第百十四話
領都の冒険者ギルドの1階部分は半分を酒場が占める。冒険者たちはここで食事をしてから依頼に行ったり。仲間と待ち合わせをしたり、仲間の募集をしたり、依頼達成のお祝いをしたり、残念会をしたりと様々な利用方法をする。
リュートとエリシアはこの酒場に居る事が多い。酒を飲む訳では無く、弟子との待ち合わせがメインの利用方法だ。
今日も2人は朝早くからここに居る。果実水を飲みながら2人の弟子をまつ。ちなみに果実水は魔法で冷やす。この飲み物を魔法で冷やすのは実はギルドでは流行っていると言うか当たり前になりつつある。リュートとエリシアが有名になるにしたがって広まったのだ。エールを冷やして飲むのを最近では冒険者風と呼ぶらしい。
少し待つと、ミントとシーネが現れる。
「2人共遅いぞ。」
「済みません兄貴。シーネが相変わらずの寝起きの悪さで。」
「果実水飲むか?」
「頂きます。」
2人は冷えた果実水を美味そうに飲み乾す。どうやら走ってきた様だ。
「まあ、良い。今日は月に1度の合同依頼の日だ。Aランクの依頼を受けるぞ。」
「解ってます。この日が楽しみで兄貴たちの弟子をしてるんですから。」
Sランク2人のパーティーに一時的に入れて貰うと最高Sランクまでの依頼が受けられる。ミントとシーネには月に一回こうやって高ランクの依頼を体験させて、実践の中で色々な物を学んでもらっている。
周りではミントとシーネを羨ましそうに見ている冒険者も少なくは無い。何しろCランクで受けられる仕事は最高でBランク。Aランクの依頼とでは難易度も違うが報酬の桁も違う。
リュートとエリシアは金には困っていない。Sランクになるとこの国では子爵位が貰える。結婚はしているが、2人は爵位持ちの貴族なのである。家名も2つ持っている。リュート・フォン・ブラスバッハ子爵とエリシア・フォン・ルークミスト子爵である。家名が2つあるのは将来2人に2人以上の男子が生まれた時。それぞれに与える事が出来るようにだ。
2人に師事するミントとシーネもCランクにしてはお金を持ってる方だ。これはリュートとエリシアが食事の世話をしたり。家の余ってる寝室に泊めてくれたり、こうやって高位の依頼を受けさせてくれるからだ。
他の冒険者が羨むのも無理が無い。お金がかかるどころか儲かって。更に強くなれる。非常に恵まれた弟子なのである。
剣士のミントが口を開く。
「そう言えば最近依頼の数が増えているのを知っていますか?」
「そう言えば今日もAランクの依頼が何時もより多かったわね。」
エリシアが応じる。剣士なのでミントはエリシアの直弟子になる。
「どうも魔物が活性化しているみたいで護衛任務なんかは大変らしいですよ。」
「それは知らなかったな。Sランクの依頼は相変わらず月に1度出るかで無いかだし。Aランクは討伐依頼が多いからな。」
リュートが応じる。そう言えば、この2年で変わった事がもう一つ。リュートの1人称が僕から俺になっている。
「何にせよ、冒険者には稼ぎ時って訳ですよね?」
最後はシーネだ。シーネは魔法使いなのでリュートが指導している。
「話をしていてもしょうがない。実際に依頼を受けて確かめてみよう。」
リュートの言葉に皆が頷く。
ミントの言う通り魔物が活性化している様だ、依頼に行く道すがら、何時もより多くの魔物に遭遇した。依頼は無事完遂したが、ギルドに帰ると。負傷した冒険者の数が何時もより多いと皆が噂している。
窓口で受付嬢に話を聞く。
「なんだか魔物が活性化しているみたいだが、ギルドでは原因を把握しているのか?」
「今、調査中ですね。本当にここ1週間位で急激に活性化が始まったのでギルドも対応が後手に回っているのも事実です。お2人の出番があるかもしれません。」
どうやら、かなり緊迫した事態の様だ。
本日の成果。金貨50枚を受け取って酒場では無く家に向かう。これは酒場で大金を分配するとCランクの2人が襲われる可能性があるからだ。
