第八十二話
作ると決めてしまえば、ユーリの行動は早い。本体にアルミを使い、画面は鏡を使用しスマホもどきに仕上げる。表面の鏡にゲートの魔法を付与し、極小さいゲートを開き相手と通話できるように設定した。ボタンは2つ緑と赤、緑が通話で赤が切る。2つのボタンの間に窪みをつけて指紋認証の要領で魔力を流せるようにする。これで、外側は完成だ。問題は電池だ。稼働には魔石を使用する。
魔石は魔物の核である。最初はごく小さい物だが、空気中の魔素を吸収しエネルギーに変換する。それを繰り返す事で徐々に大きくなっていく。なので強い魔物程大きな魔石を持つと言われている。この間倒したワイバーンの魔石は20センチ位の大きさがあった。エンシェントドラゴンの魔石は3メートル以上あったそうだ。丁度良いのでワイバーンの魔石を使おうと思う。魔法でワイバーンの魔石を四角く薄く変形させる。かなり圧縮したが、4センチ×6センチ×7ミリが精一杯だった。
これをバッテリーとして使用すれば2~3年は魔力の補充無しで動作するだろう。問題はスマホの厚みが1センチほどになってしまう事位だ。スマホのサイズは5センチ×11センチ×1センチ。ユーリとしてはもう少し薄くしたかったが、バッテリーとの兼ね合いでこれが精一杯だろう。完成したスマホを『賢者の叡智』を使用しコピーする。一度コピーすれば後は幾つでも作れるからだ。
執事のフロッシュさんに手伝ってもらいスマホのテストをする。どうやら問題は無いようだ。そのまま1台はフロッシュさんにプレゼントする。あとは父上と陛下だな。あの2人はプレゼントしないと後で文句を言われるからね。
まず、実家に転移し父上にスマホを20台プレゼントする。もちろん使い方も詳しく説明して置く。20台なのは、家族と部下用も含まれるからだ。
次に王城へ転移して陛下に取り次ぐ様に近衛兵に伝えて貰う。暫くすると宰相が現れて何時もの執務室に案内される。
「今日は何用じゃ?」
「はい、通信の魔道具を作りましたので陛下に献上をと思い参上しました。」
「通信の魔道具?」
「これがあれば、離れた位置に居る人物と会話が出来ます。陛下なら色々と使い道があると思います。」
「離れた位置とはどれ位遠くまでじゃ?」
「多分ですけど、この大陸でしたら何処でも問題無く通話できるかと。」
「何?それは本当か?それ程の魔道具、情報革命が起こるのではないか?」
陛下が宰相に向かい問う。
「そうですね。実際に見てみないと分かりませんが、事実なら諜報部の活動に大きな影響を与えるでしょう。」
宰相の目が怖いので、2台のスマホを取り出し、2人に渡す。
「これがその魔道具です。」
「これはまるで手鏡の様だな?」
「まず、その緑のボタンを押してから、真ん中の窪みに指を置いて通信したい相手を想像して下さい。あ、最初は僕でお願いします。」
陛下が言われた通りに操作すると、ユーリのポケットから音楽が流れる。
「この音が着信の知らせです。音が鳴ったら緑のボタンを押せば通話できます。切る時は赤いボタンです。」
そう言ってユーリは少し離れた位置に下がり。緑のボタンを押して話をする。
「聞こえますか?今度は僕から掛けますので一度切りますね。」
「おお聞こえるぞ!」
ユーリが一度切って掛けなおすと今度は陛下のスマホが音楽を鳴らす。
「緑のボタンを押して下さい。相手の顔が鏡に映ってると思うので話したくない時は赤いボタンを押しても構いません。」
「なるほど、話したい時は緑、切る時は赤、簡単じゃな。」
陛下が子供の様にはしゃいでる。
「とりあえず家族や使用人、部下などに配る分もあるでしょうから、200台渡して置きますね。」
そう言ってテーブルの上にマジックバッグを置く。
「宰相様は何台必要ですか?」
「私にもくれるのかね?では50台ほど。」
はいと言って、宰相にもバッグを渡す。
「これは販売する予定がありますので、足りなくなったら買って下さいね。」
「これを一般に販売するのか?」
「はい、特に商人達には情報は命ですから売れると思います。」
「ちなみに幾らで販売する予定じゃ?」
「そうですね、魔石の大きさから考えると金貨2枚位ですかね。」
「安い、安すぎるぞ。」
「安い方が早く広まるでしょ?それが目的ですから。あ、ちなみに暫くは海外に輸出はしない様にしますのでご安心を。」
ユーリにしてみれば大量生産出来る、薄利多売の商品だが、国王から見ればアーティファクトにも匹敵する魔道具である。2人の温度差が激し過ぎる。
「そう言う問題ではない気がするが・・・」
陛下が疲れた様子で呟く。
「伯爵の行動には諦めが寛容かと。」
宰相がなんか酷い事を言ってる気がするが気にしないユーリであった。
陛下に無事献上出来たので、転移でリッツヘルム商会へ向かう。この魔道具はユーカの実家で扱って貰う事にした。アトマス商会でも販売しようかと悩んだが、餅は餅屋、魔道具は魔道具屋だろう。
リッツヘルム商会に入るとユーカのお母さんが店番をしていた。
「お久しぶりです。」
挨拶をすると、お母さんがひどく恐縮した様子で頭を下げて来る。
「今日は仕事の話で来ました。ご主人はいらっしゃいますか?」
そう話すとすぐに呼んでくると言って奥へ入って行った。
1分も待たずにお父さんが現れる。
「この間は娘を助けて頂きありがとうございます。今日は仕事の話があると聞いてますが、どの様な話でしょう?」
「そんなに畏まらないで下さい。普通に話して頂いて結構ですので。」
「いや、子爵様に失礼があったら不敬罪で首が飛びますので。」
「あ、言うの忘れてましたが、先日、伯爵に陞爵しました。」
ユーリがそう言うとお父さんは更に小さくなってしまった。この話題はこれ以上止めて置いた方がよさそうだ。本題に入ろう。
「実は魔道具を作ったので、こちらの商会で販売して欲しいのです。」
「どの様な魔道具ですか?」
これなんですがと実物を見せながら、通信機だと説明する。陛下にした様に実際に動かしてどの様な道具か理解して貰う。
「これは凄い魔道具ですね。今まで色んな魔道具を扱って来たけれど、こんな画期的な物に出会ったのは初めてです。これを扱わせて貰えるのですか?」
「ええ、やはり魔道具なので魔道具を扱いなれている人に販売して貰いたいと思いまして。お願い出来ますか?」
「是非やらせて下さい。」
その後、金額や1度に卸す個数、ユーリの取り分等を決めて、帰ろうとすると、ちょっと待って下さい。と引き留められた。
お父さんは覚悟を決めた様な顔でユーリに尋ねる。
「あの、本当に娘を貰って下さるのですか?」
「はい。僕が14歳になったら正式にお話に参上します。側室では無く正式に妻として迎え入れますのでご安心下さい。」
お父さんは安心した顔でへなへなと崩れ落ちた。




