勝ちに行くなら逆を突け
「ひぃ⋯ひぃ⋯重たいっ⋯!」
―ガラガラ⋯ガラガラ⋯ガタンッ!
「もうすぐですよ。頑張って。」
今すぐにでも音を上げそうなバルムさんを、横で応援しています。
この大変さも、これからの成功に必要なのです。
「もう⋯店出て30分近くたちますよ⋯どこへ行くんですかぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯」
「よし到着。よく頑張りました。」
バルムさんはようやく足を止められるとばかりに、道に腰を落とす。
「⋯こ、ここは⋯?」
「ここはライアットヒルズでも大手の鉄鋼ギルド、『キングストン』の工場です。」
「も、もしかしてここで⋯?」
「もちろんです。『この子』の出番ですよ。」
「大丈夫かなぁ⋯?」
バルムさんは引っ張ってきた『それ』を不安そうな目で見つめる。
これが私たちが今日までねってきた、逆転の秘策なのだ。
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「⋯これ、ただの荷車ですよ?どこが秘策なんですか。」
私が倉庫で見つけたのは、使い古された荷車だった。錆びついている場所はあるが、全然使えないことはなさそうだ。
「『まだ』、ただの荷車です。これからこの子を改造します。明日も時間を空けておいてください。」
「は、はい。時間はいくらでも空けられますから⋯」
―次の日―
「おはようございます。さぁ、始めますよ。」
「なんですかこの木材は⋯?」
「私の父が木工ギルドをやっているもので。材料をくすねてきました。」
おとうさんの工場から、端材であるものをいくつかピックアップして持ってきた。
といっても私では運べないので、ウッドフィールドにくる行商人に金を渡して運んでもらったのだが。
「材料も、道具もそろっています。さぁ、手伝ってください。」
「はぁ。それはいいですけど、どうするんですか?」
「図面は引いてきました。こちらです。」
徹夜して作ってきた制作図をカウンターに広げる。
「⋯なんですかこれは。」
「これは、キッチンカーです。」
「キッチンカー?」
聞き覚えのない言葉に首をかしげるバルムさんに、続けて説明する。
「移動式屋台とでもいいましょうか。バルムさん、あなたのお店の短所を覚えてらっしゃいますか?」
「立地の悪さ⋯ですよね?」
「そう。ではそれを改善するには、家賃が高くなっても引っ越すしかないですよね。」
「はい。でもそれはとても⋯」
私は腕を組んで、自信を持って言う。
「だったら、こっちから出向いてあげればいいのです!」
「⋯ああ!だからこれなんですか?」
「いぐざくとりー。」
―パチンッ!
「題して、押しかけキッチン大作戦です!」
「押しかけ⋯あまりいい言葉ではないですけど。」
「ですが、いい案でしょう?」
パンっと両手を叩いて、気合を入れる。
「さぁ、はじめますよ。」
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―トントンッ トントンッ
「釘ください。」
「はい、どうぞ。」
口に釘をくわえてトンカチを叩く。
「もう少し左です。⋯いきすぎです、ちょっと戻って⋯ありがとうございます。」
「すみません⋯肩車できなくて。でも子供なのにこんなに仕事ができるんですね⋯」
―トントンッ! トントンッ!
「おとうさんの仕事はいつも見てますから。」
「見てるだけで⋯?」
バルムさんに肩車してもらいながら、屋根を取り付けているところだ。
力仕事は手伝ってもらい、細かい作業は私がやる。
子供でもこのくらいはできるんです。
「ふぅ⋯おろしてください。」
「はい。よっと⋯」
両脇を抱えられて、床におろしてもらい見上げる。
「ふふっ。どうです?いい出来でしょう。」
「こちらでは見たことのない形ですが⋯なんだか味がありますね。」
「赤提灯をさげたらおでんでも売れそうです。」
「ちょ、ちょうちん⋯?おでん⋯?」
自分の木工細工の腕を自画自賛していると、店のドアをノックする音が聞こえた。
「ん⋯?なんだろう。出てきますね。」
バルムさんがドアを開ける。
「どうも。お嬢ちゃんいるかい?」
「え?お嬢ちゃん?」
「いいところに来てくれました。どうぞこちらへ。」
木材を運んでくれた行商人のおじさんが、中へ入ってくる。
「ほぉ⋯あの木材でこれを作ったのかい?さすがは木工ギルドの娘だねぇ。」
「すごいでしょう。あっ⋯おとうさんたちには内緒ですよ?」
「わかってるよ。その分お金ははずんでもらってるからね。」
「それよりも、来てくれたということは見つかったのですか?」
「そうだった。これでよかったかい?」
行商人のおじさんは鉄製の大きな箱を、荷馬車から持ってきた。
「なんですか、この箱は⋯つめたっ!?」
「危ないから不用意にさわっちゃいけねぇぜ。」
「手袋はつけてくださいね。この箱の中には⋯これが入っています。」
厚い革手袋をつけて箱から、中に入っているものを取り出す。
「⋯これは⋯石?」
「ただの石じゃねぇ。これはルーン文字の書かれた魔鉱石だ。北の魔女たちが作った、マジックアイテムさ。」
「外で調理をする以上、食中毒⋯食品の腐敗には一番気をつけなくてはいけません。ですから、こちらが必要だったんです。」
この世界に冷蔵庫は存在しない。電化製品などはないが、代わりに魔法が存在している。ならば、それを代用品として使うのは道理である。
「マジックアイテム⋯高いんじゃないですか?」
「そこまでじゃないさ。1個5万メイズってところだな。この箱を3カ月は冷やし続けてくれるぜ?」
「うーん⋯でも5万メイズかぁ⋯」
「これは必要経費です。あなたにとってはこれから大事になるものなんですから、忘れないでください。」
魔鉱石の使い方のレクチャーを行商人のおじさんに任せて、キッチンカーをいじっているとカテリーナさんがふらふらと飛んできた。
「ミハル様ぁ⋯帰りましたぁ⋯」
「おかえりなさい。カテリーナさん。」
パタンと屋台のカウンターにへたり込んで、羽を休めるカテリーナさんに近づく。
「妖精使いが荒いですよぉ⋯こんなに飛び回らせるなんてぇ⋯」
「何を言ってるんですか、エビルス様から私の監視を命じられてるんでしょう?でしたら、監視を受け入れるかわりに、こちらのワガママも聞いてもらわないと。」
「うぅ⋯あまり強く言えない⋯」
「で、どうだったんですか?⋯ふむふむ。ふふっ⋯そうでしょう。そうでしょう。」
カテリーナさんからもらった情報は、私の予想通りのものだった。
では、作戦の次のステップへ進むとしましょうか。




