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第百十二話

 リュートはまず剣を投げ捨てた。剣術の稽古と言う言葉に騙されていた。剣での勝負では素人のリュートに勝ち目はない。


 武器であるスピードを生かし、両手で魔法を連射する。マルチタスクを利用し2つの魔法を同時に撃つ事も交える。態と見えるロックバレットを発動し、後ろにエアバレットを仕込む。一瞬で良いからエリシアの意識を逸らせれば勝機がある。


 思った通り2つ同時の魔法攻撃は感知できなかった様だ。ロックバレットは避けたがエアバレットを太もも辺りに受け一瞬エリシアの気が逸れる。瞬間リュートが再加速してエリシアの後ろに回り込んだ。何時の間にか魔法で引き寄せていた木刀を首筋に充ててジエンドだ。


「ヒントを与え過ぎたか?」


「そうですね。エリシアは優し過ぎます。」


 模擬戦、木刀、稽古、剣術、そしてエリシアの持つ木刀。それらを見て勝手に自分にリミッターを掛けていた様だ。相手が魔物だったら瞬殺できるがエリシアを意識し過ぎた結果、勝つ事が出来なくなっていたらしい。


 エリシアにヒールを掛ける。かすり傷程度だと言うが、痛みはあるはずだ。


「自分の得意な物を封じられれば誰でもそうなる。魔法が通じない相手に出会ったらどうする?」


「今の僕では逃げるしか手が無いですね。」


「そこで剣術だ。今から改めて剣術の基礎を教える。今まではただ模擬戦をしていただけだが、基礎を覚えれば戦い方も分かって来るだろう。」


「なるほど、まず、自由にやらせて、叩きのめし鼻っ柱を折るのが目的だった訳ですね?」


「剣術の道場ではよくある事だ。」


 戦士の剣には基本が3しか無いらしい。切る、突く、捌くの3つだ。切るは解る。線の動きだ。突くは点の動き、相手の急所を狙うのに適している。捌くが良く解らない。


「上位の魔物には武器を使う物も多い。また魔物の武器は爪や牙である事が多い、攻撃されたら避けるのは基本だが、たまに避け切れない事がある。そう言う時どうする?」


「剣で受け止めますね。」


「そうだ、例えば私がこう剣を振り下ろしたらどう受ける?」


 そう言ってエリシアが自分の両手剣をゆっくりと振り下ろす。片手剣で受けるリュート。


「剣と剣がまともにぶつかったらどうなる?最低でも刃こぼれ、最悪どちらかの剣が折れる。この場合。細いリュートの剣が折れるだろう。ここで捌きが使えれば、戦闘が楽になる。剣をまともに受けないで、横に逸らすように受け流すのだ。ほんの少し剣を捻るだけなのだが加減が難しい。まずこれを練習しよう。」


 エリシアに見本を見せて貰い何度も練習するが、そう簡単に覚えられる物では無いらしい。


「私がまともに捌きが出来る様になったのは剣術を始めて3年経った時だな。」


「エリシアは何歳から剣術を始めたの?」


「6歳の時だ。」


 と言う事は9歳のエリシアは捌きが出来ていたのか。9歳児に負けてる僕って。


「まだ時間はある。焦る必要は無いさ。」


 午前中は捌きの練習で終わった。休憩を挟んで、今度は突きについて教わる事になる。


「突きは剣の攻撃力が最大限に発揮されるので是非覚えて欲しい。リュートがレッドグリズリーを倒した時の事を思い出せばわかると思う。基本人間には4つの急所がある。これは魔物も似た様な物だ。」


 そう言えばレッドグリズリーは剣だけで倒したな。攻撃が効かなくて苦労した記憶がある。


「目、口内、喉、心臓、これが人間の急所だ。例えば目はドラゴンでも攻撃を嫌がる位重要な器官だ。大抵の生物は目を潰されると動きが鈍る。また、眼球は鍛える事が出来ないので目が弱点の生物は多い。更に目の奥には脳があるので上手くすれば一撃で相手を倒せる。」


「なるほど、僕がレッドグリズリーを倒したのもそれでした。」


「次に口内だが、生物である限り食事をするので口を持つ生物は多いのは理解できるな?特に4足歩行の魔物は牙が武器の場合が多い。牙が武器だと口を開ける機会も増える。4足歩行だと口の直線状に心臓がある。例えば表皮の固いメタルリザードも流石に口内は柔らかい、そこから剣を突き入れれば心臓を貫く事も可能だ。」


