第百十三話
1週間ほど剣術の稽古に費やしたが、そう簡単にマスター出来る物では無い。
「そろそろ依頼も受けないと金が続かないな。と言う事で、明日から依頼と稽古を1日おきにする事にする。」
エリシアが宣言する。
「まあ、実践は実践で稽古とは違う訓練になるだろうしね。」
「その通りだ。実践の中で学ぶ事も多いだろう。」
今日はこの辺で上がろう。今日は何処へ食事に行くか2人で決める。最近の日課だ。キッチン道具を揃えたのに使った事は無い。今日も風呂に行きたいと言うとリュートは風呂が好きだなと言いつつも反対はしない。
2人で風呂に向かい歩いていると。エリシアが距離を縮めたり広げたりしている。どうやら2人の距離感がイマイチ掴めないらしい。意識しすぎてる様だ。
風呂につかりゆっくりとくつろぎ。近くの食堂で冷たいエールを呑む。2人の密かな楽しみだ。翌朝の食事も一緒に注文して。小一時間程食事を楽しんでから帰る。
この世界ではあまり夜更かしをする人が居ないので、夜道は暗い。街灯も無いので月明かりだけが灯りだ。家まで20分位の道のりだが、会話を楽しみながらゆっくりと帰る。
家に着くとライトの魔法で明かりをつけ、明日の予定などを確認してからベッドに入る。当然同じベッドだ。一度別の部屋で寝ると言ったら物凄く悲しそうな顔をしたのでリュートが折れた。
「なあ、リュート。」
「どうした?」
「やはり私は君の事が好きな様だ。ずっと考えていたが、今のこの生活が終わる事は考えられない。どうしたら良い?」
「どうしたら良いって聞かれてもね。エリシアはどうしたいんだ?」
「この生活が続くなら何でもするぞ。」
「現状維持で満足なのか?」
「リュートは意地悪だな。」
ん?なんか対応を間違ったか?
「私は結婚したいと言って居るのだが、伝わって無いのか?」
「随分と遠回しな言い方だな。エリシアらしくない。」
「私が私らしくないとしたら、それは君が原因だ。」
「そう言うエリシアも可愛いな。」
「それはずるいぞ。」
多分、今灯りを付けたらエリシアは真っ赤になっているだろう。
リュートはエリシアを抱きしめて軽くキスをした。
「これでは答えにならないか?」
リュートがそう言うと今度はエリシアがリュートをぎゅっと抱きしめて唇を求めて来る。そこからはお互いがお互いを求め合う。
翌朝リュートは何時もより早く目が覚めた。向こうの大陸で結婚を約束していた2人の顔がチラつく。だが今は誰より隣で寝ているエリシアが愛おしい。まだ、神様の質問の答えも見つけていない。そんな状態で結婚しても良い物だろうか?
リュートはエリシアの顔を覗き込み、そっとキスをする。昨日そのまま寝たのでお互い何も着ていない。エリシアが少し動くと小さな胸が見える。毛布を引き上げて隠してあげる。するとエリシアが起きてしまった。
「ごめん、起こしちゃったか?」
そう言うとエリシアが首を横に振ってから、リュートに抱き着いて来る。激しい口づけをしてくる。エリシアが情熱的な様だ。
「リュート、頼みがあるのだが。」
「ん?なんだ?」
「もう一度してくれないだろうか?」
「え?昨日あれだけしたのに?」
「恥ずかしい話だが、私はこう言う事の知識が無かった。だから女は我慢する物だと思い込んでいた。その、アレがそう言う事だとは知らなかったのだ。なんか損した気分だ。昨日はひたすら求めるばかりだった。もう一度ちゃんとしたい。」
「ん~、良く解らないんだけど?」
「我慢できないと言う事だ。」
エリシアが恥ずかしそうに小さい声で言う。
それから、また楽しみ。遅い朝食を食べてから冒険者ギルドへと向かった。
「今日は依頼を受けなくても良いのでは?」
「いや、結婚するなら金が掛かるからな。」
「そうなのか?」
「良く知らんが、掛かるだろう?」
そんな話をしているうちにギルドに着いてしまった。一時話を中断し軽い依頼を受けた。
2時間程で片づく軽い依頼だったので報酬は金貨3枚だった。
「まあ、久しぶりの依頼だったからこんなもんだろう。」
「時間がまだあるけどどうする?」
「では教会へ行くか?」
「教会?何をしに?」
「教会と言えば結婚だろう?」
どうやらこの世界では結婚は教会でする物らしい。教会の下見か?予約とかあるのかな?
