↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/55

16話 鉄の塊

「ステラ。なにか感じるか?」

「ちょっと待って。今集中してるんだから、話しかけないで」


 城内を捜索する最中、ステラは聖杖パステリアウィッシュを胸元へ引き寄せ、一点を見つめながら眉間に力を入れている。

 杖に嵌められた青い宝石が蛍に似た瞬きを見せ、そこから伸びる薄い光の帯が、周囲の空間を探るように揺れ動いていた。


 一行がいるのは、エリシオン城の東側区画。

 壁や天井には太い配管が通り、内部を流れる蒸気の音が絶えず響いている。一定の間隔で設置された圧力計や、規則的に回転する大小の歯車。鈍色の金属板で補強された壁。

 王城であると同時に巨大な研究施設でもある、エリシオンならではの景観だった。


「この付近の魔力計測器は、昨夜も異常値を示していた」


 トーマが手元の記録用紙を確認しながら説明する。


「ただ、反応が続いたのは数秒だけ。技術者が駆けつけた時には、なにも残っていなかったそうだよ」

「だったら、計測器の故障じゃないのかい?」


 シルビアは片目をつむって首をかしげた。


「同じ時間に、離れた場所にある三台が一斉に反応した。偶然とは思えない」

「だからって、城の中を片っ端から歩くしかないってのか? もう一刻近く歩いてるよ」

「文句を言うな。お前が城内の構造をほとんど覚えていないから、私たちも同行しているのだ」


 クラウスが険しい顔で妹を窘める。


「仕方ないだろ。忘れちまったもんは忘れちまったんだよ」

「ルビィだった頃は、この辺りにもよく来ていたんだよ」


 口元を緩めながら、トーマが遠い目をしている。


「工房の機械が珍しいと言って、僕の後ろをついて回っていた。職人たちから危ないと叱られても、全然聞かなくてね」

「へぇ。昔から人の言うことを聞かなかったのね」


 杖を寄せて探知する作業は継続。そのままステラは見透かしたような嫌な笑いを浮かべた。


「誰がだよ!」

「アンタ以外にいないでしょ」

「お前にだけは言われたくないね、自称天才娘」

「自称じゃないって何度言わせるのよ!」

「二人とも静かにしろ。ステラは探知へ集中するんだ」


 だがこのように罵り合いはすぐに始まる。

 クラウスの一喝が入ると、ステラは口をへの字に曲げてシルビアを睨んだ。

 シルビアは、目を細めながら不満げにそっぽを向く。


 陸徒は二人のやり取りを見て、苦笑を浮かべる。

 こうして並んでみれば、性格はよく似ていた。

 どちらも自信が強く、負けず嫌い。自分が正しいと思えば、他人の制止など聞き入れない。


「陸徒。今、失礼なことを考えてなかった?」

「別に」

「アンタの嘘をつく時の癖はバレバレって言ってるでしょ」

「ははっ、そうだったな」

「わかりやすいからね」

「お熱いこって」


 横からの揶揄いの声。

 ステラは頬を赤くし、聖杖の石突きでシルビアの足を軽く突いた。


「痛っ! なにすんだよ!」

「集中の邪魔をするからよ!」


 もはやこの二人は別行動にしたほうがよいのではと思えてくる。

 騒がしい調査は、その後も続いた。


 工房区画、続いて王族の居住区。さらには地下保管庫へ続く通路と。ステラの探知とトーマが集めた記録を照合し、魔力の異常が確認された場所を順番に巡っていく。

 しかし、異変の正体は見つからない。


「おかしいわね」


 ステラは立ち止まり、眉をひそめる。


「城全体に微かな歪みが広がっているのに、発生源だけが掴めない」

「動き回っているのか?」

「それとも、複数の場所から同時に発生しているのか……」


 顎に指を当てて可能性を巡らせていた、その時。

 聖杖パステリアウィッシュの青い宝石が強く光った。


「見つけたのか!?」

「待って。この反応、さっきまでと違う!」


 ステラは顔を上げ、城の西側へ振り返る。


「魔力じゃない。もっと歪で、強引に空間を押し広げるような——」


 その時、彼女の言葉を遮るほどの凄まじい爆発音が響いた。

