聡明な天使
ガラガラガラ―
「ただいま⋯」
「ミハエル、おかえりなさい。」
「ああ。」
「どうでしたか、今日は?」
「⋯ダメだった。」
「そう気落ちしないで?明日がありますよ。」
「いつもすまない⋯」
「ご飯にしましょ。」
いつもこの会話だ。
木工職人としてエルフの親方に弟子入りし、ギルドを継いでから10年。
俺は、全くもってうだつの上がらない生活を繰り返している。
「あなたとご飯が食べたいから、あの子もお腹をすかせて待っていますよ。」
「そ、そうか。じゃあ急がなくちゃな。」
食卓の方へ歩みを進めると、娘が本を読んでいた。
「⋯おかえりなさい。おとうさん。」
「ただいま。ミハル。」
俺の娘であるミハルだ。
人間である俺と、エルフである妻のエリアスから生まれたハーフエルフ。とても聡明な子で、天使のような顔立ち。
目に入れても痛くないと思うくらい、自慢の娘だ。
「今日は何を読んでいるんだい?」
「これです。」
娘が表紙を見せてくれた。
『ビルトハーバー著 初級魔術入門書』
「ま、魔術だって⋯?」
この子、まだ7歳なのにそんな難しそうな本を読んでいるのか⋯?
「おじいちゃんの本棚から借りてきたそうですよ。まったく好奇心旺盛なんだから。」
「おやっさんから⋯?本の内容はわかっているのか⋯?」
「ミハルは賢いですからねぇ。」
「ほんとかなぁ⋯」
私は疑いの目で娘の横顔をみていると、妻が炉の前で何やら言っているのが聞こえた。
「あらあら⋯この薪湿ってるわね。さっき雨が降ったからかしら⋯」
「火がつかないのかい?」
妻は薪に火を移そうとしているがうまくいってない様子。
「まいったな⋯乾いてる薪はもうないから、どうにか乾燥させないと⋯」
頭を抱えている俺の後ろから、声が聞こえる。
「ふたりとも。はなれてください。」
「⋯え?」
「『炎上』」
―ボッ!
「うわあっ!?」
薪は火柱をあげて燃え始めたっ!
「あらあら⋯すごいわねぇミハル。もう魔術が使えるなんて。ありがとう。」
エリアスはミハルにお礼を言って頭を撫でている。
「いやそんな簡単な話ではないだろっ!?」
俺のツッコミも虚しく、ミハルは満足そうに撫でられながら読書に戻るのだった。
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