第六十五話
今日は学院が休みの日だ。この世界に日曜日と言う概念は無い。1週間は6日で、月に5週間、30日が一か月、12か月で360日、そして13月が5日ある。この13月と言うのは日本の大みそかの様な物で新年を迎える為の準備や1年間の疲れを取るための休みを取る。そして、また新年の1日から働き始める。
学院の場合、2週に1度の割合で休みの日が設けられている。これは決まった曜日では無く、校長と教員が会議で決めている様だ。
久しぶりの休みなのでユーリは馬車を改造していた。
まず、タイヤをゴムタイヤにする。自動車のタイヤより若干細めの幅で15センチほどだ。内部にはエアーの代わりにシリコンを詰めてパンクレスにする、大きさは通常の馬車に比べてやや小さめの20インチにした。これは馬車が結構重いため。溝などに嵌らない様に工夫した結果だ。更に板バネを利用したサスペンションを付ける。これでだいぶ揺れに対して強くなるだろう。更に座席はスプリングを使用したベンチシートを採用する。もちろん背もたれもクッション内臓だ。ドイツの高級車とはいかないが、軽自動車よりは快適だろう。
これ絶対に父上が欲しいって言うだろうなぁ。まあ、これは伯爵家の馬車だから譲るか。そう言って同じ物をコピーしてアイテムボックスに仕舞って置くユーリであった。
もうすぐお昼時と言った頃、王城から使いの者が来た。何やらマジックバッグを渡される。
「エンシェントドラゴンの肝臓です。捌いてすぐにマジックバッグに入れて置いたので新鮮です。薬を頼むと宰相様から言付を頼まれました。」
「解りました。すぐに取り掛かりますので、宰相様によろしくお伝えください。」
エリクサーを1万本作るって言っちゃったからな。面倒は早めに片づけるか。
ユーリは食事もそこそこに部屋に籠った。
2時間程部屋に籠っていたユーリは14時半に部屋を出て来た。外出着に着替えており。執事に馬車を出すように伝える。馬車の試運転ではない。ユーカの商会へ向かうつもりだ。
ユーカの商会は『リッツヘルム商会』と言う。魔道具の商会としてはあまり大きくは無いが、変わった商品を扱っているので名が通っているとイルミに教わった。
御者にリッツヘルム商会へ向かう様に指示を出し。ユーリはふかふかのシートを楽しんでいる。30分程で商会へ着いたと御者に言われた。
「そんなに時間は掛からないからこの辺で待ってて。」
そう言ってユーリは御者に銀貨を1枚渡す。飲み物でも飲んでゆっくりしてるようにと言う貴族の習慣らしい。
商会の表口では無く以前来た時に通された裏口に向かい。声を掛ける。すると、ユーカが直接出て来た。家族に説明する手間が省けて助かる。
「どうしたのユーリ君?」
「ちょっと大事な話があってね。話せる場所あるかな?それとも外に出る?」
「私の部屋で良ければ大丈夫だよ。」
「じゃあ、お邪魔するね。」
ユーカの部屋はなんと言うか女の子の塊みたいな部屋だった。
ベッドの横にソファーがあり、そこに座らせてもらう。貴族の部屋程広くは無いが、それなりに大きな部屋である。
「で、大事な話って?」
「ああ、何から話せばよいかな?もうすぐ誕生日だろう?ユーカが14歳になって、1か月もすると僕も14歳だ。その後進級試験があって、皆3年生になる。」
「そうだね。あと3か月も無いね。」
「でね、僕は進級試験が終わったら学院を辞める事になった。」
「え?なんで?」
ユーカが目に見えて動揺している。ユーリはそれを手で制して話を続ける。
「ちゃんと話すから最後まで聞いて。実は子爵に叙されてね。領地を貰ったんだ。領地を治める為には学院生で居る訳には行かない。今後は領地と王都を行ったり来たりの生活になるだろう。」
「ユーリ君3男なのに貴族になったの?」
「まあ、色々あってね。で、この間の話だけど。ユーカとイルミ、2人をお嫁さんとして貰うつもりなんだがユーカはそれで良いかい?」
「私、貴族の、ユーリ君のお嫁さんになれるの?」
「もちろん正式にお父さんの許可を貰わないと駄目だけどね。」
ユーカは泣いていた。嬉し涙だろう。
「まあ、今日は報告だね。ユーカの方でお父さんにある程度は話して置いてね。14歳になったら婚約が許されるから挨拶に来るって伝えて置いて。」
「うん。解った。」
「あと、僕が子爵になった詳しい経緯等はイルミに聞くと良いよ。じゃあ、今は心の整理が付かないだろうから失礼するね。また学院で!」
「ありがとう!ユーリ君!!」
40分程でさっきの場所に戻ると馬車はきちんと同じ場所にあった。時間的には16時前だが、これから王城へ向かうのはちょっと時間的に不味いかなと思い。家へ帰る事にした。
久しぶりに家族で揃って食事をした。これで姉上が居れば全員揃うのだが。兄上2人が、職場でユーリの事を色々聞かれて大変だと愚痴っていた。
そうそう、父上が帰って早々に魔改造した馬車を見たらしく。なんだあれはと詰め寄って来た。伯爵家の馬車ですから父上の物ですよ。と言ったら超ご機嫌になった。久しぶりに冷えたエールが飲みたいと言ってユーリを困らせていた。母上はただ笑って見ているだけだ。大丈夫か伯爵家?
父上が書斎に入ったのを確認して、ユーリは訪ねてみた。酔ってる様子は無いのでお金の相談に乗ってもらう事にする。
ユーリが白金貨50万枚貰った話をしたら父上は頭を抱え込んでしまった。
「なあ、ユーリ、この伯爵家の1年の収入って幾ら位だと思う?」
「上級貴族ですから、白金貨100枚位ですか?」
「白金貨30枚だ。それで、家族や使用人の生活を支えている。幸い伯爵家には領地が無いからそれでも裕福な方だ。これが領地持ちの貴族になると領民が飢えた時などに保証しなければならなくなる。」
「じゃあ領地持ちの子爵はもっと厳しいと?」
「そうだな、子爵だと国が年に出す金額が白金貨15枚。それ以上は領主が自分で稼がなければならなくなる。」
「貴族が裕福だと言うのは間違いなのでしょうか?」
「真面目に生きている貴族程割を食うのは事実だ。中には私腹を肥やす悪徳貴族も居る。どちらを目指すかはユーリ、自分次第だ。」




