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38.愛の言葉を囁いてみよう

約5100字です。前回に引き続き、会話がメインの回です。

面倒なら、ジャ~ンプ!でもOKです。


5月16日(土)つづき


38-1.豊穣の女神?


 俺は、鑑定眼のスキルを獲得したスーリンに、自分のステータスを書き写してもらった。今は、それを項目ごとに検証をしているところだ。

スキル欄が終わって、次の項目に目を移す。


「さて、続き続き。うん!?」 ゴシゴシ 「うん!? はれ?」


|

| 加護    女神[エルエル]のお助け(アシスト)

|       [慈愛の女神の加護(保留)]

|


「女神エルエル? って、なんじゃこりゃ」


 あいつは、天使だろうが、いつ女神にレベルアップしたんだよ。

因みに『[]』で囲った文字は、鑑定系のスキルがないと、見えない項目らしい。


「女神エルエルさまですか。新しい女神さまの御名ですね」


「って、新しく女神になることなんてあるのか?」


「極稀なんですが、新しく神さまが出現される事もあるみたいですよ」


「第一、天使って女神になれるのか? 次元が違う気がするが」


「あの~、その天使って何ですか?」


「へ?! そうだな~、神さまの僕《しもべ》というか遣い走りのことだな」


「ああ、創造神がお創りなられた僕ですね。

 リュウさんの住んでいた所では、天使って呼んでるんですか?

 このカークや王都の広い範囲では、御役を表す○○の女神とか、

 御名を表す女神○○○○とかって呼んでますよ」


 そう言えば、天使と言うのは、一神教が他の宗教の神を取り込む際に創られた後世の創作という話があったな。八百万の神がいる日本では、天使と言う発想も無かったし。俺もどうやら西洋の一神教に被れていたようだ。


「女神エルエルさまは、何の御役の女神さまなんでしょうね?」


 スーリンがありがちな疑問を投げかけてきたが。


「多分、巨にゅ……いやいや、大食……でもなく、豊穣の女神あたりかな?」


「豊穣の女神エルエルさま………。それだと、農業ギルドから引っ張り凧ですね」


 俺は、麦わら帽子を被って、オーバーオールを着たエルエルが、仔ヤギを抱いてこちらに向って微笑んでいる所を想像してしまった。うん。悪くないかも?


 そして、仔ヤギを放したエルエルは、こちらに向って走ってくる。

なぜか、上半身には何も着ていない。これは、伝説の裸にオーバーオールか?

揺れる~揺れている~。


「リュウさん! しっかり、大丈夫ですか?」


 スーリンがぼっとしていた俺の身体を揺すっていた。俺は、現実に引き戻される。


「はっ!? 白昼夢を見ていたらしい」


「それにしては、何だかヤラシイ顔をしてたんですけど?

 どんな夢だったんですか?」


「え~と、スーリンと田園を散歩してたら、その~~」


「やっ、止めてください。恥ずかしいじゃないですか~、もう。」


 一体何を想像してもだえてるんだろうか? 結果オーライだけど。


「あ~、ところで、お助け(アシスト)って言うのは、聞いたことあるか?」


 スノーさんは、極弱い加護だろうと言っていたが、スーリンの見解はどうなのか?

しばらくクネクネしていたスーリンに、声を掛けると顔を赤らめながら話し出す。


「神さまの御役に関係した助けが得られているはずですから、豊穣の女神さま

 だとすれば、作物の実りが少し増えるとか、家畜が心持ちよく育つとか、ですね」


 それって、俺の一体何の役に立ってるのだろうか? そもそも、豊穣というより、豊胸のような気もするし、一体何の女神なんだエルエルは?


 俺は、分からない事を一先ず置いておくことにして、次を見る。


「この加護の欄にある……隠し加護?ってなんだ?」


「神さま自身が加護を出そうか出すまいかと迷ってるって感じでしょうか?

