近くにいた悪魔
―現在―
⋯あの契りを結んでから、この1年は散々だった。
ライアットヒルズのサラ金業を牛耳ったミハルは、数え切れないほどの店やギルドを再建し、利子を調達。
俺が金貸しをしていた頃の上がりをあっという間に追い越し、今となってはデスペラードのアガリのほぼ半分を担う大幹部に。
警戒していた頭領もミハルを寵愛するようになり、俺は出世レースから弾き出された。今や俺は後ろ指を刺される存在になってしまった。
出世頭だと思われているのは外部からだけで、内側の人間からすれば、デスペラードのナンバー2はあのミハルという小娘なのだ⋯
奴のシマから離れたこんな片田舎で小遣い稼ぎをしようとしただけなのに⋯
なんでこんなところに、あの悪魔がいるんだっ⋯!?
「ミ、ミハル⋯さん⋯」
「えぇ。私です。ハーフエルフのガキですよ。⋯可愛がってくださるんでしたよね?」
「⋯滅相もありません。」
肝が冷えるのを感じる。
この娘はただのガキなんかではない。こいつの一声で、俺の首なんて簡単に飛ばすことができるんだ。
「な、なぜあなたがここに⋯?」
どうしても気になってしまう疑問を絞り出すと、奴はニヤケ面のまま答える。
「⋯お爺さまにも話してませんが、ここが私の家です。すごい偶然ですね。これも運命なのでしょうか。」
「⋯」
俺はよりにもよってこの悪魔の根城を罠にかけた上、それがバレちまった⋯!クソっ⋯!ど⋯どうすれば⋯
「いくらですか?」
「⋯は?」
「借金はいくらですかと聞いています。」
意外な問いに素っ頓狂な声を漏らすと、奴から再度問われる。
「え、えぇ⋯元本合わせて1000万メイズです⋯」
目を伏せ、ため息を漏らす。
「⋯こちらにも非はあるか⋯しょうがないですね。」
小脇に抱えていた袋を開け、中を漁る。その中から分厚い塊を取り出した。
「1000万メイズあります。これで、ここの債権を買いましょう。」
「⋯あ、ありがとうございます。」
⋯おかしい
本来なら頭領にクレームを入れて、俺の事をデスペラードから追い出す事なんて、今のこいつにとっては簡単なのに⋯なぜ債権を買い取るようなマネを⋯
「まぁ⋯バレたくないのはお互い様というわけです。これは口止め料として受け取っておきなさい。」
さらに袋から札束を3つほど押し付けるように俺に持たせて、耳にそっと囁いてきた。
「貴方が私の家族のことを周りに漏らしたら⋯どうなるか想像できますか?」
「⋯」
「今回のところは見逃してあげます。しかし⋯次このようなたちの悪い債権回収をしたら⋯ライアットヒルズに貴方の居場所はありませんよ。」
スッと息を吸い込み、俺の耳が冷えていく。
「私のシマから出ていきなさい。」
―ヒュッ⋯
小娘からの恫喝に、完璧に食らってしまって息を漏らす。
「⋯は、はい!失礼しましたっ!おいテメェら、さっさとしろっ!!」
「「⋯すみませんっ!」」
上ずった声で手下の二人をはたき、扉の方へ逃げる。
もう二度とカネ貸しなんてしねぇ⋯!
そう心の中で誓いを立て、この村の出口まで一目散に退散するのだった。
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「ミ、ミハル⋯これは、どういうことなんだい⋯」
とてつもないカオスな雰囲気のなか、俺は口を開いた。
当然だろう?さっきまで俺たちの全てを奪おうとしていたチンピラが、娘のひと言で血相を変えて逃げ出したんだから⋯
「⋯もう隠せませんね。おとうさん、おかあさん。ちょっとこちらへ来てもらっていいですか?」
工場を出て、私たちの家に帰るように促され、ミハルの部屋の前まで招かれた。
扉の前で、ミハルはこちらを見る。
「2人に隠しているのはとても、心苦しかったのですが⋯驚かれると思いますが、どうか落ち着いてください。」
ガチャッと音を立て扉を開くと、そこには大量の麻袋が置いてある。
「こ、これは?」
妻が袋に触れると、ジャラッと思い音が聞こえる。袋は重いようでガシャンッと勢いよく倒れ、中からは大量の金貨と札束が溢れ出した。
「な、なんだこの金っ!?」
「私の金です。」
「こんなお金⋯いったいどこで⋯」
ミハルの両肩をつかみ、目を見る。
「ミハル⋯お父さんと一緒に、このお金返しに行こう⋯」
「⋯あ、あの。」
ぽかんとするミハルに俺は親として説得しなければいけない!何としてでもっ!
