第八十三話
リッツヘルム商会を辞した後、ベンマック商会へ向かう。会頭のベンマックさん自ら店頭に立ち客の相手をしている。邪魔しちゃ悪いと思い、客が途絶えるのをしばし待つ。10分程で一段落着いたので、顔を見せ手を上げて挨拶する。
「子爵様、今日は何かご入用ですか?」
「今日は仕事の話でね。あと、先日伯爵になりましたので。」
そう言うとベンマックさんは大いに驚いていた。
仕事の話と言う事で応接間に通された。
「で、どう言う話ですか?」
「リッツヘルム商会って知ってますか?」
「ああ、魔道具の老舗ですね。あそこは質の良い魔道具を扱うので有名ですよ。」
「そこで、共同開発した魔道具があるんですが、リッツヘルム商会は知名度はあるが販売力が弱い。やはり魔道具って言うだけで敷居が高くなるんですかね?」
「確かに、魔道具は高価な物が多いので店に入りにくいってのはあるかもしれませんね。」
「逆にベンマック商会は販売力に定評がある。しかも新製品に興味がある。」
「その通りです。」
「そこで、この新しい魔道具をベンマック商会で販売して欲しいって話です。」
そう言ってスマホを1台取り出してベンマックさんに渡す。
「これは、一見すると手鏡の様ですが?」
「それは通信の魔道具ですよ。」
国王陛下にした様に実際に使いながら道具の使い方を説明して行く。ベンマックさんは食い入る様にスマホをいじりながら説明を聞いている。
「商人なら、この魔道具の有用さが解るはずです。」
「解る、解ります。これは時代を変えるかもしれない物だ。」
その後、代理店販売の解説をして、この道具を、ベンマック商会とアトマス商会、リッツヘルム商会の3つの商会で売って行く事を説明する。とにかく広める事が重要だとも付け加える。1台売ると30%が自分の手元に入る事も話す。
「なるほど、販売力の無い商会の代わりに、販売を請け負って利益を貰うって方法ですね。相変わらず、面白い事を考えますねぇ。」
「ちなみにこれ、1台金貨2枚で販売します。」
「安いなぁ、安すぎる。」
「そう考えてくれる人が多ければ多いほど儲かりますよ。金貨2枚なら、貴族や商会なら1台とは言わずに複数台まとめて買ってくれるでしょう。僕は1家に1台では無く1人1台を目指してます。」
ちなみに金貨2枚は日本円で20万円だ。庶民には高価だが、貴族や大商会なら問題無く買える金額である。
「その1台は差し上げますが、他に必要なら購入して下さいね。とりあえず1000台置いて行きます。無くなったら補充しますので通信機で連絡して下さい。」
「これは久しぶりに面白い商売だ。必ず売って見せますよ。」
「問題は自分で持つ事より、誰に持たせるかですからね。お金がある人が無い人に持たせる事も考えると良いですよ。」
「ん~、本当に婿に欲しかったなぁ。」
「成人したら、僕がイルミさんを貰いに来ますよ。そうなれば、義理の息子になりますよ。」
「イルミが伯爵様の嫁ですか?本当に良いんですか?」
「もちろんです。あ、それからもう1つお願いがあるんですが。」
「何でしょう?」
「ベンマックさんの知り合いで、才能を持て余してる若者って居ませんか?」
「才能がある若者・・・なら、ライビット商会の次男を当たってみると良いかもしれません。商才は私が保証します。兄貴がボンクラだったら跡継ぎになれたのですが、兄貴の方もなかなかの才能で、弟は今、商会で修業をしていますが、将来は必ず自分の商会を持つでしょうね。」
「ベンマックさんがそこまで言う人なら是非会ってみたいですね。」
そう言って商業地域の地図を取り出す。
「この赤い丸がベンマック商会です。ライビット商会は何処になりますか?」
ベンマックさんが地図を指で辿りながら、ここですと指を指す。ベンマック商会から商業ギルドの方向へ3,4分の距離だ。
「解りました。ありがとうございます。じゃあ、代理店の件よろしくお願いします。」
ベンマック商会を後にして、ライビット商会へ向かう。ライビット商会は小麦を扱う商会らしいが、店を覗くとパンや焼き菓子なども置いてある。更に飲み物や日用品なども扱っているみたいだ。なんと言うか現代日本のコンビニみたいな感じだ。これを考えたのが例の次男坊なら面白いなとユーリは考えていた。
暫く見ていると、成人したて位の青年が、店員らしき女性に何やら指示を出していた。あれが、次男坊かな?
ユーリはふらりと立ち寄った客の振りをして、店に入る。売っている商品の確認をしてみると、どうやらパンはアトマス商会のドライイーストを使用している様だ。これは間違いなく商才のある人物が関わっているに違いない。さっきの青年に声を掛けてみる。
「すみません。この商会の次男と言う方に会いたいのですが。」
「えっと、次男は僕ですが、どちら様ですか?」
「ベンマック商会の会頭から紹介を受けたアトマス商会のユーリと申します。」
「アトマス商会の?僕に何の様でしょうか?」
ライビット商会の次男は明らかに警戒している様子だ。ここはまず警戒を解かないと。
「少しお話がしたいのですが、2人切りで話が出来る場所ってありますか?」
「うちの応接室で構いませんか?」
「問題ありません。」
2人で店の奥へと入って行く。商会には必ず商談用の応接室があるのだ。
「ベンマックさんの紹介って言う話ですが、どう言った話でしょう?」
「実は今度新しい商会を立ち上げる予定なんですが、人材を探していまして。ベンマックさんにお話した所、あなたを紹介されたんですよ。」
「僕をですか?すみませんがもう少し詳しくお話下さい。」
ライビット商会の次男はバートと言う名前らしい。ユーリは詳しい説明をして行く。
「雑貨屋イルミって知ってますか?」
「知ってます。あの店は画期的な商品が沢山置いてあるので色々と参考になります。あと、毎月出る小説を楽しみにしてます。」
「実はあの店を作ったのは僕です。イルミと言うのはベンマックさんの娘さんの名前なんですよ。」
「君があの店を?」
「はい。アトマス商会を立ち上げたのも僕です。」
「アトマス商会を立ち上げたって、まだ若いですよね?」
「アトマス商会を立ち上げた時僕は6歳でした。若すぎると言う事で当時既に成人していたアトマスさんの名前を借りました。」
バートは6歳で商会を立ち上げたと言う話を聞いて衝撃を受けていた。
「失礼ですが、この店をこの形にしたのはバートさんあなたですよね?」
「良く解りましたね。父に無理を言って店を改造させて貰いました。自分で商会を立ち上げると言う頭が無かったもので。」
「いやいや、この店は面白いですよ。こう言う形式のお店をコンビニエンスストアと言います。僕も最初にアトマス商会を立ち上げた時参考にしました。」
バートは自分が考えて作った店が前例のあるものだと知り吃驚している。
「コンビニエンスストアですか?そう言う物が既にあるとは知りませんでした。」
「知らずに、この形に辿り着くのは凄い事ですよ。才能があります。」
「そうでしょうか?で、新しい商会を立ち上げると言うお話ですが、どんな商会でしょう?」
「そうですね、物を売らない商会です。」
その言葉にまたしても衝撃を受けるバートであった。




