第六十六話
翌日は学院を早退して午前中で帰った。国王陛下にエリクサーを届ける為だ。改造馬車は父上が登城に使っているので、ユーリは転移で王城の横の広場へ飛ぶ。何時もの門番に挨拶をして、オーバルバイン子爵が来たと宰相に伝えて貰う。
暫くすると、執事らしき初老の紳士が現れてユーリを連れて行く。今日は謁見室では無く、執務室らしい。
中に入ると中央に国王陛下が居た。その傍ら、ユーリから見て左側に宰相が座っている。ユーリをちらりと見ると、ソファーに座る様に言われた。
「書類がもう少しで片付く、少し待っていてくれたまえ。あ、そこの甘い物でも適当に摘まんでいてくれ。紅茶は済まんが自分で頼む。」
「ああ、大丈夫です。お構いなく。ってすごいお菓子ですね。」
糖蜜の掛かったようなマフィンの様な形のお菓子が並んでいる。一つ摘まんで齧ってみるとこれでもかと砂糖を使ったお菓子で、そのまま砂糖を舐めるより甘いんじゃないかってくらい甘かった。
「これは、こんなお菓子食べてたら死にますよ。」
「何か言ったか?」
「いや、普段からこんなお菓子を食べてるんですか?」
「毎日そればかりで飽き飽きじゃ。」
陛下が心底嫌そうな顔をする。
「これは不味いだけじゃなくて体に悪いですよ。」
「何?そうなのか?」
「どうせ食べるならこう言うのにして下さい。」
そう言ってテーブルにショートケーキを3つ並べる。フォークも忘れない。
「見た事の無い綺麗なお菓子じゃな。」
知らない内に陛下も宰相もテーブルの前まで来ていた。仕事は良いのだろうか?
「味見して下さい。優しい甘さで紅茶にも合いますよ。」
「こ、これは、砂糖が上品に使われているな。更に果物を挟む事でさっぱりと仕上げている。」
最初は宰相が毒見をするらしい。続いて陛下も食べて驚いていた。
「もしや、庶民が食べている美味い食事と言うのは?」
「これの事でしょうね。」
何やら2人が謎の話をしている。
「処で、エリクサーはどうします?」
「ついでじゃ、先に済ませてしまおう。」
「では、まず、現品をお渡しします。その後少しだけ注意点を。」
そう言って宰相にマジックバッグを渡す。
「まず、エンシェントドラゴンの肝臓が予想以上に大きかったのでエリクサーが1万5000本出来ました。中にキッチリ1万5000本入っています。で、注意点なんですが、中から1本取り出してみて下さい。」
宰相がバッグからエリクサーを1本取り出す。綺麗なブルーに輝いている。
「通常、エリクサーと言うのは紫色の液体なんですよ。これはどの文献を調べても同じでした。」
「では、失敗作?」
「いえ。違います。宰相様、エリクサーの効能って知ってます?」
「確か、死んでいなければどんな状態でも蘇生させ欠損さえも治す。更に健康な状態で飲めば寿命が3年延びるとか。」
「そうです。それが通常のエリクサーです。実は、この青いエリクサーを半分」
そう言ってユーリは何処からかエリクサーを取り出し、これも何処からか出したビーカーに入れた。
「これに通常のポーションを半分混ぜます。」
通常のポーションは材料の関係で赤い色をしている。ユーリがかき混ぜると綺麗な紫色の液体が出来る。
「これが通常のエリクサーです。」
「なんと!ではこの青いエリクサーは?」
「鑑定の結果『上級エリクサー』と出ました。」
「つまり、1万5000本の上級エリクサーがあれば3万本の通常のエリクサーが作れると?」
「そうなりますね。更に、上級エリクサーの効能ですが、死んで10分以内であれば心臓が無くとも頭が吹き飛ばされていても、蘇生します。」
「そ、それは・・・」
「更に健康な状態で使用すれば寿命が20年延びます。」
「す、凄まじい効能じゃのう。これは一般には口外出来んな。」
「まあ、どう使うかは国王陛下にお任せします。」
「しかし、エリクサーに上級があったとは。」
「多分、素材に使ったのがエンシェントドラゴンだったからでは無いかと推測します。」
宰相と陛下が話し込み始めたのでユーリは辞する事にする。
「では、確かにお渡し致しました。僕はこの後用事があるので失礼させて頂きます。」
ユーリは急いで執務室を出た。そこには執事の紳士が待っていた。
「宰相、どう思う?」
「エリクサーでさえ失われた秘薬ですよ。それを上級エリクサー等と言うとんでもない物を作るとは。末恐ろしい少年ですね。」
「解っておるだろうな?失敗は許されんぞ。」
「心得ております。ああ言う少年はお金や名誉では動きません。恩を売るのです。そうすれば自らこちらに与してくれることでしょう。」
「流石だな。ところで、この薬どうする?」
「とりあえず1万本はエリクサーにしてしまいましょう。残りの5千本は寿命を延ばす秘薬として少しずつ販売しましょう。エリクサーは高位の冒険者やギルドなら白金貨1枚で売れるでしょう。寿命を延ばす秘薬なら白金貨100枚出す貴族も少なからず居るでしょう。」
「確かに。これは投資した金が随分早く回収できたのう。」
「そうですね、他のドラゴンの素材も軒並み高値で売れてる様ですので、元どころか大儲けになりそうです。」
宰相と陛下が越後屋と悪代官の様な会話をしている頃、ユーリは王立の図書館へ来ていた。領主として管理する領地グラストフの事を調べる為である。




