第百二話
朝6時に目が覚めた。これはユーリだった頃の習慣だ。何時もだったらこの時間から忙しくしているのだが、今日はベッドの上で考え事をする。
朝食は7時からだと言われている。リュートはまず、王国へ帰る方法を考えるが、そもそも外国と国交があるのかさえ判らない。転移を使うには魔力量が足りない。スマホで連絡を取る事も出来るが、姿形が変わった今、自分がユーリだと言っても信じてくれる者が居るだろうか?
まずはお金を稼ぐ必要がある。何処へ行くのにもお金は必要だろう。創造魔法は封印したので、冒険者として多少自由になるお金が欲しい。となると、武器が必要だ。魔物と戦闘になった場合。ある程度の距離があれば魔法で何とかなるが、近接戦闘になった場合武器は必須だ。
それにこのリュートの体。特に手が戦士の物っぽいんだよね。貴族のユーリと違ってごつごつとした手には剣の物と思われるタコがある。右手だけって言う事は片手剣を使うのかな?
それから、この国の文化にも興味がある。この町に図書館があれば良いのだが、確か冒険者ギルドにはある程度の本が所蔵されているはずだ。商業ギルドにも少しはあるだろう。
この世界には亜人と呼ばれる人種が生活している。エルフやドワーフ、獣人等がそうだ。しかし、500年位前の戦争で人間に愛想を尽かした亜人達は、別の大陸へと移り住み以来、人族と交流を持たないそうだ。また、魔族と言うのも存在するが、こちらは1000年以上存在を確認されていないそうだ。一説には滅びたと言う説もある。
とりあえず、この大陸に暫く居ると言うのであればお金と知識が必要だ。そして戻れるならベスグラント王国に戻りたい。
そんな事を考えていると1階が騒がしくなってくる。どうやら朝食の時間になったらしい。リュートも1階へと降りて行く。
朝食はパンと具沢山のスープだ。昨日の野菜スープと違いこれには大きめの肉の塊が多めに入っている。何の肉だろう?スプーンで突くとほろりと崩れた。肉の出汁が効いているのか不味くは無い。パンは相変わらずぼそぼそだがスープを吸わせるとそれなりの味になる。
この世界では基本朝夕の2食なので、皆ガッツリと食べる。特に冒険者は体が資本なので食べる量も多い。この宿の朝食もかなりのボリュームだ。
リュートは残さずしっかりと食べてから、果実水を注文した。その際に武器屋の場所も聞いて置く。
宿屋を出たリュートは散策がてら色々な店を見て回り、武器屋へと向かう。商店街を通ったがハーブや香辛料などは売っていなかった。薬屋で幾つかの乾燥した香辛料を見つけたが値段が異常に高かった。やはり食文化は何処も似たり寄ったりの様だ。
武器屋に着くと元冒険者と言う店主が迎えてくれた。事情を話し片手剣が欲しい事を伝える。この世界では片手剣をショートソード。両手剣をロングソードと呼ぶと店主が教えてくれた。
「と言う事はショートソードより短いロングソードもあると?」
「ははは、ショートやロングは剣身じゃなくて持ち手の事なんだよ。」
「なるほど。で、ショートソードは幾ら位からありますか?」
「安いのが良いなら、外に出してあるのが銀貨7枚だな。」
外を見ると竹籠に剣が12,3本刺さっている。
「これですか?」
「そうだ、その中の物は一律銀貨7枚だ。店の中の物は最低でも金貨1枚以上はするから、目利きがあればお得だぞ。」
「目利きですか?」
リュートは鑑定を発動させる。どれも、大した違いは無さそうだ。と思ったら1本だけ、他と明らかに違う剣が混じっていた。
リュートは1本の剣を抜いてじっくりと見る。この剣だけハートシルバーと言う銘が付いている。他の剣はショートソードとしか表示されない。
「ほう?お前さん、本当に目利きの様だな。そいつは当たりだ。」
武器屋の店主が悪戯っ子の様な顔で言った。
「本当に銀貨7枚で良いんですか?」
「問題無い。それが使える剣士なら、すぐに違う剣が欲しくなる。その時は高い奴を買ってくれよ。」
