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食べ終えた皿を脇に寄せ、残っているものをつまむ。ちょこちょこ注文して、けっこう食べた気がする。お腹はもう膨れているはずなのに、こうして少しずつだと食べ続けられるのだから不思議だ。
「たけちゃんが元気そうでよかったよ。ほとんど連絡を取り合うこともなくなっちゃってたから、どうしてるだろうとはいつも思ってた」
「連絡しないようにしてたんだよ。だって彼氏できたっていうから……」
たけちゃんからの連絡がこなくなったのは、たしかにそのころだった。すごく寂しかったけれど、一応彼氏がいるという状態で私から送るのも憚られたし、別れましたという報告をするのもどうなんだろうと思っているうちに、途絶えてしまった。
「えっと、今も?」
「別れたよ」
「そ、そうなんだ」
「うん」
たけちゃんが聞いていいものかというように目をさまよわせたので、こちらから先に話す。その人とはお付き合いを始めたものの合わなくて、三か月で別れたこと。すごい勢いでメッセージを送ってくる人だったこと。
「そういえば、なんであのとき私に彼氏ができたってわかったの? 私なにも言ってなかったよね」
「わかったんじゃなくて。ゆかの話をしてたときに佐野が『もう彼氏いるかも』って言ったんだよ。それで気になって聞いてみた」
「そうだったんだ。なんか私それっぽいことでも書いたっけ、と思ってメッセージ見返してみたけどそんな感じなくて、たけちゃんエスパーなの? って不思議に思ってたの。謎が解けた」
「エスパーじゃなくてすまんね」
実は佐野くんがエスパー? そんなわけないでしょ、と笑い合う。
そのあとにもう一人付き合ったけれど、やっぱりすぐに別れた話もした。
運ばれてきた雑炊は一人分ずつ小さな土鍋に入っていて、熱くてなかなか食べられない。ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら少しだけ口に入れる。たまごの優しい味だ。
「あのさ、すっごい今さらなんだけど……。たけちゃん、今彼女いる?」
「今はいないよ」
「今は、って言いましたね? ってことは、過去にはいた?」
「去年いました。でもすぐに別れました。同じく三か月くらい」
「そうだったんだ」
「そういえば、その人もメッセージだらけだった。朝[おはよう]から始まって、なんかどうでもいいこと送り合って、夜[おやすみ]でようやく解放される感じ。そんなに必要? って思っちゃってた」
「うわ、同じ。もしかして、付き合うとそうなるのが普通? 私たちが普通じゃなかった?」
「……どうだろ」
私たちはというと、付き合っていたときも用事がないと本当に連絡を取らなかった。そういうものだと思っていたけれど、違うのかもしれない。
たけちゃんが私のあとに付き合ったのは、その人だけらしい。大学院時代はそもそもそんな余裕がなく、去年相手から言われたから付き合ってみたが上手くいかず、という感じだったそうだ。
「で、なにが今さらなの?」
「久しぶりに会えて嬉しくて舞い上がってなにも考えずにここに来ちゃったんだけど、彼氏が元カノと二人で居酒屋の個室っぽいとこにいるっていう状況、彼女さんからしたら嫌だよな、って思って心配になったの」
「ああ、そういうこと」
たっぷり食べて飲んで話して、今頃になってその可能性に思い当たり、そうだったら申し訳ないと思ったのだけど、違ってよかった。うん? よかったのか?
「そもそも、もし彼女がいたら、別の女の人と二人きりで居酒屋には来ません。普通ないでしょ」
「そう?」
「ないよ。え、ゆかはあるの?」
ちょっと考えた。そもそも付き合っているときに他の人から居酒屋に誘われた経験はほぼないけれど、もしそんなことがあったらどうするか。それはない、と断言しつつ、でももし付き合っているのが別の人で、たけちゃんに誘われたなら。OKと言ってしまいそうな自分を感じて、いややっぱりダメだろうと首を振った。
「たしかに二人きりで居酒屋はないね。仕事で男の上司と二人で取引先に行って、時間的にランチを一緒に食べる、くらいならあるけど。仕事以外で二人きりはないね」
「意見が合ってよかったです。ってことはなんだけど、今は、その?」
「うん? あ、付き合っている人はいないよ。あまり誰かと付き合おうとも思っていないんだよね」
「え、そうなの? なんで?」
たけちゃんがまだ好きだからなのに、その本人が真面目に聞いてくるのが面白くなってしまって、私は笑う。やっぱりお酒が回っているようだ。
「なんでって、たけちゃんがいい男すぎたからだよ。他の人と付き合ってもなんか違うって思っちゃって。たけちゃんならこうなのに、って考えてしまって続かないの」
「え……。え?」
「たけちゃんのせいで、私の理想が爆上がりしてるんだよ。だから理想に合う人がいないの。どうしてくれるの。もう、責任取ってよね」
軽い感じでそう言って、残っていたチューハイを飲む。雑炊は相変わらず熱くて、冷ましながらじゃないと食べられない。
たけちゃんも熱くて食べられないのか手が止まっているので「熱いよね」と笑ったけれど、彼はなぜか目を丸くしていて、笑わなかった。
「それ、本気で言ってる?」
「え? もちろん本気だよ」
「本当に?」
「本当だって。なんでそんな嘘言うの」
私が笑って雑炊を口に運ぶと、たけちゃんは二センチほど残っていたサワーをグイッと飲み干し、ダンッとグラスを置いた。ちょっと乱暴な様子に驚いてたけちゃんを見ると、彼はピシッと背筋を伸ばす。なんだか同じような光景をついさっき見た気がする、と思いながら私は「どうしたの」と問いかけた。
彼は真面目な顔で、まっすぐに私を見て、言った。
「ゆか、俺と結婚して」




