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「今まで聞いた話をざっくりまとめると、いろいろ拗れて別れたけど、でもやっぱり好きで引きずってる、ってことであってる?」
ちびちび飲みながら、すれ違ったこととかあったことなど、なんだかんだ話すと、にょろはそう結論付けた。隣で佐野が「姉さんお酒抑えましょうよぉ直球すぎますよぉ」とにょろを止めようとしている。たしかにお酒が回っているのか、にょろの顔は赤い。いつもは佐野が暴走して周りが止めるのに、今日は逆になっていて、ちょっと面白い。
俺もお酒が入っているからか、なにを言われても別に嫌な気はせず、聞かれるままに答える。
「あってる」
「いやー、そっかー、それは辛いね」
「辛い。未練がましく、たまにメッセージ送っちゃう」
「返ってくるの?」
「くる。優しい。だから余計に忘れられない」
にょろはもう一度「そっかー」と言いながら、サラダのミニトマトを口に放り込む。そしてクピッと一口飲んだのはウーロン茶。佐野が注文してグラスを変えていた。
「正直言って、たけちゃんとゆかさんはそのまま結婚すると思ってた。たぶん私だけじゃなくて、サークルのみんな思ってた」
「俺も思ってた」
「そうなんだ? え、自分でもそう思ってたの?」
「思ってたよ。好きで付き合ってて、この人とずっと一緒にいたいと思ったら普通そうなるよね。……え、そういうものじゃない?」
どうしても学生のうちに結婚するのは無理があるから、俺が就職したらなるべく早めに結婚。そのつもりでいたと言うと、にょろと佐野が目を見合わせた。そして二人で首を横に振る。どうやらそういうものじゃないらしい。
「それ、ゆかさんともそう話し合ってたの?」
「いや、ゆかには言ってない」
「言ってないんかい!」
佐野がつっこむ。
「ごめん、私の考えが一般的なのかはわからないんだけど、学生のうちからしっかり結婚まで考えている人は、多くはないような気がする。偏見かもだけど、男の人はとくに」
「そうなの? 俺は当たり前に、好きなら結婚考えると思ってたんだけど」
「いやごめん、ほんとにわかんない。違うかもしれない。でもさ、言ってないならゆかさんにも伝わってなかったんじゃない?」
「そうなのかな」
「ゆかさんの就活関連ですれ違ったってさっき言ってたけど、結婚の話をしてないなら当然じゃない? たけちゃんの考えを知らないなら、ゆかさんが結婚を見据えて就活するのは無理だったと思うよ」
ゆかが就活をしていたときを思い出す。たしかに彼女は「将来結婚するから」ということを考えて就活をしてはいなかった。だけど俺は考えているはずだと思っていた。俺の考えはずれていたし、お互いの思いはかみ合っていなかった。
「俺が悪い~」
くてっと机に突っ伏す。わかってはいたのだ。ゆかの人生はゆかのものであって、俺が決めていいものじゃないんだって。大阪に決めたのなら一緒に喜んで応援すべきだったんだって。だけど一人でどんどん進んでしまうから、俺の存在なんてゆかには関係のないことのように思えてしまったのだと。
あのころ、悪夢を見た日があった。
続く道をゆかと並んで歩いていた。一緒に歩いていたはずなのにだんだんゆかの進む速度が早くなっていって、気づいたら隣にいたはずのゆかは前にいる。どんどん距離は離れていって、そして手が届かなくなって。俺は一生懸命呼び止めようとするのに、なぜか声がでない。なぜか足も動きにくくて、もがいても自分はちっとも進まない。ゆかとの距離はどんどん開いていく。そしてその姿さえ見失いそうになって「ゆか!」と叫び……。
その瞬間に目が覚めた。息が上がって、汗だくになっていた。
そして現実では、なんの相談もないまま大阪にしたと報告された。
悪夢はあくまで夢だったという認識はある。だけど現実のことのように思えた。
「まあまあまあ、とりあえず飲め!」
しんみりした雰囲気になったのを察したのか、にょろが「乾杯」と置いてある俺のグラスに自分のウーロン茶をカチンと合わせた。一応それに付き合ったものの気分が上がりきらない俺は、一口飲みつつ愚痴をこぼす。
「なんか俺ばっかり好きだったんだよな」
「え、それはないよ。ってゆかさん本人に聞いたわけじゃないけどさ、でもたけちゃんといるとき、ゆかさんめっちゃ女の子の顔してたもん。まさか気づいてないの?」
「そうなの?」
「そうだよ。いつも優しくて可愛い先輩だったけど、明らかに特別だったよ。好きな人を前にするとこんな顔になるんだ、っていう。めっちゃくちゃ可愛くて、うちらこっそりときめいてたんだから。ね、佐野」
「お、おおぅ」
ちょっときょどりながら、佐野が肯定する。
ゆかの笑った顔を想像して、少し心が浮ついた。そしてすぐに我に返る。ときめく、だと?
「いやまて。にょろは許す。佐野は許さん」
「ええぇ~、俺、被害者! いやいやマジな顔やめて?」
あははっ、と笑うにょろ。少し雰囲気が明るくなった。
「そういえば、私たちの認識ではさ、たけちゃんもゆかさんも穏やかでいつもにこにこしてて、怒ってるところなんて見たことなかったから、二人が喧嘩するって聞いて意外だったんだよね」
「そうなんだ?」
「そうそう。どんな喧嘩したの?」
「うーん。ごはん食べよって言われて予定が合わなくて、『じゃあこの日は?』『無理』『ここは?』『ごめんダメだ』ってなって、そしたら『私とごはん食べたくないんだ』とか言われて『なんでそうなるんだよ』ってなって喧嘩、とか」
「なにそれ」
「あとは、ゲームしてて機嫌悪くなって『もうゲームやらない』って言うから『おう、やめろ』って言ったら『もう私の部屋でゲームしないで』って言い始めて『なんでだよ、俺のゲーム機だぞ』『テレビは私のじゃん』みたいなのとか」
口に出してみると、実にくだらないと思えてくる。
それは二人もそうだったようで、にょろは「なにそれ~」と笑い、佐野は「子供かよ」とつっこむ。
「それはじゃれてるだけじゃね?」
「いや、わりとマジだったね。最後のほうはさ、もう会うたびにお互い喧嘩腰になっちゃってたんだよ。お互いを思いやれなくなっていたっていうか、そんな感じ」
思い出してみると、なんでそんなことで喧嘩になったのかわからないことばかりだ。だけど当時はお互い本気で、ほんの小さなことでもカチンとくるようになってしまっていた。思い返すと反省しかない。
「ねぇたけちゃん。そんなにまだ思ってるなら、一度会いに行ってみたら? 大阪って行けない距離じゃないでしょ。前に進むにしても、区切りをつけるにしても、一度しっかり会って話してみたらいいんじゃない?」
たしかに、と思いつつサワーを一口飲むと、佐野が「俺、一緒に行ってやろうか?」と言い出す。
「なんでだよ。一人で行くわ!」
「おお、行くんだ」
「勢いで言ってしまった」
「いいじゃん、行ってこいよ。ま、もう彼氏いるかもしれないけどな。知らんけど」
余計な一言を付け加える佐野に、にょろが肘を入れていた。




