暗雲の日
「さっ、3億!?どでかい融資を取ってきたな⋯」
「うっす!これも俺の実力ってやつっすよw」
9月に差し掛かったある日、添島くんが大型の案件を自信満々で持ってきた。
(本部から下駄履かせてもらってるだけなのに、何でああも誇れるの⋯)
「しかし、この『キノモトゲーミング』という会社、なぜこんな大型融資を?」
「この会社、ゲーム開発なんかをしてる会社らしいんすけど、なんか今調子いいらしいんすよねぇ。」
「ほう。」
「設備資金が欲しいって話してたんで、俺が話をつけてきたってわけですよw」
「ふーむ⋯俺も次の話し合い同行させてもらって話を聞かせてもらおう。」
「はいwまぁ、即決でもいいと思うっすけどねぇ。」
「新規の取引先だからな。詳しく聞かないと稟議は通しづらいさ。とりあえずアポを取ってくれ。」
「りょーかいっす。」
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数日後
桜国橋支店 屋上
「はぁ⋯」
「どうしたんですか課長?そんなため息ついて。」
いつものように喫煙所で休憩していたら、永田課長が悩ましげな表情でうなだれていた。
「いやぁ、こないだ添島くんが持ってきた融資なんだけどさ。」
「3億円の融資でしたね。」
「昨日その会社に同行したんだけど、ちょっとまずいことになってさ⋯」
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「木之本社長、ウチのかちょーを連れてきましたぁ。」
「おぉ、添島くん⋯そちらが課長さんですか。」
「はじめまして、桜国橋支店 融資課長の永田です。このようなお時間をいただきありがとうございます。」
第一印象としてはなんだか、自信なさげという感じ、というより頼りない社長だなと思った。
「今回3億円という大型の融資をご依頼いただき、ありがとうございます。」
「あぁ⋯そうですね⋯」
「そこで、資金用途の詳細な情報をお聞かせ願えないでしょうか。」
「は、はい⋯」
木之本社長はたどたどしく話し始めた。
「当社はゲーム開発を主としている会社でして⋯普段は大手のゲーム会社から委託されて開発をしております⋯」
「なるほど。」
「今回AIを使用した自社開発のゲームを制作する運びになりまして⋯その制作費や広告費、諸々含めた設備資金を融資していただきたいんですが⋯」
「⋯承知いたしました。こちらの会社さんの財務状況のわかる書類を添島から見させていただいたのですが、そちらを見た限りでは問題ないと思います。」
「ほ、本当ですか⋯?」
(ん⋯なんだこの反応は⋯?)
木之本社長は先ほどまでの不安げな表情から、にやりと笑いそうになった顔を手で隠した。
「しゃちょー?だからいったじゃなっすか!俺に任せればだいじょーぶだって!」
「あ、あぁ⋯ありがとう、添島くん⋯」
この2人、新規で取引する相手なのに、何でこんなに距離が近いんだ⋯?これが添島のコミュ力の賜物なのだろうか⋯
「では、支店長の轟とともにまた改めて伺わせていただきます。」
「ありがとうございます⋯」
「そーだ。これ詳しい内容の書類なんで、社長、目をとーしといてください。」
添島が出した書類は今回の融資の金利などの詳細が詳しく書いてある提案書だった。
「ん⋯はっ⋯?」
俺が驚いて添島の方を見ると、いつものようなニヤケ顔を浮かべていた。
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「どういうことかな⋯?聞いてないけど⋯」
「何の話っすか?」
「無担保のことに決まってるだろう!」
先ほどの書類には金利や担保のことなどの詳細が載っていたが、金利も格安。さらに無担保というめちゃくちゃな提案書だった。
「そりゃ、社長が担保に出せるものがないって言うから、俺なら無担保で貸せるって言っただけっす。」
「新規のまだどんな企業かもわからないところに、無担保で貸すなんて無理だ!提案するにしても、私に相談するべきじゃないのか⋯!」
「⋯おい。」
胸ぐらを添島に掴まれた。
「⋯っ!?なにを⋯!」
「あんた俺に指図すんのか?俺に喧嘩売るなんていい度胸だな。」
「っ⋯」
「俺がせっかく取ってきた融資に難癖つけやがって。親父に言ったら、あんた一発で出向だぞ?」
「⋯!?そ、それは⋯」
出向。
グループ会社や取引先へ異動させられる事。銀行から出された人間が、銀行へ戻ることはほとんどない。
その言葉が出ただけで、全銀行員が青ざめる。
「まぁいいわ⋯あんたすっ飛ばして支店長に稟議飛ばせばいいだけだし。」
奴がパッと服を離すと、俺は苦しさから解放された。
「っ⋯げほっげほっ⋯!」
「まぁ、あんまり人の邪魔すんなよwアンタは所詮俺にとっては上司でもなんでもねぇんだから。」
「くっ⋯」
あまりの無力さに声を上げることすらできなかった。
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「あんのクソガキっ!!ふざけるのも大概にしなさいよっ⋯課長っ!そんなのさすがに駄目でしょう!」
「だけどねぇ⋯出向なんて言われたら俺もう何にもできないよ。」
「⋯⋯⋯」
諦めたように腑抜けてしまった課長をよそに、恵守先輩が考え事をしている。
「恵守先輩も許せないですよねっ!?」
「⋯えぇ、そうですね。」
「もう添島くん支店長に稟議出してんだろうなぁ⋯どうなることやら⋯」
―プルルッ!プルルッ!―
「ん?電話か⋯ゲッ⋯!」
スマホを見て青ざめたということは、支店長からか⋯
「はい⋯永田です⋯」
そこから数分間、ペコペコしながら電話に出ていた永田課長だったが、少し驚いたような声を出した。
「え⋯恵守をですか⋯?はい⋯はい⋯かしこまりました⋯」
通話を終えた永田課長は、こちらのほうを向き直った。
「恵守ちゃん。今日の夜の予定開けといて。支店長がお呼びだよ。」
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