第十六話
ショートケーキを新たな甘味として提供を始めた『銀の猫亭』は噂が噂を呼んで大人気の店となった。1日限定100個のケーキを求めて連日朝から行列が出来ているらしい。毎朝マジックバッグを大事そうに抱えてやって来るルーネさんが嬉しそうに教えてくれた。
一方のアトマス商会も順調だ。軽食も販売時間ギリギリまで客は絶えず。グラスや鏡も貴族を中心に連日数個は確実に売れている。
そんな順風満帆なある日、それは突如訪れた。最初は母上の何時ものお茶会が引き金だった。
「ユーリ、また、お茶会に呼ばれてるの。何か軽食を何時もの個数お願いね。」
「解りました。では、今日は最近話題のショートケーキを入れて置きます。」
そう言ってユーリはマジックバッグと化した母上のバッグにショートケーキを50個程入れて置くのである。
「ありがとう。なんか最近お茶会に呼ばれる回数が増えてるのよ~。侯爵家の派閥の方だと断れなくてねぇ~。」
母上は支度をしながら愚痴をこぼす。基本、貴族の女性はメイドに化粧などは任せきりであるが、伯爵家が鏡を導入してから、母上は自分で化粧をする事が多くなった。
「母上、これをお持ち下さい。」
そう言ってユーリが渡したのは10センチ位の手鏡である。
「これがあれば、出先でもちょっとした化粧崩れなら直せますよ。」
「あら、便利ね。ありがとう!」
そんな会話の後、自室へ戻ろうとしたユーリだが、母上に呼び止められた。
「そうそう、このマジックバッグなんだけど、同じような物が欲しいって人が多いのよ。何とかならないかしら?」
この世界のマジックバッグの扱いは、ほぼ商用である。母上の様にハンドバッグをマジックバッグ化しているのは珍しいらしい。
「母上の持ってるような物で良いのでしたら、金貨20枚程度でお譲りするとお伝え下さい。希望の色やデザインがあれば対応します。」
「そう?助かるわ~。じゃあ今日のお茶会で話をしてみるわね。」
「ハンドメイドのなので1週間位かかるとお伝え下さい。」
「分かったわ。ありがとう、ユーリ。」
こうして、鏡に続く新製品が誕生するのである。
母上に頼まれたマジックバッグを7個作った後、店で販売する用のバッグを20個程作ってアイテムボックスに入れて置いた。実は明日はアトマス商会始まって以来の休業日である。まあ、休業日とは言っても、実際は店内で仕事はするのだが、客が来ないので気分は楽だ。それに休業日の明日は、和食をみんなに試食して貰う予定になっている。
ワクワクしながら眠りに就くユーリであった。
翌日何時もより遅めに店舗へと訪れた。休業日なので、住み込みの従業員をゆっくりと寝かせてあげたいと言う気づかいだ。
店へ着くとまだ、ドアに鍵が掛かっていた。しばらく待つとアトマスさんがやって来た。
「こんな処で何をしてるんですか?ユーリ様。」
「いや、鍵が掛かってるんでね。中は女性ばかりだし。」
現在この店舗の2階の寮部分には4人の女性が暮らしている。アトマスさんが連れて来た姉妹も住み込みを希望したからだ。
「ああ、なるほど。今日は休業日ですから、みんな寝坊してるんですね。」
「うん、みんな毎日真面目に働いてくれてるからね。今日位はね。」
等と話をしていると、カレンが気が付いた様で、中から鍵を開けてくれた。
「一声かけて下されば良いのに・・・」
と、愚痴を言っているが、まだ眠そうだ。
「僕とアトマスさんは事務所で話があるので、今のうちにお風呂でも入って目を覚ますと良いよ。」
実はこの店舗のお風呂はユーリが魔改造していて、魔石を使って、何時でもお湯が出る仕組みになっている。
「解りました。他の皆も起こして置きますね。」
「じゃあ、1時間後位に食事にしますので、それまでは自由にしていて下さい。」
そう言ってアトマスを従え事務所へと入る。そしておもむろにバッグを3つ程取り出して。
「これ、新製品なんだけど、どうかな?」
「これは、女性用のバッグですよね?」
「見た目はそうだけど、中身はマジックバッグになっています。商売用のマジックバッグよりは小さめに付与してありますが、どうでしょう?」
「マジックバッグですか?女性用のマジックバッグかぁ、考えた事もありませんでした。」
アトマスはバッグを開けて手を入れたり外から眺めたり品定めをしている。
「1個金貨20枚で販売しようと考えています。」
「金貨20枚ですか?このクラスのバッグだと普通でも金貨12枚はしますよ。それにマジックバッグの付与を考えると安過ぎませんか?」
「安いのが良いんですよ。このバッグが普及してくれれば、女性の買い物が増えると思いませんか?大抵の家庭では女性が財布の紐を握っています。その女性に買いもをさせる事で経済を活性化するんですよ。」
「なるほど、ユーリ様は時々6歳とは思えない発想をしますね。」
(あら?またやっちゃったパターン??)
「まあ、そう言う事で明日からこのバッグも商品として販売したいと思います。」
「解りました。」
ユーリとアトマスが会議室から出ると、女性陣が揃って店のソファでくつろいでいた。食事を待っているのだろう。
早速ユーリはテーブルに塩おにぎりとだし巻き卵、豚汁を人数分出して行く。おにぎりは1人2個だ。
「これは異国の料理なんだけど、この国でも受け入れられるかどうか判断して貰いたい。」
「解りました。では頂きます。」
ユーリは久しぶりの和食にニヤケ顔が止まらない。他の5人は初めて見る料理に興味津々だ。
「このおにぎりと言うのは、パンの代わりになりますね。腹持ちも良さそうだ。」
「このだし巻き卵って言うのも、良い香りとほんのりとした甘さがおにぎりに合います。」
「私は、この豚汁が具沢山で美味しいと思うわ。ちょっと癖のある匂いだけど、食べ始めると止まらない。」
概ね好評の様だ。皆しっかりと食べ切っている。
「どうかな?これを軽食で出しても受け入れられると思います?」
「そうですねぇ。珍しさもあって受けると私は思います。」
「単純に美味しいしね!」
「そっか、それじゃあ」
と言ってユーリは丼とフォークをおもむろに取り出す。
「明日のメニューはこれにしようと思うんだけど、味見してみて!」
「これは?」
「牛丼と言うメニューです。」




