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つみき崩し

「⋯」


 パチパチパチパチ―


「⋯ん。⋯朝かぁ。」

 

 ガチャッ―


「⋯おはよう。エリアス。ミハルも起きてるんだね。」


「ええ。いつもどおり。」


 いつも通り軽快な音で俺は目を覚まし、音をこすりながら食卓へ向かう。


「おはよう、ミハル」


「おはようございます。おとうさん。」


「⋯楽しいかい?それは。」


「ええ。とても⋯おちつきます。」


 ミハルは木製のおもちゃで遊んでいた。俺が1年前の誕生日に作ってやったものだ。  


 とても変な形の木製のおもちゃだが、実はこれミハル自身が作ってほしいと珍しく懇願してきたのだ。


 四角い枠に細い棒、そのなかにひし形の粒を通したおもちゃ。


 正直困惑はしたが、木工ギルドの職人なら朝飯前の、簡単な仕事だったのだが⋯


「おとうさんの仕事は世界一ですね。」


「え?そ、そうかい?」


「こんなに使いやすいものは、初めて触りました。」


「⋯一体これはなんなんだい。」


「おもちゃです。昔お友だちから教えてもらいました。」


「おもちゃねぇ⋯最近の子たちは変わってるなぁ。」


 ミハルはおもちゃをパチパチとはじきながら、朝食がくるのをまっている。

 

 炉の方からはシチューのいい匂いと、妻の軽快な鼻歌が聞こえる。


 こんな幸せが永遠に続けばいいのにと思いながらも、今後の仕事について頭を悩ませていくのだった。


___________________________


「若旦那、今日の発注はこのような形です。」


「ん⋯はぁ⋯マジかよ。」

 

「ええ、大マジです。」

 

 ギルドについてから席に座ると、俺の右腕であるトールじいさんが今日の仕事について教えてくる。


「こんな小口ばっかりじゃ、全然儲からねぇじゃねぇか⋯」


「ですが、大口の顧客なんてうちのギルドには居ませんからねぇ⋯それは先代からの問題です。」


「おやっさんはどうやってここまでこのギルドをデカくしたんだ⋯?」


「いっとき、軍の鍛錬用の木剣にうちのギルドの剣が採用されたことがあるんです。その時にデカくなったのですが、その好景気も長くは続きませんでした。」


 くぅ⋯俺もそういうどでかいヤマを当てないと、これ以上の成長はないか⋯


「このままでは給料も少なくなって、ギルドは解散になってしまうかもしれない⋯」


 エリアスとミハルには苦労はかけたくない。もちろん、数は少なくなってしまったが木工ギルドの仲間たちにもだ。


「でも、あの盾が完成さえすれば⋯」

 

 俺は工房の奥にある作業台の前に行く。


 そこには試作品の盾がいくつも置いてある。


「この盾が完成すれば、必ず軍に採用されるはずだ⋯このウッドフィールド産の『バルガンドウッド』を使用した史上最強の盾だ。」


「おいおい。そんなこと言って全然完成にはほど遠いぞ、坊主。」


 工房で作業していた一番のベテラン。工房長のギルアドが、横やりを入れてきた。


「⋯そりゃそうなんだけどさぁ。」


「そもそもバルガンドは硬すぎて加工が難しいし、それに取り付ける金具もビスもいいもんを使わなきゃならねぇ。こんな高級品、軍に採用なんかされるかねぇ⋯」


「何弱気になってんすか、ギルアドさん!大丈夫⋯きっと⋯」


「⋯若。実は⋯今月の支払いのことで⋯」


 苦々しい顔でトールが話そうとすると、ガンガンっ!と大きな音で工場の扉が叩きつけられる音が聞こえる。


「⋯!?おい、まさか⋯返済日まだだろ⋯!?」  


 ―ガチャッ


「邪魔するぜぇ⋯相変わらず不景気そうな顔してんなぁ?」


「ジャリオさん⋯どうも⋯」


 こいつはジャリオ。盗賊ギルドの若手筆頭株の男。そして、高利貸しとしても有名な男だ。


「⋯盾なんぞ作ってなにになるのかねぇ。もっと儲かる仕事はいくらでもあるっつーのに。」

 

「ウチは代々、武器を専門に作ってきたギルドですから⋯それに、今回のは自信作なんです。」


「ふんっ。そんなことはどうでもいい。それで⋯今月の利子を貰いに来たぜ。」


「は、はい。トールじいさん。」


「ただいま⋯」


 俺たちのギルドはこの男から多額の金を借りている。試作品を作るのにも金は大量にかかるのだ。


「⋯お待たせしました。」


「おう。」


 椅子にドカッと腰を掛け、金を数え始める。


「⋯おい。足りねぇぞ⋯」


「!?な、なんでっ!」 


 トールの方を見ると青ざめた表情でうつむいていた。


「申し訳ございません⋯もう、ウチのギルドではこれ以上お金をお返しすることができません⋯」


「なんだって!?」


「仕事も減って⋯どんなに節制しても、これが精一杯でして⋯でも必死でやっている若旦那たちを見ていて、とても言い出せませんでした⋯」


「おいおい⋯こりゃ大変なことだなぁ⋯」


 不敵な笑顔を浮かべたジャリオが、俺の肩を叩く。


「⋯こりゃ最初の約束通り、このギルドの権利を貰い受ける事になりそうだな。」


「ま、待ってください!そもそも返済日まで時間があるはずです。そんな急に⋯」


「なんだ?俺に偉そうに意見すんのかぁっ!?」


 バコンッ!と俺をぶん殴り、作業台に叩きつけられた。


「坊主っ!野郎っ!!」


「⋯待てっ!ギルアドさん⋯」


「そうだぞ?俺に手を出したらどうなるかくらい。テメェでも分かるはずだよなぁ⋯?」


「くっ⋯」


「まぁ、確かに⋯?早く取り立てに来たのは悪かったたよ⋯つい近くを寄ったもんでなぁ。でも猶予はあと5日だ。もしそれまでに利息を用意できなかったら⋯分かるよな?」


「⋯はい。」


「物分かりがいいのは嫌いじゃねえよ。じゃ、またな。ギルドマスター⋯クックックッ⋯!」


 俺たちを一瞥してそのまま扉を出ていくジャリオ。


 工場の全員が、そこに立ち尽くすことしかできなかった。

ご精読ありがとうございます。

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