表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/26

プロフェッショナルというブランド

「⋯それで、あげちまったってのか!バカだねぇオメェも!」


「⋯しょうがねぇっすよ。だってあの子に借金肩代わりしてもらったんっすよ?」


「それもこれも私のせいです⋯申し訳ない⋯」


 あれから1ヶ月後、工場に集まった俺たちギルドのメンバー。


 事の経緯を2人に話すと、責められたり、謝られたり、とにかく慌ただしい会議になった。


 娘にギルドの経営権を渡した。


 しかも7才の子供に。そりゃ反発はあるだろうと思っていたのだが。


「⋯まぁ仕方ねぇな。全部奪い取られるよりはマシだ。」


「⋯責めないんですね、ギルアドさん。」


「バカ野郎っ!この責任をテメェになすりつけるほど、落ちぶれちゃいねぇよ。こんなになるまで楽観視してた、全員が悪いってことだ。」


「⋯しかし、ミハルお嬢さんはこれからどうするつもりなんでしょうか⋯」


 トールじいさんの疑問はもっともだ。


 盾の製造にあれだけ反発されたんだ。もうギルドとして、武器の製造なんてやらせてもらえないのかもしれない。


「武器職人から、木工細工職人に転身とかか?俺の40年⋯全部無駄になっちまうのかな。」


「そんなことはありません。」


「うわっ!ミハルちゃん、驚かさねぇでくれよ!」


 俺達のそばにひょっこりと顔を出したミハルは、何やら紙の束を持ってきた。

 

「おはようございます。みなさん。」

 

「「「おはようございます⋯」」」


「声が小さいですね。寡黙な職人なんて流行りませんよ。もう一度。」


「「「おはようございますっ!」」」


「よろしい。では会議を始めましょう。」


 テーブルに集められ、手元に紙が配られた。何やら細かい文字と幾つかの設計図のようだ。


「事業計画書です。みなさん、目を通してください。」


「へぇ。よくできてるじゃねぇか。」


「⋯武器製造と並行した事務用品づくりとブランドの確立について?」


 トールじいさんが紙に書かれていた計画の内容を読み上げると、ミハルがみんなに紙を見せながら説明を始めた。


「みなさんに武器製造をやめろなんていいません。しかし、それと同時に別商品の製造も行っていただきます。」


「待ってくれよミハル。俺達武器は得意でも、事務用品だなんて⋯」


「何を言ってるんですか。武器の細かい装飾だってできるんですから、これくらい朝飯前でしょう?それに、もう試作品はできてます。」

 

「試作品ですか⋯?」


 ミハルはポケットから木片のようなものを取り出す。

 

「それは⋯」


「おとうさんが今年の誕生日にくださったものです。」


「それはおもちゃじゃないか⋯ミハルに頼まれて作ったやつだろ?」


「ええ。ですが、これはおもちゃなんかじゃありません。⋯計算機です。」


 ミハルはそのおもちゃをカシャリと机のうえに置き、みんなに見せる。2人は初めて見るものなので、疑いの目で凝視していた。


「計算機⋯このようなものですか?」


 トールじいさんは自分のテーブルから計算尺取り出した。


「そう!これこそが計算機だよな?」


「計算尺ですね。もちろん存じ上げています。」


「なんで今更あるものを作るんだ⋯しかも、競合だって多いぞ?」


「ミハルちゃん、まだまだ子供だなぁ⋯?形の変わった計算機を今さら作ったところで、売れるわけねぇよ!」


 俺達は不平不満、文句をミハルに投げかける。


 子供の浅知恵に付き合う気はないと、はっきり言ってやらないと、調子に乗ってしまうからな!


「⋯はぁ。よろしい。ではこの子の凄さを皆さんにお伝えします。トールさん、ご用意を。」


「よ、用意ですか⋯?何をすれば⋯」


「この1か月分の帳簿を持ってきてください。ベテラン事務員であるあなたと、計算勝負をさせていただきます。」


「ミハル⋯そんな大人をからかうような事を言うんじゃ⋯」


「ちょっと待てよ!面白そうじゃねぇか、やらせてみようぜ?」


 俺がミハルを叱ろうとすると、ギルアドさんに制止されてしまった。


 この人、なんでも面白がるタイプだからたちが悪いな⋯


 トールじいさんはミハルに指示されたように、過去のウチの帳簿を2冊分持ってきた。


 2人は一冊ずつ持って椅子に座る。


「いいか?勝負は1か月分、このページだ。用意できてるか?」


「もちろんです。」


「こちらも、問題ありません。」


「よしっ、よーい⋯ドンっ!」


 2人は計算機に目をやり、各々道具を手に取る。


 トールじいさんは計算尺を老眼鏡で見つめ、スッと動かしながら、右手で紙に結果を書いていく。


 うん。速い。俺がガキの頃から、事務の仕事をしているベテラン。年季が違うってことだ。


 ―パチパチパチパチパチッ!


「おいおい⋯!なんつぅ速さだよこりゃ!?」


「な、何だって⋯!」


 何か凄まじい音が聞こえてきたので横を見ると、ミハルがとんでもないスピードで計算機の玉を動かしている。


「ちょっと待て、これじゃあ⋯」


「はい。」


 俺達が見とれている間に、ミハルが手を挙げる。


「そ、そんなバカなっ!?」


「ミ、ミハルちゃん⋯さすがに無理があるぜ⋯適当やっちゃだめだよ。」


「ご自身の目で確認されてください。どうぞ。」


 ミハルから725,380メイズと書かれた紙がある。ホントに計算したってのか⋯?


 ギルアドさんが帳簿の目隠し用の紙を取る。


「⋯ははっ。こりゃたまげたなぁ⋯」


 帳簿の紙には725,380ときちんと書かれている。この子は本当に計算したのだ、この計算機で。


「トールじいさん、あんたは⋯?」


「わ、若⋯」


 青ざめているじいさんは、紙を見せる。まだ1ページの序盤。つまり全くと言っていいほど、終わっていないのだ。


「計算尺は正確で、それに様々な計算ができる素晴らしい道具です。しかし尺を合わせる時間、いちいち結果を書き取る時間、すべてにおいて『そろばん』を下回っています。」


「そ、そろばん?」


「この道具の名前です。⋯確かに計算尺はどんな人でも計算ができるようになる。ですが、どの企業も時間に追われています。今の時代には合っていません。」


 言い負かされそうになりながらも、何とか疑問を飛ばす。


「で、でもこんなの誰でも使うことはできないじゃないか!練習しないと使えないものなんて⋯売れるはずがない!」


 ―パチンッ!


 軽快な指パッチンを鳴らしたミハルは、ニッコリと笑う。



「えぇ、だから成功するんですよ。」

ご精読ありがとうございます。

ご感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