抱き合わせ商法
このウッドフィールドには、問題がある。
「あっ、ミハル!おはよう。」
「おはようございます。ルミナさん。」
「今日も街まで遊びに行くの?また一緒にいきたいなぁ⋯」
「いえいえ、ちょっとした野暮用ですよ。ルミナさんはお仕事ですか?」
「うん。私たちはいつもそうだよ。だけど⋯」
ルミナは家の方を見る。
そこでは年端もいかないエルフたちが、せっせと仕事をしている。みなうら若い少女たちだ。
「この村は女の子ばっかりだから、力仕事は苦手でね⋯でもここじゃそんな仕事しかないからさ。」
「狩りをするのは家の長女と決まっていますからね。狩っていい動物の数も、村の取り決めで決まっていますし。」
「⋯私みたいな妹たちは、力仕事ばっかり。正直しんどいよ⋯」
ため息をつきながら肩を落とすルミナの声がかかる。
「ルミナー!忙しいんだから、早く手伝ってくれぇ!」
「⋯はーい!じゃ、ミハル。またね!」
「お仕事、がんばってください。」
彼女に手を振りながら、この村の将来について思いを馳せる。
この村エルフにはある特徴がある。
それは女性率の多さだ。
たまたまの偶然なんだろうが、ここ数年、男性のエルフは片手で数えられるほどしか生まれていない。
完全な女余り社会。それがこの村の地域的な問題になっている。
幼い頃から学校もない片田舎で育った彼女たちにとって、都会に出稼ぎに出るのはとても難しい。
狩猟や、繊細な作業に特化した彼女たちを受け入れられるのは、製糸工場などの工場になるが⋯
正直そのあたりの工場には人手が足りているのが現状だ。人間たちの娘たちが働いてる以上、異種族の彼女たちが入り込む隙がない。
「⋯無理をしてでも力仕事をしなくてはいけない⋯困ったものですね。」
幼い頃から自分のことを面倒見てくれた姉のような存在。それが彼女たちだ。
どうにか救う方法はないものでしょうか⋯
彼女たちがせかせかと働く姿を、私はただ見つめていました。
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「ど、どういうことなんだい?ミハル。」
「そうだ。練習しなきゃいけないのに売れるっていうのは、変な話じゃねぇか。」
ミハルの話は要領を得ない。
使えないから、成功する。全くもって話にならないのだ。
「では、見ていただくとしましょうか。⋯ということで、お願いしまーす。」
「はーい。」
ミハルの呼びかけに、入口の方から答える声。
とても耳馴染みがある⋯?
「お待たせしましたぁ。」
「⋯何をやってるんだエリアス。というかなんだその格好は!」
「ふふっ。ミハルに用意してもらったんですよ。似合いますかぁ?」
パリッとしたシャツに、胸元のリボン、その上から紺色のベストとスカート⋯分からん⋯なんだこの格好は⋯?
「これぞまさしく、The事務員の制服です!」
「いや、あまり見馴染みはないが⋯」
「可愛いですよねぇ?トールさん?」
「⋯えぇ、とてもお似合いですよ。お嬢様。」
昔なじみのじいさんに感想を無理やり出させているエリアス。その横から先程の台帳をミハルが持ってきた。
「おかあさん、これ。いつもの調子でお願いします。」
「はーい。練習の成果、みせるわよぉ。」
そろばんとやらを受け取ったエリアスが席につく。
「ミハル、何をするんだい?」
「静かに⋯では、スタート」
―パチパチパチ⋯パチパチパチ⋯
「おいおい⋯どうしたんだエリアスちゃんは?」
「お嬢様までそろばんを使えるのですか⋯!?」
「しかも、結構早いっ!」
ミハルほどではないが、確実に速い。
計算尺で計算するよりも、もっと言えば銀行でプロの連中がデカい計算機を使っているのよりも確実に速いのだ。
「それよりも⋯こんな真剣なエリアスを見たのは初めてだ⋯」
「⋯ふぅ。できたわよぉ。」
ミハルが横の用紙を確認してニヤリと笑った。
「ご名算です。さすがですね、おかあさん。」
「ふふふっ。やればできるものねぇ。」
ミハルがこちらに用紙と帳簿を渡す。
「この1か月分。あの騒動があってから、おかあさんにそろばんの技術と事務員のマナーをきっちり叩き込みました。結果はご覧のとおりです。」
「た、たしかに正解している。スピードもトールじいさんを随分上回っていた⋯」
「私の真のプランをお伝えします。それは⋯」
ミハルは手元にあった紙を、こちらに突きつけてきた。
「この村に、職業訓練校を作ることです!」
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