 確かに口の中って粘膜だし。柔らかいからね。


「喉や心臓が急所と言うのは言われなくても分かるだろう?」


「ですね。普通の生物なら呼吸か心臓が止まれば死にますからね。」


「これを踏まえて突きの練習をする様に。特に突きは加減を間違えると剣を折りかねない。一撃必殺、後は無いと思って使う様に。」


「解りました。」


 2時間程体を動かして、エリシアに色々とレクチャーして貰う。


「あまり根を詰めても良くない。少し休憩を挟むぞ。」


 エリシアが飲み物を要求してくるので冷たく冷やした水を差しだす。


「そう言えば、今日は買い物には出ないのか?」


「何か買い忘れでもありましたか?」


「そうでは無いが、ずっと家に居たから夕食は外食が良いかなと、それに大衆浴場にも興味があるのだろう?」


「ああ、大衆浴場は行ってみたいですね。じゃあもう少ししたらお風呂に行って帰りに食事をして来ましょうか?」


「それが良いな。」


 風呂に行くならシャンプーと石鹸を持って行こう。混浴って事は無いよな?


「ところで、こうして1週間以上2人切りで居るが、何故襲って来ない?私はやはり魅力が無い女なのだろうか?」


「いや、そんな事はありませんよ、エリシアは美人だし十分魅力的だよ。」


「では、何故襲って来ない?」


「んー。逆に聞きますが、エリシアさんは襲われたいんですか?」


「期待半分恐怖半分って所だな。」


「恐怖ですか?」


「誤解しないでくれ、君が怖い訳では無い。自分が我慢できなくなって君に抱いてくれと迫ってしまうのが怖いのだ。だから君が先に襲ってくれるのを期待しているのだ。」


「そう言う事をするってのは確定みたいな言い方ですね。」


「男と女と言うのはそう言う物だと聞いている。」


「僕は基本的に結婚を考えられる相手で無いとそう言う事はしませんよ。僕は冒険者の常識とか知りませんし。欲望だけでそう言う事をするのは相手に失礼だと思って居ます。」


「結婚かぁ、悪くは無いがリュートにはメリットが無いのではないか?」


「何故です?相手を独占できるんですよ、メリットは大きいと思いますが?」


「私は結婚しなくとも君に独占されてやっても良いぞ。」


「そんな事をしたら僕が罪悪感で潰れてしまいますよ。それに想像してみて下さい。僕が他の女の事仲良くしていても平気なんですか?」


 この世界の貞操観念は地球とは違った方向に進んでいるのだろうか?男女の恋愛感情にそう違いがあるのかな?そう思って居ると、突然エリシアの目から大粒の涙が流れだした。


「あれ?」


「エリシア何で泣いてるの?」


「え?なんでだろう?君が他の子と仲良くしている所を想像したら勝手に涙が出て来た。」


「涙だけ?心は?」


「不思議な気持ちだ。初めての感情で表現出来ない。」


「それは嫉妬だよ。独占欲とも呼ぶ。」


「私がリュートを独占したがっていると?」


「それが普通なんだよ。流れでこう言う事をすると後で後悔するよ。エリシアは結婚とか憧れは無いの?」


「子供を産んでみたいと言う気持ちはあるが、結婚したいと思った事は無いな。」


「じゃあ、これを機会に少し考えてみたら?」


「私は君より年上だぞ。君は構わないのか?」


「好きっていう感情に年齢は関係ないよ。」


「そ、そうなのか?結婚か、君がどうしてもと言うなら結婚しても良いぞ。」


「いやいや、ちゃんと考えなよ。とりあえずお風呂へ行こう!」


 そう言って話題を切り替えた。2人で準備して大衆浴場へ向かう。大衆浴場は混浴では無かったが想像していたのとは違った。なんと言うか、まず番台が無い。そして脱衣所が狭い。ロッカーも無い。シャワーも無いし。露天風呂を壁と屋根で囲っただけと言った感じだ。お湯は温泉らしく下から湧いていた。湯舟はかなり大きめなので久しぶりのお風呂を堪能した。シャンプーで頭を洗い石鹸で体を洗うとやはりクリーンより気持ちが良い。だが、出る時にタオルを使わないので結局クリーンを掛けて出て来る事になる。でも、また来たいな。


 外で数分待っているとエリシアが出て来た。シャンプーと石鹸を使ったらしく、良い香りがする。


「リュートに貰った下着が注目の的で恥ずかしかったぞ。」


「それは済みません。」


「さあ、風呂上りには冷えたエールだな。この先に美味い料理屋があるらしいぞ、風呂で聞いた。」


 そう言う所は抜け目が無いな。流石と言うか冒険者らしいと言うか。


 評判の食堂でエールをたっぷり飲みご機嫌のエリシアを連れて家路につく。こういう生活も悪くは無いなと思うリュートであった。



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