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季節は巡り、四年生が終わろうとしていた。
俺は大学院に進学するけれど、同級生の多くは卒業して旅立っていく。
今日はサークルの同期との最後の飲み会で、大学近くの学生御用達の居酒屋に集まっていた。
「たけちゃん、飲んでる?」
「飲んでるー」
隅っこの席にいた俺のところにやってきたのは、にょろというあだ名の女子と佐野。二人とも気心の知れた友人だ。
同じサークルに入った同級生は三十人以上いたけれど、徐々に離脱していき、最終的に残ったのは二十人ちょっと。今日はその中で都合がついた人が参加している。数えていないけれど、二十人弱だろうか。
にょろたちがやってきたのは開始からしばらく経ち、みんないい感じに盛り上がって酔ってきたころだった。
ちなみににょろはにょろりとかにょろりんと呼ばれていることもある。なんでそんなあだ名になったのかは知らない。佐野はそのまま名字の佐野である。モテない代表、という不名誉なレッテルを貼られているが、意外と本人も気に入ってそれをいいように使っている、いじられキャラの男だ。
やってきた二人と何度目になるかわからない乾杯をして、一口だけ飲む。乾杯の度に飲み干していたらもたないし、やる人もいない。
「たけちゃん、最近どうよ?」
「どうもこうもないですよ。俺は居残り組だからなにも変わらないって。みんなが先に進むだけ。取り残される俺、寂し~」
にょろに聞かれて答えつつ、わざと泣きまねをしてみるが、スルーされる。
「居残りって、たけちゃんは進学でしょ。本当の居残りっていうのは彼みたいなのを言う」
にょろがちらっと目線を動かすのを、佐野が「言うな、見るな」と制する。
彼とは四年生をもう一度やることになった同期のことだ。勉学よりもサークルやバイトなどに精を出してしまった結果なので、さもありなん、というやつである。
「にょろも佐野も東京だっけ?」
「私はそう」
「俺も最初はそう。ずっと東京かはわからん」
「わからんの?」
「配属によって場所も変わってくるらしい。エリア希望は出せるって聞いたけど、まあ行ってみないとわかんないよね」
「へぇー」
俺と同じようにこの大学の大学院へ進学する人もいるけれど少数だ。他大学の大学院へ進む人がごく一部、残りの大多数は就職によりここを離れていく。進学することを決めたのは自分なので後悔はないけれど、同期がみな先を進んでいる感じがして、焦りと寂しさは感じている。
それからしばらく、なんでもないようなこととかサークルの思い出話とか、四年間彼女ができなかった佐野を慰めたりとか、楽しくしゃべって、飲んで、食べて、話して、聞いた。
その流れのまま新しくきた焼き鳥を手に取りながら、佐野が「そういえば」とその焼き鳥を俺に向けてくる。
「たけは今、彼女いないの?」
「いないねぇ」
「なんでぇ。たけは俺と違ってモテるじゃん? ゆか先輩と別れてもう一年経つイテッ」
佐野の隣に座っているにょろが佐野の腹に肘を入れている。
「佐野はさぁ、そういうデリカシーがないからモテないんだよ」
「なんだよ、にょろだって気になってるくせに」
「まあ、そうじゃないとは言いませんけど」
正直な感想を述べるにょろに、わざとなのか目を見開く佐野。俺はおかしくて笑う。
俺とゆかはこのサークルの後輩と先輩。「付き合っているらしい」なんていう不確定な情報のときから、付き合うことになったことも、ずっと付き合っていたことも、そして別れたことも、サークル内では知れ渡っている。なんなら喧嘩したことやデートの目撃情報まで共有されていたりする。
「なんでか『たけはモテるでしょ』とか言われるんだけど、モテた経験がないんだが」
「またまた~。本当にモテた経験がないというのはこういう人のことを言う」
にょろはついさっき聞いたようなことを言って、隣をチラリと見る。佐野が「俺かよ。言うな、見るな!」とこれまたさっき聞いたようなセリフを吐く。
「まあでも、ゆかさんと二人でいるのが当たり前みたいなところあったから、その状態でアタックしようという人はいないよね。四年になってからは何もなかったの?」
「ないって」
「じゃあ逆は? いいなって思う人いないの?」
わざとめちゃくちゃふざけた様子で「あっ、私はダメだよぉ」と続けたにょろに、佐野が「いやにょろはないだろ。気ぃ強いし。俺はちょっと」と言い出して叩かれている。
「佐野はデリカシー拾ってこい!」
「残念でした、落としたのではなく、最初から持ち合わせてないのです~」
「そういうところがモテないんだよ! ね、たけちゃん?」
なぜかこちらにふられて苦笑する。
なお、とても仲がいい二人だが、そういう関係では全くない。
「え~。でも俺も、にょろはないかなぁ」
「ガーン! たけちゃんに振られた。告ってないのに!」
「だってにょろは彼氏いるじゃん。彼氏いるってわかってる人を好きにはならないでしょ。略奪する趣味とかないし」
にょろは一瞬真顔になって、ぱちぱちと目を瞬いた。そして佐野をペシッと叩く。
「モテる男の対応はこれだよ。これなんだよ佐野! わかった?」
「ええぇ~?」
「それで話戻るけど、いいと思う人いないの?」
隣で佐野が、俺にデリカシーって言うくせににょろのが聞くじゃん、突っ込むじゃん? などとブツブツ呟いてスルーされている。
話を返されて、俺は「いないね~」と答えた。いいと思う人、好きな人。そう言われたときに思い浮かぶのは、いつもゆかだ。
「俺はまだゆかのことが好きだからさ」
「ええぇ~?」
お酒を飲んでいるからか、口から滑るように出た言葉に、二人が目を丸くしてお互いを見合っている。
「えっ、そうなんだ。それじゃあしょうがないよね」
「たけ振られた側だっけ?」
「いや、まあどっちかというと振った側になるのかな、微妙なとこだけど」
「え、好きなのに振ったの? なにそれ意味わかんない」
「君はちょっと黙ろうか佐野くん」
にょろに言われた佐野が真面目な顔で「お口にチャック」をやっている。
「もうこうなったら、お姉さん話聞くよ。最後だし。あ、でも、言いたくないことは言わなくていいんだけどさ」
「うん」
佐野が「同い年」と呟いてお口にチャックをやり直しさせられている。生まれ月でいうとたしかにちょっとだけにょろがお姉さんではあるけれど、三人とも同じ歳だ。