「解りました。」
リュートは銀貨7枚を支払い、腰に帯刀しようとして、鞘が無いのに気づく。
「あの?鞘って何処に売ってます?」
「こいつは中古だが割と状態が良い。おまけでくれてやる。」
そう言って武器屋の店主が仕入れたばかりらしい整理していない大きめの籠から鞘を一つ取り出し投げてよこした。
「ありがとうございます。」
「死ぬなよ。そしてまた買いに来い。」
再度礼を言い店を後にした。次は剣の練習だな。確か、冒険者物の小説を書いた時に剣術指南書を参考にする為、賢者の叡智に取り込んだはずだ。と、その前に練習場所を探さないとな。あ、本と言えば図書館の場所も知りたいし、まずは町の事を知る事から始めるか。
と言う事で、冒険者ギルドにやって来た。ここなら町の情報が解るはずだ。時間的にお昼前と言う事でギルドは空いていた。この時間から依頼を受ける人は少なく、依頼が終わった人も少ない。依頼が無くて酒を飲んでる人はたまにいる様だ。
受付の女性に声を掛け、町の事や出る魔物の事が知りたいと言うと、丁寧に教えてくれた。
この町は王国最東端の町で、東と南には畑しかないそうだ。それ以上は開拓されておらず。開拓したとしても海があるだけだそうだ。海までは50キロ位あり。開拓したとしても管理できないと言う理由で開拓が進んでいないらしい。
北に行くと漁業の盛んな町ドライムがあるらしい。塩が取れるので人の行き来が多く護衛の依頼も多いそうだ。ちなみに徒歩で2日掛かるらしい。
西へ行くと領都サームがあるそうだ。このフラムを含めた3つの町をアルマン辺境伯が治めているらしい。領都サームまでは2日半かかり、更に西に20日歩くと王都に辿り着くそうだ。王都はクランベルと言い。今の国王はマーベリア・クランベルと言うそうだ。
「それで、この近辺に魔物が出るのですか?」
「そうね。近辺にはあまり強い魔物は出ないけど、定期的に魔物を駆除しないと町に入って来るので冒険者の仕事は重要よ。それから街道を外れて森に入ると強い魔物が出る事があるわ。特に北西の森には強い魔物が多いので要注意ね。」
「剣の稽古をしたいのですが、何処か安全な場所ってありますか?あと図書館があったら教えて下さい。」
「そう言う事ならギルドの裏手に稽古場があるわよ。無料だし、誰も使わないから何時も空いてるわよ。それから、図書館は領都サームまで行かないと無いわね。ギルドに多少の本は置いてあるけど、何が知りたいの?」
「ギルドの裏手ですか、是非使わせて下さい。本は、地理と歴史、あと魔法書が読みたいです。」
「簡単な物ならどれもあるわよ。貸出しは無料だから持って行く?でもあなた剣士よね?なんで魔法書?」
ギルドのお姉さんが腰の剣を見ながらそう言った。
「剣士だから魔法を知りたいんですよ。知っていれば対処出来るでしょ?」
「それは後ろから襲われるって事?」
「いや、魔法を使う盗賊も居るでしょ?」
「ああ、確かに。でもそう言う事を考えるのは珍しいわよ。」
「そうなんですか?」
「まあ、いいわ、本なんて誰も借りないから貸してあげる。稽古場も自由に使って構わないわよ。」
「ありがとうございます!」
本を3冊受け取り。稽古場の場所を確認して、一度宿へ帰る。本をアイテムボックスに仕舞い。賢者の叡智を使い剣術指南書を呼び出しイメージトレーニングをする。なるべく早く剣術を覚えないと命に関わるので真剣だ。一通り型を覚えたら隣のギルドの稽古場へ行き動きを確かめる。
リュートの体が覚えているのか、剣は意外と素直にイメージ通りに動く。基本性能が良いのか剣が良いのか?そう言えば冒険者Dランクで体力50位だと以前に聞いた気がする。今のリュートの体力はユーリの体力をそのまま引き継いでいるので3桁の後半だ。そう言えば初めて持つのに剣が軽い。対人戦では手加減が必要かも。
2時間程体を動かしてから宿屋に戻る。果実水を頼んで飲み干し。また部屋のベッドで考え事だ。




