第六十四話
翌朝学院へ行くと部室でもドラゴンの話題で盛り上がっていた。まあ、王都存亡の危機だった訳で、他の学院生も早めに来て友達と教室で大騒ぎだ。
イルミと目が合った。何か言いたそうな顔をしているのでとりあえずサムズアップして置いた。イルミは、それで昨日の件が上手くいったのを察したのか、顔を上気させ一人で興奮している。なんか一人で悶え始めてるけど何を想像してるんだ?
「さて、今日はドラゴン騒ぎで皆も生徒も落ち着かない様だから販売は最小限で構わないよ。」
「しかし凄いよな。エンシェントドラゴンを魔法使いが一人で倒したらしいぜ。王宮魔導士かな?」
「ここに居るメンバーでも3人居れば倒せるんじゃないかな?」
「マジかよ?俺たちってそこまで強くなってる?」
「アルトは王宮魔導士を目指してるんでしょ?」
「そうですね、出来るなら挑戦したいです。」
「なら、レッドドラゴン位は一人で倒せるようにならないとね。」
「うわっ、ハードル高っ!」
部室は笑いに包まれていた。
授業に入っても、学院生達はどこか浮かれた感じだ。教師陣も今日は仕方ないと半分諦めている様だ。
昼休みにイルミと2人切りになるタイミングがあった。手短に用件だけを伝えて置く。
「子爵に叙されたよ。あと領土を貰った。イルミのアイデアのお陰だね。落ち着いたら挨拶に行くから。」
「おめでとう!本気でやるとは思わなかったけど。しかもエンシェントドラゴンとか。」
「たまたまだよ。エンシェントドラゴンとか知らなかったし。」
「ユーカには知らせたの?」
「いや、まずはイルミに知らせないとね。ユーカの件はゆっくり進めて行くよ。」
「じゃあ、私は知らないふりをして置くわね。」
「頼むよ。」
昼休みは久しぶりに学食で食事を取った。どの程度情報が出回っているのか知りたかったからだ。周りの噂話を聞いている限り。貴族の息子や子供と言った、ユーリに繋がるキーワードは出て来なかった。僕が叙爵された事も誰も知らない様だ。
安心して学食を離れ教室へと戻る。午後の授業も学院生達は終始浮かれ気味だった。これも娯楽が少ない弊害なのかな?
家に帰ると父上に呼ばれた。
「王城の使いの者が来たぞ。まず、賜る領地だが『グラストフ』だそうだ。グラストフは王都から西へ1日の距離だが、領土の北半分が山林で魔物が結構出るらしいぞ、で南半分が開けていてその中心にグラストフの町がある。正直大きな町では無い。5000人規模と言った所だな。ユーリがどうするかが見ものだな。」
「王都から1日ですか?近くて良いですね。町はすぐに発展させて見せますよ。」
「そう言うと思ったよ。で、ドラゴンの死体だが、明日の10時に騎士団の練習場に来て欲しいそうだ。」
「解りました。父上も同行するのですか?」
「私も王城には居る時間だから、見に行ければ行くよ。」
次の日9時半までには馬車で王城へ登城した。門番に事情を話し、騎士団の練習場まで案内して貰う。
9時40分を回る頃にはドラゴンを見たい城内の人達が場所取りを始めていた。花見じゃないんだから。
45分を過ぎると宰相の姿が見えた。ゆっくりと近づき挨拶をする。この練習場は400メートル四方はあるのでドラゴンの死骸も余裕で出せる。
「では、少し早いが見せて貰おうか。」
「解りました。って、あそこにいるの陛下じゃありませんか?」
「陛下が買い取るのだから陛下が見なくてどうする?」
「それもそうですね。では出しますが、凍っているので触らない様にして下さい。」
練習場の中央に巨大な氷のオブジェが現れる。
「これがエンシェントドラゴン。」
見る物が圧倒される大きさと迫力である。
「このままでは触れないので氷を溶かしますね。」
「ああ、頼む。」
ユーリが手をかざすとほんの少しだけ蒸気を発しながらドラゴンが解凍されて行く。半分ほど溶けた所で自重に耐えきれなくなったドラゴンが土煙を上げて崩れ落ちた。
「全くの無傷。これほど見事なドラゴンの死骸は見た事が無いな。」
「ドラゴンは捨てる所が無いって本に書かれていたのでなるべく無傷で倒すようにしてみました。」
「これならはく製にする事も可能だな。」
「血液も肝臓も新鮮ですからエリクサーが沢山作れますね。」
「エリクサーか、あれの作り方はもう既に失われて久しい。素材だけあってもなぁ。」
「ん?エリクサー作れますけど?」
「何?それは本当か?」
「この大きさのドラゴンなら1万本位は作れるんじゃないでしょうか。」
ユーリがそう言った途端、宰相が国王陛下の元へ走って行った。
「ん?また不味い事言ったかな?」
暫くすると宰相が陛下を連れて戻って来た。
「エリクサーが作れると言うのは本当か?」
「はい、このドラゴンの肝臓さえ頂ければ作れます。」
「解った。ドラゴンはエリクサー1万本込みで白金貨50万枚で買い取ろう。構わぬか?」
「御意。」
白金貨50万枚、白金貨1枚が1000万円だから・・・日本円で5兆円。
「後日振り込んで置く、ギルドカードは持っているか?」
「商業ギルドのカードならここに」
そう言ってカードを見せる。なにやら番号を控えている。通帳番号の様な物かな?
なんだろう。貴族になれただけでも良かったのに、お金持ちにまでなってしまった。これでまた周りの人の目が変わるんじゃないだろうか?
ユーリは驚いているが、アトマス商会の売り上げは月に白金貨75枚、これはグラスや鏡を卸や輸出にも回した成果。年間白金貨900枚の売り上げ、しかも仕入れがただなので純利益も白金貨900枚だ。日本円で90億円だ。その30%がユーリの懐に自動的に入る仕組みになっているので、年間白金貨270枚を貰っていることになる。これはオーバルバイン伯爵家の年間の収入白金貨30枚の9倍である。つまり、世間から見れば既にユーリは大金持ちなのだ。それが今回の件で大富豪に格上げされただけだ。
お金の件は後で父上に相談しよう。そう勘違いしているユーリであった。




