第十五話
ショーウインドウを設置した日からアトマス商会は、王都でも話題の店舗となった。軽食。透明なグラス。綺麗な鏡。これらの商品はあっという間に世間に認知される様になったのだ。
店員が2人増えて6人体制になったアトマス商会は毎日人の流れの絶えない人気店になった。ちなみに増えた店員は2人とも女性でセレンとカレンと言う20代の姉妹である。過去に他の商会で従業員をしていた経験があるそうで、アトマスさんがギルドに頼み込んで引っ張って来た計算の出来る逸材である。2人は姉妹だけあって、容姿が良く似ている。黒髪に碧眼、背の高い方が妹のカレンで、低い方が姉のセレンである。間違えると怒られるので4人はしっかりと覚えた。
軽食販売は相変わらず人気であるが、他の商売も忙しくなって来たので開店から13時までと時間を少し短くした。しかし、惜しむ声が多く。ユーリは軽食販売だけ別店舗で行う計画も立てている。
グラスと鏡はアトマスにほぼ任せきりである。アトマスと新人店員2人が居れば大抵のトラブルにも対処出来。今の所、ユーリの出番は無い。時々店の棚を見ては、商品を補充する程度である。
軽食販売についても、アイテムバッグを併用する事で、ユーリの自由時間が取れるようになって来た。
空いている時間、ユーリは事務所に籠り、翌日の軽食のメニューや商品第四弾のアイデアを考えている。こっそり和食を食べたりもしながら・・・
和食を是非広めたいのだが、テストをする場所と時間が無いのが欠点だ。一度店を休業しようかどうか本気で考え始める。
そんな日々を送っているアトマス商会にある日、変わった依頼が舞い込んだ。
「甘味ですか?」
「はい、うちの店で出す紅茶に、合う甘味を考えて欲しいんです。」
訪れた女性は喫茶店の店主をしていると自己紹介をした。名前はルーネさん。見た目は25歳くらいに見える。『銀の猫亭』と言う喫茶店を旦那さんと一緒に経営しているらしい。
依頼内容は、紅茶に合う甘味の制作及びレシピや材料の卸と言った所だ。甘味と言っても色々ある。ユーリは貴族の甘味はある程度分かるが、庶民の甘味は良く解らない。
「ちなみに今はどんな物を出されているんですか?」
「そうですねぇ。主にハチミツを使った焼き菓子が多いですね。後は、果物を使ったパイ等も人気です。」
「なるほど。ちなみに飲み物は紅茶の他には何があるんですか?」
ユーリは庶民の食事文化が知れる絶好のチャンスだと思い。色々と聞き出す。
「紅茶の他だと、果実水ですね。お昼時は軽食も出しているので、軽食を頼む方は果実水を一緒に頼む方が多いです。」
「なるほど・・・依頼は、お昼時ではなくそれ以外の時間帯の、紅茶を頼む方用の甘味って言う事で良いですか?ちなみに何か他に要望とかありますか?」
「えっと。出来れば、安価で提供できる軽い物が良いですね。」
「具体的にはどの位のお値段が妥当だと?」
「そうですね、紅茶が銅貨2枚ですので、銅貨3枚。紅茶とセットで銅貨5枚と言うのが妥当かと。」
ユーリはちょっと考え込む。銅貨3枚だと仕入れは銅貨1枚程度、日本円だと100円だ。日本で100円ちょいあれば、お菓子ならそれこそ目移りする位の種類がある。でも、甘味と言ったらやっぱりアレが食べたいよな。喫茶店だし。
「解りました。これは如何でしょう?」
そう言ってユーリはテーブルの上にショートケーキを1個出す。もちろんフォークも添えて。
「どうぞ、試食してみて下さい。」
「これは、綺麗なお菓子ですね。」
ルーネさんはケーキを崩さない様に一口フォークで切り取り口に入れる。そしてパッと目を見開く。
「なんて上品な甘さ・・・そしてとろける様な食感。」
「これなら、銅貨1枚で卸せますよ。ただし、1日限定100個になりますが。あと、レシピは教えられません。如何でしょう?」
ケーキには砂糖や生クリームが使用されているので、レシピを渡しても再現するのに幾らかかるか解らない、なので、ユーリは一計を案じた。
「これって砂糖を使ってますよね?それを1個銅貨1枚で卸して大丈夫なんですか?」
「はい、構いませんよ。レシピは企業秘密ですが、安く作る方法があるんです。失礼ですが、マジックバッグはお持ちですか?」
「マジックバッグは高価なので貴族様でないとなかなか・・・」
「ですよね。ちょっとお待ち下さい。」
そう言うとユーリは一旦事務所を出て魔法を使いすぐに戻る。
手にはマジックバッグと化したトートバッグを持っている。
「これをお持ち下さい。中に先程のお菓子が100個入ってます。マジックバッグですので時間経過がありません。何時でも新鮮なままお店に出せます。」
「え?でも、マジックバッグなんて買えるお金持ってませんし・・・」
「あ、マジックバッグはレンタルです。お金は取りませんよ。中身のケーキ代、銅貨100枚つまり銀貨1枚だけ頂きます。あ、毎朝空のバッグを持って来て頂ければ、中身は銀貨1枚と引き換えに補充します。どうでしょうか?」
ユーリとしては食文化が広まれば良いので儲けは考えていない。これで、砂糖の有用性が広まってくれればラッキー位に考えている。
「こちらとしては、これ以上ない好条件です。でも、本当に良いのですか?」
ルーネさんはあまりの好条件に多少疑心暗鬼になってるようである。
「はい、ルーネさんが良ければ大丈夫ですよ。出来れば、ケーキの事を聞かれたら『アトマス商会で卸して貰ってる。』と宣伝して置いてくれると助かります。」
「了解です。ではこの条件でお願いします。」
「はい、では早速契約書を作成しましょう!」




