壁に耳あり、障子に目あり
前回のあらすじ
支店長、そして私の恩人である駿河人事部長からの頼みで、頭取の息子、添島京介の不正融資の闇を暴くことになった。
私は今、キノモトゲーミングのオフィスに清掃員として潜り込んでいる。
「美春ちゃん、お疲れさま。はい、コーヒー。」
こちらの方は清掃員の先輩で、成瀬茜さん。主婦をしながら、こちらで勤めてらっしゃるベテランの清掃員さんだ。
「ありがとうございます。」
「それにしても、美春ちゃんが入ってくれたおかげで助かったわよ。今ウチの会社、人も増えて掃除が大変になってねぇ⋯」
「なぜ人がそんなに増えたのですか?」
「なにか、新しい商品を作るためにいろんなところからヘッドハンティングしてきたんだって⋯でもね⋯」
少し暗い表情になった茜さんは、ヒソヒソ声で話し始める。
「最近ウチに来た社員さん⋯何か様子が変なのよ⋯」
「様子が?」
「うん⋯なんていうか⋯ウチってゲームの会社じゃない?プログラマーみたいな人たちが増えるならわかるんだけど、なぜかガラの悪そうな人たちが増えてねぇ⋯」
「おい、おばさん。」
私たちが休憩しているところに、金髪のチンピラのような男が話しかけて来た。
「⋯はい!どうしました?」
「俺にもコーヒーくれよ。」
「すみません。私、清掃員なんですけど⋯」
「あぁ?だからなんなんだよ。ウチの人間にはかわりねぇだろ。さっさとやれよ使えねぇな!」
「すみません⋯すぐに⋯」
カチンと来ました。ですが、ここは冷静に。
「私が入れます。」
「あ?アンタ新人?かわいい顔してんじゃん。」
ガラの悪い連中は、本当にテンプレのような言葉しかしゃべらない。
「ありがとうございます。」
「ババアに入れてもらうよりこっちのほうがいいなwこれから頼むわw」
「⋯少々お待ちください。」
苛立ちを抑えながらも、コーヒーをつぐために給湯室へ急いだ。
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「ごめんね、美春ちゃん⋯あんなの相手させて。」
「茜さんは何も悪くありません。いつもあのようなことを?」
「ええ⋯あんな人が何人も増えて⋯これからどうなっちゃうのかしら⋯」
不安げな表情でポットの水をわかす茜さんを横目に、インスタントコーヒーを探す。
「茜さんの仕事ぶりからしたら、どこでもやっていけると思いますよ。それこそ、引く手あまたというやつです。」
「そう言ってくれて、うれしいわ。」
「しかし、なぜあのような人が増えたのでしょう。」
「うーん⋯社長がいろんなところから引っ張ってきたということしか聞いたことはないけど⋯あっ、社長の知り合いの人からの紹介かもしれないわね。」
「社長の知り合い?」
「間乃坂さんっていうやり手の社長さんなんだけど、その人とウチの社長が仲良くてね?時々顔見せに来るのよ。」
思い出したかのように、喋り始めてくれた茜さんは続ける。
「品がいい人でねぇ⋯ウチのゲーム開発のために資金提供までしてくれてる人で、今回の新商品も間乃坂さんのお金のおかげでできるんですって!すごいでしょ?しかも、まだ20代だっていうのよ。偉いわぁ⋯」
茜さんはとてもおしゃべりな方なので、こちらが問わなくても好き放題喋ってくれた。
資金提供⋯添島くんの話には出てきてなかった話です。これは少しクサいですね。
「⋯おい!まだかよコーヒー!」
「あっ!⋯もう少々お待ちくださいませ!」
ビクッと体を震わせて、せかせかコーヒーを作る茜さん。私は落ち着くように両肩に手を当てて、コーヒーづくりを手伝った、
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-数日後-
「ちょっと、君。」
「はい。どうなさいましたか?」
ここに入って一週間が経ち、始めて木之本社長から話しかけられた。
「清掃員として入ってくれている恵守くんだね?」
「はい、そうです。」
「配置転換をしたい。君、秘書をやってくれないか。」
「秘書ですか。」
⋯急展開です。なぜそのようなことになるのでしょうか。
「君の履歴書見たよ。秘書検定持ってるんだってね。ウチは今規模拡大中だから秘書が必要になってきたんだ。」
「清掃員の数が減りますが、よろしいのでしょうか?」
「かまわんよ。君のような秘書がいてくれたら、私の仕事も捗るからね!はっはっはっ!」
このスケベジジイ。
しかし、この違和感。永田課長が言っていた木之本社長の雰囲気とは違い、とても横柄な感じだ。
「今日は私の友人が来るんだ。接待してくれ。」
「⋯かしこまりました。」
思っても見ないチャンスが回ってきた。恐らく間乃坂社長の事だろう。
少し様子を伺わせていただきましょう。
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「どうも、木之本さん。」
「これはこれは、間乃坂社長!お待ちしていました!」
扉を開けてきたのは若くてひげをたくわえた、やり手社長といった風貌の男。
その若者に、倍以上年が離れいてるであろう木之本社長が、慌てたように挨拶している。
まさに平身低頭。あからさまに見えるほどの上下関係がこちらから見て取れます。
「ん?こちらは?」
「あぁ⋯ウチの新しい秘書です!恵守くん!」
「恵守美春と言います。」
「そうですか、よろしく。」
手をスッと伸ばしてきた彼に、私も手を出して応える。
「ところで社長。この間の話はうまくいっているのですか。」
「そ、その件ですね。⋯恵守くん、コーヒーを持ってきてくれ。」
「かしこまりました。」
社長室の扉を開けて小走りで給湯室に急ぐ。
「ふぅ⋯ちゃんと録れてればいいのですが。」
いつものようなインスタントではなく、ちゃんと豆からひいて丁寧に作る。ミルもパックも私物を持ってきた。
私、けっこう凝り性なんですよ?
5分後、社長室の扉をノックしてコーヒーを持っていく。
先ほど話しかけていた話は終えたのか、2人は世間話に移っていた。
「コーヒーです。どうぞ。」
「ありがとう。」
間乃坂社長は砂糖とミルクを流れるように入れて、ずずッとコーヒーを飲み始めた。
「うん、美味い。いい秘書の方を雇いましたね。」
「恐れ入ります⋯」
少し先程より元気のなくなったら木之本社長が、頭を下げている。
「では忙しいのでこれで。恵守さんもまた。」
「ありがとうございます。お気をつけて。」
バタンと社長室の扉がしまると、2人の社長は玄関へ向かっていく。
「⋯どうでしょうか。」
2人が駐車場に着いたのを目視し、私はソファのなかに手を入れて、ICレコーダーの録音停止ボタンを押した。
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