第十三話
オープン翌日。開店30分前なのに店の前に大行列が出来ていた。この世界には娯楽が少ない、ゆえに口コミが広まりやすいのだ。この珍しい料理を皆はイベントとして楽しんでいる節がある。ユーリは娯楽の普及も進める事を心に誓った。
今日も早めのオープンを決断する。メニューは『カツサンド』と『オレンジジュース』だ、カツサンドは揚げたてのカツをソースに潜らせ、食パンに刻んだキャベツとマヨネーズを乗せカツを挟んだ物を食べ易い様に3つにカットする。これで一人前だ。あえて耳も取らないし、トーストもしない。パンの柔らかさを味わってもらう為だ。オレンジジュースは100%ではなく、30%の物をチョイスした、これはジュースの甘さを楽しんでもらう為である。この世界にオレンジに似た果物はあるが、100%じゃないジュースは珍しいし、冷えたオレンジジュースも珍しいので受けると踏んでいる。
こうして、アトマス商会の2日目が始まった。
はたして、2日目の軽食販売も大成功するのだが、一つ問題点があった。それは、もう一つの主力商品のグラスがまだ1個も売れていないと言う事だ。担当のアトマスが、列の整理やクレーム対応、商品説明などに手を取られてしまい。グラス販売まで手が回らないのだ。アトマスは従業員増員を決意するのであった。
この日の売り上げは約銅貨30000枚、金貨30枚だ。日本円で300万円。商会の売り上げとしては並程度だが、軽食屋の売り上げとしては破格である。
「ユーリ様、やはり店員をあと2人増やしましょう。4人居れば軽食販売はこなせます。あと2人はグラス販売に力を入れましょう!」
「アトマスさんは、余程グラスを売りたいみたいだね。構わないよ。アトマスさんの裁量で従業員をあと2人確保して下さい。僕は、グラスを売る為の作戦を考えて置きます。」
「ありがとうございます。早速ギルドで使える人材が居ないか聞いて来ます。」
そう言って、疲れているのにも関わらず、走ってギルドへ向かうアトマス。この時既に、ユーリの頭の中には次の一手が浮かんでいた。
「それじゃあ、僕も帰りますね。ルイーゼとサラサの2人はゆっくり休んでね。あ、キッチンとお風呂は自由に使って良いよ。どうせ他に使う人は居ないし。それから、キッチンにある程度の食材が置いてあるから、それも自由に使って良いよ。今日の軽食も2人分置いてあるから、スープでも作れば立派な夕食になるでしょう。じゃあ、また明日。よろしくお願いします。」
「「ありがとうございます。オーナー!」」
ユーリは今晩の夕食のメニューを考えながらゆっくりと帰宅するのであった。家に着くと、母上が近づいてきて、今日もパスタが食べたいと言うので、夕食は鮭のクリームパスタにしてみた。副菜にはフライドポテトを添えてみる。パスタは女性に、フライドポテトは男性に評判が良かった。特に父上と兄上達からはエールが飲みたくなる味だと言われたので、ジョッキで冷えた生ビールを出してあげた。
夕食を楽しみ、部屋に戻ると、ユーリはかねてから考えていた物を創造する。鏡である。この世界には透明なガラスが無い。したがって、良く見える鏡と言う物も無い。金属を磨いた、鏡もどきはあるのだが、非常に映りが悪く使用に耐えない。そこでユーリはまず40センチ×30センチの鏡を作り出し。木枠で綺麗に飾り。この世界に無い塗料で色を塗り、この世界に無いニスで仕上げをする。豪奢な貴族風の鏡の完成である。これを明日、父上に頼んで国王陛下に献上して貰おう。そして、評判が良ければ特許を取得する。そして、グラス販売の促進の為に使おうと言う算段である。
ちなみに、この国の名前は『ベスグラント』と言い。国王陛下の名前は『フラネル・ベスグラント』と言う。王都の名前は『アリティア』と言い。初代国王の妃の名前から取ったとされている。
実はこの時、国王陛下が自慢していた透明なグラスは貴族達の間で大変な噂になっていて、手に入れたい貴族達がこぞって入手先を血眼で探しているとは夢にも思わないユーリであった。そこに更に綺麗に映る鏡を献上しようと言うのだ、これは言わずもがな、大惨事の予感・・・
翌朝、父上に鏡を見せて国王陛下に献上して欲しいと頼む。
「ほう?これは見事な鏡だな。私はこんな顔をしていたのか。それにしても、これ程良く映る鏡とは。特許は取って置けよ。あ、それと家用にも何枚か用意してくれよ。献上の件は任せて置け。」
「ありがとうございます。早速家用に何枚か用意して執事に渡して置きます。」
ユーリはこれでグラスを売る援護射撃が出来るとウキウキした気分で商会の店へと向かう。
またしても開店前から行列が出来ている。心なしか昨日より人が多い気がする。アトマスさんは既に来ており、列の整理をしている。店員2人もスタンバイ完了だ、後はユーリが商品を置けば開店である。
今日のメニューは『ビーフシチュー』と『テーブルパン』3個のセットだ。シチューは紙で出来たカップラーメンのカップの様な入れ物に入れて販売する。パンは紙袋だ。これは柔らかいパンそのものを売ってくれと言う客の要望に応えたメニューである。
ユーリが開店を告げると、客から歓声が上がる。




