シェイキング・インザ・ベイビー
―プツッ―
「⋯かしこまりました。」
バタンと扉が締まり、ふたりの声が聞こえる。
「秘書とは⋯これはまた余裕があるようですね?社長⋯」
「は、ははっ⋯融資が決まったものでつい⋯ですが、もうこれで大丈夫です!間乃坂さんへの返済は必ず。」
「融資が決まった?まだ正式決定ではないと聞いてますが。」
「⋯!ですが、添島くんという帝桜みのり銀行の御曹司が確約してくれています!間違いありません⋯!」
「そうですか。では、その言葉を信じましょう。ですが⋯」
少しの沈黙の後間乃坂が話す。
「もし融資がされなかったらわかっていますね?」
「⋯」
「私の部下たちがもう、おたくで働き始めています。なぜか?貴方が逃げないようにするためです。⋯私のような裏の人間から多額の借金をしたんだ。分かっていたでしょう?」
「は、はい⋯」
「その時はこの会社のすべてをいただく。警察に助けを求めれば、もっときついペナルティを与えることになりますが⋯」
「⋯そ、それだけは⋯」
「融資が成功すればいいんです。リラックスリラックス。」
「⋯」
再生ボタンを切る。
「なるほど。」
あの間乃坂という男、どうやら反社会的勢力の人間だったようですね。
「その借金返済のためにウチからの融資を。」
そんな大変な経営状態、あの決算書(融資の際に会社の状況を判断する書類)には載っていませんでした。
「ということは⋯」
私はとある仮説を立てながら、あの子たちからの報告を待つことにしました。
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「ササッ⋯サササッ⋯」
「⋯」
「ズバッ⋯!サササッ⋯」
「ん⋯水野ちゃん。」
「⋯!何してるんですか課長⋯!バレますよ、奴に!」
「悪目立ちしてるからやめな?」
「⋯」
今我々は、恵守先輩からの頼みで添島京介を尾行しています。
終業後、アイツは繁華街を歩いておりどこかへ向かっている様子。何かあるのかもしれません。
「それにしても、不正の証拠かぁ。何が出てくるんだろうね。」
「そりゃあきっととんでもない不正でしょう。賄賂とか!」
「いや、銀行員でそんな事したら一発アウトだよ?いくら彼でも⋯」
「ないと言えます?」
「⋯言えない。」
「でしょう⋯?」
そんなことをコソコソ話していると、添島京介はとあるビルの前で足を止めて中へ入っていきました。
「バーか。」
「変装してるとは言え、さすがに入っていったらバレますよね⋯」
「んー。どうしよう。」
「もしかしたら不正の証拠が出てくるかもしれないのに、ここで足止めなんて!」
「⋯化粧道具持ってる?」
「え?まぁ⋯」
「じゃあ行こっか。」
「え?」
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カランコロン―
「⋯!いらっしゃいませ。」
「1人だけどよろしくて?」
「もちろんです。どうぞお客様。」
「ふふっ、ありがとう。」
永田課長に連れて行かれたのはコスプレショップでした。
そこで貴婦人風の衣装と、ウィッグ、サングラスを買い与えられ、今私はマダムとしてこのバーに潜入しました。
(私はマダム、私はマダム、私はマダム!)
自分のなかのマダム像を誇張しながら演技していますが、本当にバレてないのでしょうか⋯
(い、いたっ!)
添島京介は一番奥の席に座っており、私を少しギョッとした表情で見たあと、すぐに目をそらしました。
(これはバレたのではなくて、驚いただけですね。たぶん。)
奴の席の隣には飲みかけのグラスがおいてあり、誰かが同席してる痕跡があります。
「⋯おまたせ、添島くん。」
隣にはお年を召した男性が座りました。少し気弱そうな感じの方です。
「しゃちょーも心配性っすね?こんなにオレを呼び出すなんて。」
「だって⋯融資の件、まだ正式決定じゃないって本当かい?」
「まぁ、正式じゃないだけでほぼ決まりっすよ。」
「困るよぉ⋯こっちだって切羽詰まってるんだからさ!」
早速本題!?ってか隣の人キノモトゲーミングの木之本社長じゃないですか!
「わかってるっすよ⋯くそっ、あの支店長。」
「君の言うとおり粉飾までしたんだ⋯ここまでして無理なんて言わないよね!?」
「大丈夫ですって!オレ頭取の息子っすよ?支店長がなんか悪あがきしてるっすけど、どうにでもなるっす。」
「それならいいんだけど⋯」
「それより、成功したときのことはわかってるっすよね?」
「ああ。1000万くらいなら、融資されたところから引っ張ってくるよ。」
「そりゃよかった。いやぁ、頭取の息子だって言うのに給料は大したことないっすもん。こうやって作っていかないと!」
「ははっ⋯」
「まぁお互い、協力して頑張りましょ?いちれんたくしょー?ってやつっす!」
「そうだね⋯」
「それじゃ、今日のところはこれで。決まったらまた会社で会いましょー。」
「うん、また⋯」
添島京介はそのまま出口の方へ向かい、木之本社長も会計をして出ていきました。
「⋯はぁ。バカって本当にいるんだなぁ⋯」
私は出てきたカクテルを飲み干し、サングラスを外しながらICレコーダーの録音を止めた。
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