「どこでこんな金をとってきたかは知らない⋯だが、盗みは犯罪なんだっ!俺が命にかけても君を守るから⋯どうか⋯」
「⋯落ち着きなさいっ!」
「うわっ!!」
急に喝を入れられ、腰が抜けてしまった⋯7歳の娘の声とは思えない。早すぎる反抗期かっ!?
「⋯はぁ。だから嫌だったんですよ。⋯カテリーナさん。」
「はいはーい!どうも、どうも!」
「よ、妖精っ!?」
急にミハルのそばに妖精が現れた!?しかもなんかノリがかるい⋯
「説明を。」
「かしこまりました、ミハル様っ!ご両親、ミハル様は盗みなんてしてませんよっ!」
「な、なんなんだ⋯?」
そこから妖精(名前はカテリーナ)から説明を受けた。
ミハルが金融神エビルスの加護を受けていること。
その加護のせいで、金が湯水のようにミハルに集まってくることを。
「あらあら⋯ミハルったらすごいじゃない。」
「すごいなんて言葉ですましていいわけないだろ⋯」
妻のおっとりさ加減に呆れながら、ミハルを見ると毅然とした態度で私たちに話す。
「そのお金を元手に、ライアットヒルズにてサラ金をはじめました。」
「サ、サラ金だと⋯そんな、まだ子供なのに⋯」
「チッチッチッ⋯ミハル様は今や数多のギルドやお店を再建させた、ライアットヒルズの駆け込み寺!デスペラードの大幹部なのですっ!」
「デスペラード⋯あの、盗賊ギルドの⋯め、めまいが⋯」
「あなた、落ち着いて?」
あまりの情報量に白目をむきそうになるところを、エリアスに支えられる。
「ごめんなさい。2人とも。どうしても巻き込みたくなかったんです。」
「⋯あぁ。もう大丈夫⋯そんなに謝らなくてもいいよ⋯」
「⋯ですがおとうさん!」
「えっ!?」
急にミハルが怒り出し、俺に詰め寄ってきた。
「なぜ借金をここまでなるまで、放置してきたんですかっ!私がいなかったら、すべて奪われ、おかあさんも私も!売られていたかもしれないんですよっ!」
「⋯返す言葉もございません⋯」
娘に完璧に痛いところを突かれ、俺はがっくりと肩を落とした。
なんて惨めなんだ⋯
「これからどうするんですか?」
「そ、それはもちろんあてがある!今開発中の⋯」
「あの盾ですね。」
「!?」
ミハルにはひと言も話していなかった盾のことを言われ、あまりの衝撃に固まってしまった。
「確かに、ウチの木工ギルドの技術はピカイチです。そんなことは分かっています。」
「あぁ。だからあの盾さえ出来上がれば⋯」
「しかし、本当に軍に採用される見込みはあるのでしょうか。」
「⋯」
本当に痛いところを突いてくる子だ。
俺だって不安がないわけがない。どんなに頑張って作っても、採用されなければお荷物でしかない。
「⋯しかし、俺たちには武器しか作れないんだ⋯どうすりゃいいってんだ⋯」
やるせない言葉を自分の娘に吐いてしまうくらい、俺は追い込まれてしまった。
情けなすぎて、あの子の顔さえ見ることができない⋯
「おとうさん。」
そんな俺に、ミハルはこう言い放った。
「ここの経営権を、私に渡しなさい。」
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