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第百三話

 夕飯まであと2時間程あると言われた。その間に考え事と、明日の方針を決めよう。


 ユーリが王都から居なくなって2日経つ、まだ誰も気が付いていないのか、通信機が鳴らない。ポケットからスマホを取り出すと表面が鏡になっているので自分の顔が映る。あ!今の自分がリュートだと言う事を忘れていた。これではユーリに通信を送っても届かないはずだ。


 こちらから掛けると言う手もあるが、今のこの姿で掛けても誰に何を説明すれば良いか判らない。


 実はこの時リュートは大きな勘違いをしている。現在の魔力量は3000に減らされた。しかし、それ以外のステータスはユーリの時のままだ。だとすれば知力は200万オーバーあるはずだ。知力で魔力量を補えば、魔力量5万程度の魔法なら使えるのだ。具体的に言えば、転移が可能なのである。


 だが、リュートは創造魔法を封印し、高位の魔法は使えないと思い込んでいる。


 この時点で王都へ戻っていれば、これから起こる混乱とそれに伴う壊滅的な打撃を緩やかな物に出来ただろう。


 しかし、今のリュートは転生した別の大陸で生き抜く事しか頭にない。思い込みと勘違い、この2つが柔軟な発想を妨げていると言う事に気が付かないのだ。


 リュートのステータスはユーリのそれを引き継いでいる。一般的な冒険者のステータスは一人前と言われるDランクで体力が50~80。魔法使いなら魔力量が100以上あれば戦えると言われるレベルだ。リュートのステータスはSランクを遥かに凌駕しているのだが本人は弱いと思って居る。


 ユーリの時の戦闘スタイルは魔力量による力押しだった。技能や駆け引きなど関係なく圧倒的な魔力量で敵をねじ伏せる。エンシェントドラゴンを瞬殺した程である。


 魔力量を3000に減らされた事によりリュートには戦い方が解らないと言う状況に陥っている。


 エンシェントドラゴンは天災級の魔物である。一方レッドドラゴンは災害級と称される。Sランクのパーティーなら6人でやっと倒せるのがこの災害級だ。Sランクパーティーと言っても構成メンバー全員がSランクと言う事は少ない。大抵はSランク1人に残りのメンバーはAランクと言う場合が多い。中にはBランクが混じっているケースもある。


 これに対して、現在のリュートのステータスであれば1人でレッドドラゴンを倒す事も可能である。あくまでも数値上だけであればだが。


 リュートには圧倒的に経験が足りない。戦闘の経験も足りないが、冒険者としての戦略の経験も足りないのだ。


 どこかのパーティーに入れて貰おうにも自分の力量が判らないのである。


 誰かに見て貰おうか?例えばギルドマスターとか。


 しかし、リュートの戦闘スタイルは剣と魔法の両方を使う変則的なスタイルである。これを人に見せて良い物か?やはりソロ確定?


 そんな事を考えていると夕食の時間になる。下へ降りると。活気に溢れた雰囲気に気後れする。


 席に着くと自動的に食事が出て来る。今日はパンと肉野菜炒め。それと豆のスープだ。これにエールが1杯付く。だいぶここの食事にも慣れたがやはり温いエールは飲みづらい。リュートはこっそり氷魔法でエールを冷やした。


 食事を済ませ部屋に戻ると、リュートは所持金を確認する。銀貨5枚と銅貨が数枚だ。これは早い内に依頼をこなさないと、お金が尽きる。明日にでも何か依頼を受けて、依頼の難しさと収入について調べよう。


 その後アイテムボックス内を調べて換金できそうな物や武器になりそうな物を分けて眠りに就く。





 翌朝、6時に起きたリュートはギルドの練習場でひと汗かいてから。食事をする。今日のメニューはハムエッグとスープとパン。スープは汁気の多い煮込みの様な物だった。何かの内臓らしいが聞くのは止めた。美味かったので良しとする。


