地獄の沙汰もカネ次第
木之本社長からもらった本物の決算書と、間乃坂について調べた調査書をカウンターにおいて話を続けました。
「この間乃坂という男の素性。こちらで知らたのですが、反社会的勢力であると言う事実はなかったのですが、少し面白いことが分かりました。」
調査書の職歴の欄を指さす。
「彼。桜の人間だったのですね。」
そこには桜阪商人銀行に入行していたことが書かれていた。
「⋯ふふっ。やはり貴様は気に食わないやつだ。」
何かを含んだような笑いを支店長は浮かべました。
「駿河さんの部下で、あなたの同期。すべてマッチポンプだったということですね。貴方達は、添島くんの不正どころか、その原因すら自作自演した。」
「⋯どうだかな。」
「調べればすぐに分かることです。」
一つ息を置いて、支店長の目を見て話します。
「⋯私はこの事を上層部に報告しました。貴方達はこれで終わりです。」
「⋯帝都派に寝返ると⋯はははっ!やはり貴様も、生粋のバンカーだなっ!上に上がることにしか、興味を持てないとは⋯」
支店長は私を嘲笑して、高らかに笑いました。
「⋯そんなことではないっ!」
バーカウンターに拳を叩きつける。
「貴方達は自分達の野望の為に、一人の経営者と、たくさんの社員の人生を台無しにしようとした。決して許されることではありません!」
「⋯駿河さんまで裏切るのか。」
「あの人は⋯もう昔の駿河さんではありません。お二人ともバンカー失格です。せめて、引き際だけは潔くお願いします。」
私はそう言い残し、バーから去った。
___________________________
「ずるずる⋯ふぅ⋯」
「⋯元気ないね、美春ちゃん。」
『とみおか』でコロッケそばを食べ終えて、おやじさんから声をかけられました。
「そう見えますか⋯?」
「うん。何か思い詰めてるようだからさ。」
「⋯おやじさんは、大切な人が道を踏み外したときどうしますか。」
「急な話題だね⋯うーん。」
おやじさんは無駄な詮索はせず、私の問いに答えてくれました。
「⋯道を正すために、全力を尽くす。それしかないんじゃないかな。」
「全力を尽くす⋯」
「見て見ぬふりをしても、悪事はいつかバレる。あとから見つかったほうが、その罪は重くなる。それはその人のためにも良くはないはずさ。」
「そう、ですよね⋯」
「その後の面倒まですべて面倒を見てやればいい。そうすればいつか、気持ちは伝わるはずさ。」
「⋯ありがとうございます。答えてくれて。」
お金を置いて、席を立つ。
「もう大丈夫かい?」
「ええ、吹っ切れました。また来ます。」
「まいど。またね。」
___________________________
私は駅のホームで、財布を手に持って電車を待ちます。
目をつむり、今後のことについて思案しました。木之本社長や、駿河さん、轟支店長の今後について。
「⋯うん。やってやります。」
そう心に決めて前を見据えると、背中からドンッと言う衝撃と共に声が聞こえてきました。
「⋯お、お前のせいで⋯お前のせいでっ⋯!」
背中に熱感が広がり、私はそこに崩れ落ちます。
「⋯そえじまくっ⋯」
後ろを振り向いて、いたのはフードで顔を隠した添島京介でした。
ホームに悲鳴が飛び交い、私と彼の間を蜘蛛を散らすように人が離れていきます。
「お前のせいでオレの人生は台無しだッ!!親父にも見放されたしよぉッ!?どう責任とってくれるんだコラァっ!!」
「お前何やってるんだッ!!」
―ドガッ!バタンッ!
「ぐっ⋯!クソがッ⋯!!」
近くにいた駅員が彼を取り押さえて、もう一人の駅員が私を介抱する。
「⋯大丈夫ですかッ!おいっ!救急車ッ!!」
「あ⋯いたっ⋯」
どうやら私は背中にナイフを刺されたようです。
どんどん身体が冷たくなっていくのを感じます。
「⋯うっ⋯ッ⋯」
添島くんの鬼のような形相が、私の目に入りました。
横柄で傲慢。人を小馬鹿にした態度を取る典型的なバカ息子。
⋯ですが。彼もこの銀行の権力の渦に利用された、被害者だったのかもしれません。
「⋯そ、そえじまくっ⋯」
「あぁっ!?⋯何だよゴルァ!!」
「⋯ごめんなさい⋯たっ、たすけてあげられなくて⋯」
「ッ⋯!?は、はあっ⋯?」
私のまぶたは重くなり、視界はどんどん暗くなっていきます。
最後に私の視界に入ってきたのは、私の財布からこぼれた100円玉でした。
『所詮、金は紙くずと鉄くず』
そんなもののために翻弄されてきた人生でしたが、最後はこのような末路。
私は金に呪われているのでしょうか。
もし次の人生があるのなら⋯
お金には無縁の、幸せな生活を送れたらいいな⋯
そんな願いを込めながら、私は深い深い眠りへ落ちていくのでした。
ご精読ありがとうございます。
ご感想、お待ちしております。




