第十二話
アトマス商会の店は明日開店と言う所まで来ていた。懸念材料の二人目の従業員も、ルイーゼが連れて来た子が『タルタルフィッシュサンド』で撃沈して、面接5分で採用が決まった。名前はサラサと言う。茶色い髪をした小柄な子だが、年齢はルイーゼより1歳年上だそうだ。現在は四人で店を回す練習に日々を費やしていた。
ユーリの店は朝9時開店で、ラストオーダーが17時までと言う。完全に昼休みの客を狙ったスタイルだ。まあ、商品が軽食なので、これは当然とも言える。朝が若干早いのは冒険者や、遅い朝食の人狙い。ラストオーダーが17時なのは夕飯に買って行く者もいるだろうと言うルイーゼの意見で決まった。最初は休み無し。軌道に乗ったら週に1日は休もうと言う事で話はまとまった。
初日のメニューも決めてある。伯爵家で最初にお披露目した『照り焼きサンド』である。ドリンクはインパクトも考えて『レモンスカッシュ』にする事にした。
セットで銅貨6枚。計算が面倒なのでメニューは1つだけである。
そもそも、グラスはそうすぐには売れないだろうと四人は判断していた。そこで軽食販売の方を重点的に訓練して来た。売り子の二人が注文を受け、ユーリは個数分の商品をテーブル上に出すだけ。アトマスは客の質問やトラブルの処理と、それぞれの担当を分けた。これで明日は乗り切れるだろう。四人はそれぞれの役割を確認して解散となった。
夕方、家に着いたユーリは自室でラフな格好に着替えると、ソファに寝転んだ。明日は成功させないと行けない。神様との約束もあるしね。と、今日の夕飯のメニューも考えないと。そろそろ和食も食べたいけど、まだ、この世界ではライスは早いかな・・・でも、パン以外にも主食があるって事は知って貰っても良いかも。
と言う事で今日のメニューはパスタになった。『スパゲッティボロネーゼ』である。流石に食べ方の解らない料理に、いつもは真っ先に飛びつく姉上も困惑気味だ。珍しく揃っている兄上達も興味津々である。美味しそうな匂い、だが食べ方が解らない。
「これはパスタと言う麺料理です。特に決まった作法はありません。フォークで食べ易い様に自由に食べて下さい。」
ユーリがそう言うと、皆が一斉にボロネーゼと格闘を始める。なんとか一口食べた父上が口を開いた。
「ほう?これはこの料理自体が主食なのか・・・特許は取ってあるのか、ユーリ!」
「特許ですか?(この世界にも特許があるのか??)」
「そうだ、特許を取って置かないと真似されるぞ。ああ、グラスは既にユーリの名前で特許を取ってある。食事の方はパンや既存の料理のアレンジは特許は取れないが、このパスタなら特許が取れるはずだぞ。」
これは、良い事を聞いた。でも特許を取ると文明の引き上げにはマイナスに作用するんじゃないかな?
「えーと、今の所、料理で特許を取る予定はありませんが、良い事を聞きました。今後に活用させて頂きます。ありがとうございます。父上。」
「そうか。明日はいよいよ商会の店のオープンだな。頑張れよ!!」
そして、店の開店の日がやって来た。皆緊張しているのか、開店の9時よりだいぶ前に揃ってしまった。
「どうします?もう一回通して練習しますか?」
ルイーゼがそんな事を言い出すが、ユーリが止めた。
「ちょっと時間は早いですが、人通りも結構ある事ですし。店、開けちゃいましょう!」
こうして、アトマス商会はスタートを切ったのである。
「でも、ただ店を開けても、まだこの店の事を知りませんよね?呼び込みとかしますか?」
会長であるアトマスが、一番懸念していた事である。
「大丈夫!秘策がありますねで!」
そう言ってユーリは魔法を発動する。照り焼きの臭いだけを大量に創造してそれを風魔法で半径500メートル位に拡散させる。
「あ、いい匂い!」
すぐに通りを歩く人たちが匂いに気付く。
「アトマスさん、ルイーゼさん、サラサさん。今がチャンスですよ!」
「軽食の販売はこちらですよ~今日オープンのアトマス商会です!!」
すぐに意図を悟ったアトマスさんが大声をあげて呼び込みを始める。ルイーゼさんとサラサさんは、戸惑いながらも自分の立ち位置に着く。そして、道行く人たちに向けて声を掛けて行く。
「「軽食販売はこちらで~す!」」
するとポツポツとだが客が足を止めてくれる様になる。売り子の2人は商品の実物を見せて、売り込みに入る。やはり設定金額が高いのか、なかなか最初の1個が売れない。最初の1個が売れれば、後は成功するビジョンがユーリにはある。魔法で若干照り焼きの匂いの濃度を高くしてみる。すると、冒険者風の若い男が、サラサの前で呟いた。
「良い匂いだ、1セットくれ!」
「はい、銅貨6枚になります。」
そう言ってサラサが紙の包みと紙コップを手渡し、ルイーゼが銅貨を受け取る。
「「ありがとうございました~!」」
うん。練習通りやれてるな。周囲の客は冒険者風の男を目で追ってる。男は椅子に腰かけ、紙を開き照り焼きサンドにかぶり付く。
「なんだこの柔らかいパンは、そしてこの肉の香ばしさ、おい!ねぇちゃん。もう1セットくれ!!」
冒険者風の男は椅子に座ったままおかわりを注文した。
「はい、もう1セットですね!かしこまりました~」
そう言ってサラサはテーブルまで照り焼きサンドセットを持って行き銅貨6枚を受け取った。
これが、引き金になった。
次々と注文が入り、店の前にあっという間に行列が出来たのである。
こうして、閉店までに実に4千セット以上の照り焼きサンドセットを売りまくったのである。銅貨6枚×4000セット=銅貨24000枚。日本円で240万円である。純利益100%の商品で、一日240万円はかなりの大儲けだ。それに明日になれば口コミで更に客は増えるだろう。ユーリは、作戦成功と内心で喜び、アトマスは、これは店員を増やすべきだろうかと頭の中でソロバンを弾く。店員2人は純粋に大喜びだ。
こうして、アトマス商会の開店初日は終わったのであった。