 食後着替えてから、ギルドへ向かう。顔見知りのお姉さんが居たのでその列に並ぶ。この時間はまだ、あまり混んでいない。混むのは8時から9時の間らしい。


「一番簡単な討伐依頼ってなんですか?」


 質問すると受付嬢は嫌な顔をせずに丁寧に教えてくれる。


「ホーンラビットが一番優しいですね。でもこの時期は探すのが難しいかもしれません。常時依頼が出ている物であればゴブリンが比較的弱いです。1匹ならFランク5匹までならEランク。それ以上ならDランクになります。」


「常時依頼と言う事は、失敗しても違約金が要らないと言う事ですか?」


「そうですね。ちなみにゴブリンの討伐証明部位は右耳です。魔石も換金できますので余裕があったら取って来て下さいね。」


 なるほど、ゴブリンなら一度戦った事があるし、強さも分かっているから、自分の強さがどの位か測るのに丁度良いかもしれない。


「ゴブリンって結構出るんですか?」


「北西に向かうと沢山出ますよ。繁殖力が強くなかなか数が減らないんです。ただ、あまり森の奥へ行くと集団で出ますので気を付けて下さい。」


「解りました。ありがとうございます。」


 ギルドを出たリュートは西門へ向かった。西門を抜けると小麦畑が広がっている。少し歩くと北へ向かう道があるので、そこを曲がる。5分位歩くと森が見えて来る。


 どうやらここが北西の森らしい。奥に入ると強い魔物が出るらしいので、今日は浅い所でゴブリンを探す。サーチをかけると小動物の反応が出るが魔物の反応は無い。


 流石に森の入り口付近には居ないか?もう少し奥へ踏み込む。サーチを掛けながら500メートル位奥へ向かうと魔物らしき反応があった。どうやら魔物は1匹らしい。魔物に気取られない様に進むと木々の間にゴブリンらしき姿が確認できた。どうする?セオリー通りならまだ気づかれてないので魔法で攻撃だ。だが、今回は剣の腕試しに来ている。


 1瞬悩んだが安全策を取る。エアバレットを発動し腹部を狙う。次の瞬間腹部に大きな穴をあけたゴブリンが倒れた。


 ん?あれでオーバーキル?とりあえず右耳を剥ぎ取りナイフで切り取り、麻袋に入れてからアイテムボックスに仕舞う。


 まあ、1匹ならFランクって言ってたからな。次は剣を試そう。そう思いつつ奥へ進む。


 300メートル程進んだ時、また魔物の反応がある。大きさから言ってゴブリンだろう。1匹の様だ。今度は剣を抜きゆっくりと近づく。


 あと50メートルと言った所で向こうがこちらに気付いた。逃げようとするゴブリンを追いかける形になる。森の中は走りにくいが、リュートは敏捷性も高い。すぐにゴブリンに追いつく。ゴブリンはなおも逃げようとする。仕方が無いので背中を袈裟懸けに切る。あっさりと2匹目も倒してしまった。


 なんだろう?ゴブリンが弱いのか?それともこの体の性能が良いのだろうか?


 もう少し進んでみよう。確かゴブリンは5匹で銀貨2枚だったはず。5匹は最低狩らないとお金にならない。


 それにしても簡単に見つかる当たり、ゴブリンが多いと言うのは本当らしい。また、数百メートル進むと反応がある。今度は3匹だ。確か5匹まではEランクだったな。


 3対1では見つからずに倒すのは無理だろう。最短ルートでゴブリンに向かう。音も気にしない。すぐに気が付いたゴブリンが戦闘態勢に入る。3対1を有利と見たのだろう。リュートは慌てずエアバレットを3発撃ってすぐに駆け出す。外れた時の事を考えての行動だ。どうやら2匹は即死、1匹は足を太ももから千切られのたうち回っている。生き残った1匹に剣を突き刺し止めを刺す。


 どうやらEランクの実力はある様だ。

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