バカ息子かやってきた。
7月中旬。
今、桜国橋支店 融資課はいざこざの真っ只中にいる。
「水野ちゃーん。早くしてよぉ。」
「はい、ただいまぁ!」
私は今、お茶くみをしている。
それくらい普通だろう?と思われるだろうけど違うんだなぁ⋯
後輩にしているのだ。
しかも最近配属したばかりのペーペーの新入社員に⋯!
「お待たせしましたぁ⋯」
「おっそいよ!もっと仕事早くしないと出世できないよぉ?だめだなぁ、水野ちゃんはw」
「は、ははっ⋯すみません⋯」
このムカつく奴は、添島 京介。
新入社員のくせに、生意気にも4年も先輩の私をあごで使う、クソガキなのである。
「添島くん。仕事にはなれたかね?」
「あっ、支店ちょー!もちろんっす。銀行の仕事も楽なもんっすね!」
「ははっ!そうか、将来有望だな!」
「うっす!すぐに本部行って出世してみせますよ!」
「期待しているよ!ハッハッハッ!」
肩をポンポンと叩き、轟支店長は席を離れる。
支店長までVIP扱いっ⋯!私があんな態度をとったらおそらく日本の果てまで左遷されるだろうに⋯
みんながこいつに気を使うのには理由がある。
なぜならこいつは、帝桜みのり銀行 添島頭取の一人息子だからだ。
頭取はこの銀行のトップ、ドン、帝王なのである。
そのような方の御子息に、1平民である我々が文句を言えるわけなんてないのだ。
一人を除いては。
「添島くん。頼んでいた資料、まとめてくれた?」
「あっ、まだっすよ?」
「まだ⋯?」
「だって資料整理なんて面倒くさいだけで面白くないんですもーん⋯もっと俺にはふさわしい仕事があるっつーか⋯?」
「新人にとっては分相応な仕事だと思うのだけど。」
「わかってねぇなぁ⋯ってかそんなの自分でやればいいじゃないっすかw美春さんにはお似合いっすよw」
「そうね。期待した私が悪かったわ。」
「⋯はぁ?」
融資部のエース、恵守美春はどんな人にも媚びない人だ。そんなことは分かっていたのだけれど⋯
「なんだよその態度?俺が誰か分かってんすか?」
「分かっていますよ。何も仕事ができない新人さんですよね。」
「おいっ!ちょっと成績いいからって調子に⋯」
「あ、あわわ⋯」
「まぁまぁまぁ!!添島くん!この子わかってないだけだから!落ち着いて!!」
永田課長が、最悪の空気に割ってはいる。
「チッ⋯ちゃんと言っていてくださいよ。」
ブツブツ言いながら自分の席に帰る京介を尻目に、永田課長が給湯室の方へ恵守先輩を連れて行った。
___________________________
「もぉ⋯さすがに勘弁してよ⋯」
「何のことでしょう。」
わざとやってるのは分かっている。しかし、俺がフォローできることにも限界があるのだ。
「彼はね!頭取の息子なんだよ!と・う・ど・り!そんな子にケンカ売ってどうするのよ⋯」
「ケンカなんて売っていません。新人に指導をしただけです。」
何が指導だ!
しかし恵守ちゃんの言うことも然り。添島くんには困ったものだ。
「彼が来て1週間で、ここまでめちゃくちゃされるとはねぇ⋯早く本部でもどこでもいいから移ってくれないかな⋯」
「何を言ってるんですか課長。彼が上の立場になったらこの銀行は終わりです。」
「わかってるさ!でもねぇ、俺たち銀行員が上に喧嘩を売るってのは自殺行為そのものなんだよ?しかも彼は一応名目上は下っ端。俺たちが勝手に気を使ってるだけだから処分もできないし⋯」
「情けない限りですね。」
そこまで言うか、そこまで。
「君が怒るのもわかるけど、喧嘩するのだけはやめてくれよ⋯俺の胃に穴が空きそうだ⋯」
「善処はします。」
心にも思ってないだろう返答をした彼女は、俺に背を向けて自席に戻っていく。
「ああ⋯もうどうにでもなれ!」
融資課の未来に一抹の不安を抱えながら、俺は喫煙所に向かうのだった。
ご精読ありがとうございます。
ご感想、お待ちしております。