 城全体が揺さぶられるような震動。天井から細かな埃が落ち、壁を走る配管が金属音を鳴らした。

 続けて遠方から、人々の悲鳴と警鐘が聞こえてくる。


「なんだ!?」

「西側の城壁だ!」


 クラウスが即座に反応する。


「全員、現地へ向かうぞ!」


 一行は一斉に走り出した。




 西側の城壁付近。

 巨大な石壁の一部が崩れ、城の中庭へ無数の瓦礫が散乱していた。

 周囲には黒煙が立ち込め、兵士や工房の技術者たちが慌ただしく避難している。


「なにが起きたんだ!」


 陸徒たちは渡り廊下から中庭へ飛び出した。


 視界の向こうで白く巻き上がっている奥から、重く規則的な音が響く。

 ガラガラと金属同士を擦り合わせながら回る、無限軌道。排気とともに低く唸る機関音。

 そして、石畳を押し潰しながら進む鉄の巨体が、煙の中から姿を現す。


「うそだろ……」


 陸徒は目を見開いた。

 厚い装甲板で覆われた車体と、上部に付けられた回転式の砲塔。そこから長く伸びた砲身と、側面へ設置された重火器。

 日本で実物を間近に見たことはない。それでも、映像や写真を通じて誰もが知っている兵器だった。


「戦車……?」


 ステラも額から汗を垂らし、驚愕の声を漏らす。


「なんだ、あの鉄の塊は」


 シルビアが双竜剣の柄へ手を添えながら、怪訝な顔を見せる。


「あれは、俺たちの世界の兵器だ」

「兵器?」

「分厚い鉄の装甲で攻撃を防いで、あの長い砲身から砲弾を撃つんだ。威力は、たぶんお前らが想像してるよりずっと硬い」


 陸徒は戦車の上部へ目を凝らす。

 搭乗口は閉じているが、中に人の気配は感じられない。周囲に操縦者らしき者もいない。

 にもかかわらず、戦車は砲塔を動かし、逃げ惑う兵士たちへ照準を合わせていた。


「こっちには俺たちの世界のものが出てくるのかよ。それも、誰が操作するでもなく勝手に動いている……!」

「日本ではミドラディアスのモンスターが現れ、今度はミドラディアスへ日本の兵器が飛ばされた」


 ステラは戦車から漂う波動を探る。


「やっぱり、二つの世界の境界が崩れ始めているというの?」


 戦車の砲身が、中庭に集まる人々へ向けられた。


「まずい!」


 クラウスが腰の剣を抜く。


「総員、非常態勢! 非戦闘員を城の東側へ避難させろ! 近衛騎士隊は西側中庭へ集結! 盾兵を前列、弓兵と砲撃兵を後列へ配置しろ!」

「はっ!」


 響き渡る指示に、混乱していた兵士たちが即座に動き始める。

 王太子であると同時に、騎士団長のクラウス。迷いのない彼の判断と声が、崩れかけた統率を瞬く間に取り戻していく。


「トーマ!」

「わかってる!」


 トーマは壁際に設置された金属製の操作盤へ駆け寄った。

 蓋を開き、内部の複数のレバーを動かす。


「工房中央制御室へ伝達! 西側区画の蒸気圧を防御機構へ集中! 隔壁を閉鎖し、第二から第五防壁を起動!」


 近くにいた技術者が、伝声管のような装置へ向かって同じ指示を繰り返す。

 城壁の内部で巨大な歯車が回転を始めた。

 地面が振動し、中庭の各所から鈍色の防御壁がせり上がる。幾重もの金属板が噛み合い、兵士や避難する者たちを守る盾となった。


「陸徒、ステラ。それとルビィ!」

「誰がルビィだ! 今はシルビアって呼びな!」

「どちらでもいい! あの兵器を止められるか?」


 クラウスの問いへ、陸徒はラディアセイバーの柄を抜く。


「やるしかない!」

「アタシも援護するわ!」

「面白そうじゃないか。鉄の塊だろうがなんだろうが、ぶった斬ってやるよ!」


 シルビアは紅と蒼を鞘から同時に引き抜き、くるくると回転させてから構えた。


「ルビィ、わかっているな?」

「はいはい」


 クラウスの念押しに、シルビアは鬱陶しそうに顔をしかめ、同時に陸徒と前衛へ立つ。

 ステラは聖杖を構え、後方から援護する位置へ移動した。


 戦車の砲塔が回転。

 長い砲身が、三人を捉える。


「来るぞ!」


 陸徒が発した次の瞬間、砲口が激しく光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。