第八十四話
「物を売らない商会ですか?それは一体?」
バートは理解が追い付かない様子で、ユーリの言葉を待つ。
「通常の商会は、商品を仕入れて販売しますよね?しかし、儲かっている商会はどうでしょう?売れる商品を考え、誰かに作らせ、それを仕入れて販売します。」
「言われてみれば確かにそうです。儲かっている商会は何処も他に無い商品を扱っていますね。」
「僕は現在、魔法学院の生徒でもあります。雑貨屋イルミの商品は全て学院生が考え、僕が作り、雑貨屋イルミで販売しています。学院生は考えるだけで、自動的に売り上げの数%が入ってきます。他に何もせずに、お金が儲かる。これが物を売らない商会の基本原理です。」
「なるほど、企画と開発を行い、それを何処かの商会なり職人に作成して貰い、販売力のある商会で販売を行って貰い。売り上げの何%かを受け取る。商会を細分化する訳ですね?」
「バートさんは頭が良いので助かります。僕は現在この方法でアトマス商会をアトマスさんに任せ、雑貨屋イルミはイルミさんに任せています。実質僕は販売には関わっていません。それでも毎月白金貨が数枚懐に入ってきます。」
バートはやっと得心が言った顔になり、ユーリの話に夢中になっている。あと一押しだな。
「この方法はこれからの商会の形として定着して行くと考えています。実は既にこう言う商品を僕が考え、魔道具屋で作成し、代理店と言う形で商会で販売する計画が進んでいます。」
そう言ってユーリは通信機を取り出す。使い方を一通り教えると、バートは興奮し始める。
「これは、商人にとっては夢の様な商品ですね。これを販売するのですか?何時から幾らで?」
「今週中には販売が始まるでしょう。価格は1台金貨2枚です。」
「金貨2枚、安いですね。」
「この魔道具を安いと感じるか高いと感じるかで、その商人の技量が解ります。バートさんは合格の様です。その1台はプレゼントしますよ。」
「え?良いんですか?」
「どれだけ広まるかがこの魔道具の成功に関係しています。僕は正直無料で配っても良いとさえ考えていました。」
「確かに、これは1台では意味が無い。数が出回れば出回るほどメリットは大きくなる。ユーリさん!物を売らない商会、やりましょう!いや、やらせて下さい!」
これで社員1名ゲットだな。そう考えながらユーリは次の一手を打つ。
「バートさん、バートさんと同年齢位で、才能を持て余している人って心当たりありませんか?」
「才能があるかどうかは解りませんが、この通信機に確実に喰いつきそうな人物には1人心当たりがあります。」
「ほう?どの様な方ですか?」
「僕の商会の近くの商会の娘なんですが、子供の頃から体が弱く、病気では無いのですが、この通信機があれば彼女でも商売が出来る様になるのではないかと。」
「その方に一度会わせて貰えませんか?」
「良いですよ。僕より1歳年下の子なんですが、幼馴染なので多少の融通は利きます。両親が、嫁にも出せない、店にも出せないと諦めているので本人は毎日暇していると思います。」
バートが紹介する女性はブルメック商会の娘でチェスカと言う今年成人したばかりの娘らしい。1歳年下って事はバートさんは16歳か。これから行って、体調が良さそうならここへ連れてきますと言ってバートさんは出て行ってしまった。数分で戻ると言って居たので時間つぶしがてらこれからの事を考える。
5分ほどして、バートさんが帰って来た。見るからに線の細い女性を連れて来た。失礼だとは思ったが鑑定を掛ける。
どうやら彼女は生まれつき心臓があまり強く無い様だ。不整脈も見られる。
「この方がユーリさん。そして、こちらの女性がチェスカさんです。」
バートさんが丁寧に紹介してくれる。
「チェスカさんはじめまして。バートさんから通信機の話は聞いてますか?」
「あ、はい、少しだけですが、遠距離で通話が出来る魔道具だそうで。」
「まあ概ね合ってます。本題は物を売らない商会を作ろうとしてまして。そのメンバーにあなたも加わって頂けないかと言う話です。」
その話を聞いて、チェスカさんは1瞬息をのんだ。自分に商会の仕事の話が来るとは考えていなかったのかも知れない。
「私の体の事は聞いていますか?」
「生まれつき体があまり強くないと言う話なら聞いています。」
「そんな私でも雇って貰えるのでしょうか?」
ユーリはちょっとだけ考える振りをする。これからやる事は決まっているのだが、チェスカさんが受け入れるかどうかは本人次第だ。
「その体、治せると言ったらどうします?」
「「え?」」
バートさんまで驚いてる。
「症状は、すぐに疲れる。体がだるい。めまいがして時々倒れる、そんな感じでしょうか?あとは無理をすると胸が苦しくなるとか?」
「その通りです。なんで分かるんですか?」
「まあ、物は試しです、治るかどうか確かめてみましょう。今から魔法を掛けます。椅子に掛けて楽にしてて下さい。」
ユーリはチェスカさんが椅子に座って深呼吸をするのを待ってから、パーフェクトヒールを無詠唱で掛ける。
「あ、体が楽になりました。なんか、体の奥から力が湧いて来る感じです。」
「今、掛けたのはヒールです。一時的に健康な体にしただけで、すぐに元に戻ってしまうでしょう。そこで、これです。」
そう言ってユーリはアイテムボックスから透明な瓶に入った青い液体を出す。
「体調が良い間に、これを一気に飲んで下さい。」
青い液体をチェスカに手渡す。量的には100CC位しか入っていないので女性でも一気に飲み干せるだろう。味は保証しないが。
チェスカは薬を飲みなれてるのか、瓶の蓋を開け青い液体を一気に飲み干す。バートは真剣な顔で見ている。
チェスカの体がやや青っぽく発光しているように見える。10秒ほどでそれが収まる。
「チェスカ、大丈夫か?」
バートがこらえ切れずに声を発する。
「大丈夫、なんか生命力が体中に充満している感じがするわ。」
「ユーリさん。何を飲ませたんですか?」
「ただのエリクサーだよ。」
「「え?」」
本当は上級エリクサーなのだが、陛下に黙っているように釘を刺されているのでエリクサーで通す。
「エリクサーって伝説上の秘薬で、現代には残っていないと聞いてますが?」
「そうなの?まだいっぱいあるけど、バートさんも1本行っとく?」
「いや、エリクサーって1本で白金貨が何枚も飛ぶって話ですよ。」
「まあ、チェスカさんの体が治れば安い物です。本題に戻りましょう!」
こうして、3人の『物を売らない商会』が始まるのであった。