さっさと歩きだすエリシアに付いて行く。
教会は冒険者ギルドから、そう遠くない場所にある。教会には治療やステータスボード等があるので冒険者の利用が多いのだ。その為ギルドの近くにあるそうだ。
教会に着くとエリシアがシスターに何やら尋ねている。しばらくするとリュートが呼ばれた。
「こっちだ。」
エリシアが手招きしているので近づく。
「では、こちらの書類にサインをお願いします。」
シスターに何やら書類を差し出された。教会の予約か?
「こちらの書類にお2人のサインを頂ければ、結婚の成立です。」
ん?婚姻届け?ちょっと簡単すぎません?異世界の結婚舐めてました。どうやらこの世界では書類1枚で婚姻が成立するらしい。また、離婚と言う概念は無いそうだ。重婚は罪になるので1度結婚した者は2度目は無いらしい。つまり再婚はあり得ないと言う事になる。エリシアが必要に愛人の立場を主張したのにはこの辺の事情かららしい。
貴族が一夫多妻なのはこの辺に理由があると納得するリュート。って言うか、サインしちゃったし。
「これでお2人は夫婦です。末永くお幸せに。」
シスターが何やら祈ってくれた。
「って言うか、指輪とか婚約とか無いの?」
「そう言うのは貴族の風習だな。冒険者はこんなものだ。」
「そっか、じゃあ食事して帰るか?」
「そうだな、冷えたエールで乾杯しよう。」
エリシアがご機嫌なので良しとしよう。
食事をして家に帰るとエリシアが真面目な顔で話があると言う。何事かとリュートは身構える。
「こうして、夫婦になったからには1つ言わせて貰いたい事がある。」
「何でしょう?」
「リュートの記憶の事だ。」
「記憶?」
「記憶が無いのだろう?なら自分の年も誕生日も判らないと言う事だな?」
「ああ、そうなるな。」
「そこで、君の年齢は16歳。誕生日は私と同じ日と決めたい。」
「それでエリシアが納得するなら構わないけど?」
「じゃあ、決まりだ。」
エリシアが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、僕からも1つ。これからは人前で脱ぐなよ。」
「誰の前でも脱ぐ訳では無い。君だからした事だ。」
エリシアが真っ赤になる。
「そう言えば、食堂であまり呑まなかったけど体調でも悪いのか?」
「いや、そう言う訳では無い。これから、その、するのに酔っていては何かと思ってな。」
「気にするな。夫婦なら何時でも出来る事だ。もっと肩の力を抜け。」
「そうか?じゃあワインを1杯だけ貰おうかな?」
リュートがワインを出してあげるとエリシアは嬉しそうだ。そうそうその顔が見たくて結婚したんだから、エリシアの笑顔を絶やさない様にしないとな。
今更ながらに結婚した事を実感するリュートであった。
翌日からは稽古と依頼を交互に行い。月に金貨100枚位を稼ぐ冒険者夫婦として有名になった。
そして2年の歳月が過ぎる。リュート18歳エリシア19歳。ランクはSまで上がっていた。2人の事を知らない者はこの町に居ない。それ程の有名人になっていたのであった。
リュートは充実した生活を送っていた。日課であった稽古はSランクになった今でも続けている。たまに長期の依頼を受けても移動中に何らかの稽古はしている。1対1の勝負ならエリシアより強くなっているが、エリシアのレベルも上がっているのでエリシアが弱くなった訳ではない。
Sランクになった今でも家はそのままだ。周りからはもっと良い家を買えと勧められるのだが、あの家を気に入っているので賃貸を止め買い取った。
収入は増えたが生活はあまり変わっていない。相変わらず大衆浴場と食堂の常連だ。
変わった事と言えば1つだけ、弟子が出来た事だ。Cランクの女冒険者2人。ミントとシーネを成り行きから弟子にした。剣士と魔法使いのコンビだ。たまに合同で依頼を受けたりしている。
そう言えばエリシアの見た目があまり変わっていない。19歳になった今でも子供に間違えられるほど小さく童顔だ。逆にリュートは逞しく成長し、身長も10センチ近く伸びた。
ミントとシーネは2人の事を『兄貴』『姐さん』と呼ぶ。