リュートとエリシアの家のリビングで軽食を食べながら報酬の分配と今後の話をする。これは何時もの事だ。金貨50枚はランクに関係なく山分けだ。リュートとエリシアが25枚。ミントとシーネが25枚だ。
金貨25枚は日本円で250万円相当。Sランクの報酬としては少ないが、Cランクの2人にしてみれば半月分の稼ぎになる。
「たまにギルドの貯金残高を見て怖くなることがあります。何時か襲われるんじゃないかって。」
シーネがネガティブな発言をする。
「2人が俺たちの弟子って知らない奴は居ないだろう。そんな事をしたらどうなるか想像できない馬鹿はそうは居ないさ。」
「私は半分家族に仕送りしてるからシーネちゃんより貯金少ないし~」
ミントは、その辺あまり深く考えない性格らしい。
「って言うか相変わらず師匠の家のご飯は美味しいですね。」
「エリシアがグルメだからな。下手な物は出せないんだよ。」
「ところで明日からはどうします?師匠たちはギルドから呼び出しが来るかもしれないんでしょ?」
「まだ、正式に決まったわけじゃ無いからな。明日は予定通り家で稽古をする予定だ。2人も参加するだろう?」
「良いんですか?私たちは大丈夫ですけど。」
「2人で依頼に出ても構わんぞ。魔物が活性化している今は稼ぎ時なんじゃないか?」
「もう少し様子を見ます。ギルドの発表があってからでも遅くありませんしね。」
ミントは理論派では無いが、危ない橋は渡らない感の良さがある。これは冒険者としては悪く無い資質だ。
「2人共もうすぐBランクに昇進するんだろ?じゃあ明日はみっちり鍛えてやるよ。」
「そうですね。早くBランクに上がって貰わないとSランクの依頼が受け辛いですからね。」
エリシアの言葉に震え上がる2人。特にミントは顔面蒼白だ。
「せめて美味しい食事をお願いします兄貴。」
「ははは。解ったよ。」
その日は2人は泊って行った。翌朝は早朝から稽古で、昼にはダウンしているミントとシーネ、リュートが回復魔法で復活させ夕刻まで稽古は続いた。これは実は理に適っている。一度動けなくなってから回復させ更に動けなくなるまで体を酷使すると魔力量や体力が大幅に増えるのだ。
Sランクの2人は基本の魔力量や体力が多いので出来ないがCランクのミントとシーネにはまだ伸びしろがある。Aランクまで引き上げてやればあとは自然とSランクまで行けるだろう。
以前のリュート、ユーリだった頃ならステータスを魔法で上げて終わりだったろう。こうして稽古をして自分も鍛えると言った発想は無かったはず。2年を無駄に費やした訳では無いと思いたい。
稽古の後は皆で大衆浴場に行く。ちなみにミントとシーネにもエリシアと同じタイプの下着を渡してある。最初に大衆浴場に行った帰りにめっちゃ喰いつかれた記憶がある。シャンプーと石鹸もそれぞれに渡してある。それらを与えてから、大衆浴場に行くのが楽しい事だと認識されたようで、稽古の後は風呂に入って美味しい食事と言うのが4人の定番となっている。ちなみに冷えたエールは2人も大好きだ。
ミントとシーネは16歳になったばかりだと聞く。最初に会った時はまだ成人したてでFランクだった。そんなミントとシーネだが、エリシアと並ぶとお姉さんに見られる。大丈夫か?エリシア。
特にシーネは魔法職のせいか、筋肉をあまり鍛えていないので胸が平均より大きい。ミントとエリシアは大衆浴場に行くとどうしてもシーネの胸に目が行ってしまう。
そう言えば、何時だったか、エリシアがリュートは胸が大きい女は好きか?と質問して来た事がある。
多分あれは、シーネとお風呂に入ったのが原因だろう。
食堂でガッツリと夕食を取り。10人前ほど食事を補給して家路につく。ミントとシーネは宿屋に帰る。明日は依頼を受ける日なのでギルドで待ち合わせをする。
ミントとシーネには一緒に住んでも構わないと言って居るのだが、冒険者は質素な生活にも順応しないとイケないと、謎の言い訳をされた。
となりでエリシアがうんうんと頷いていたが解っているのだろうか?




