言で全部の気持ちが伝わるように、まっすぐにたけちゃんを見た。
そして言った。
「よろこんで」