 何かの切っ掛けがあれば、本当の加護になるんじゃないですか」


 この辺りは、スーリンにもよく分かってないのかもしれないな。

後は、称号か~。


|

| 称号    救命者

|       [勇者(仮称)]

|       伝説を具現せし者

|

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 救命者はいいとして、勇者(仮称)って何かな?


「じゃあ、この『勇者(仮称)』って言うのは?

 俺がおふざけでセレスに名乗ったから載ったのか?」


「基本的には自称だと、ステータスには載らないはずなんですよ。

 隠し称号なので、正式にはまだ載ってませんけど」


「じゃあ、もっと勇者っぽいことをすれば、正式に載るのか?」


「どうなんでしょうね? 隠し加護も称号もPスキルと同じで非公式にですが、

 存在することにはなってるんです。でも、やっぱり確認できる人が少ないので、

 情報の信憑性が疑問視されることも多いんですよ」


 スーリンは、続けて、申し訳なさそうに話す。


「私は、Pスキルほど、隠し加護や称号の事は、よく知らないんで、今までに

 リュウさんに話した事の中にも事実と違うことがあるかもしれませんよ」


「まあ、その時は、その時だ。特に困ることもないさ」


 さて、最後の最後、お待ちかねの「伝説を具現せし者」って、やっぱりアレか?

アレだろうな~。伝説は伝説でも、ちょっと特殊な伝説だからな~。


「もしかして、スーリンのステータスに『伝説を具現されし者』って

 称号が有ったりするのか?」


 ちらりとスーリンを見てそう言うと、スーリンも俺の顔を見て赤くなり、無言で俯いてしまった。やっぱりあるのだろう。


「リュウさんって、超エッチですね!! キライ!」


 スーリンは、そう言うと部屋を出て行ってしまった。あの様子だと当分帰ってこないだろう。そうだ、ちょうどいいやあれを試してみよう。




38-2.愛の言葉を囁いてみよう


 俺は、ボロダーさんからもらったアイテムバッグを取り出した。

さてと、一応辺りを確認したが、誰も居ないな。

このバッグのパスワードを再設定するには、静かな環境が必要なのだ。


 まずは、アイテムバッグの何処かにある紋章を刻んだ石を見つける必要がある。

このバッグは、ウエストポーチ型の腰に巻くタイプのバッグで、外見も似ているが、ファスナーではなく、口はヒモをベルトのように掛けるようになっていた。


 見たところ外部に石のような物はない。蓋を開けて中を探してみる。どこかなどこかな~? 蓋の方の折り返した部分に目立たないように取り付けてあった。


 この部分に指を当てて、合言葉を言えば、指を当てている俺の声紋として、登録される。さて、ボロダーさんから教わった普段使わない言葉か。


 一応、中に入れた硬貨をすべて取り出すと、俺は、深呼吸した。

確か、あんまり小さな声で言っても認識されないとも言っていたな。よし!


「ルネタン、好きじゃ~~~」


 俺は、極普通に唱えようとしたが、瞬間、一頃有名だった何処ぞの未亡人の管理人さんへの告白シーンを想い出して、思わず雰囲気を出してしまっていた。

まあ、一階に居れば聞こえないぐらいの声だし、大丈夫だろう。


『ガタ』


 後ろから大きな音がした。振り返るとルネさんとスーリンが二人で並んで立っていた。ルネさんは、温かい目で、スーリンは、感情を失った目で俺を見ている。


「ちっ、違うんです。合言葉なんです。」


「キャ、愛言葉だなんてもう、リュウイチさんたら」


 ルネさんは、完全に舞い上がっているし。


「リュウさんが、私に優しくしてくれていたのは、お母さんに近付くための

 アーツだったんですね」


 こっちは、こっちでありもしないアーツを創てるし。


「だから、聞いてください! ボロダーさんの設定した合言葉なんですよ」


「主人の事は気にしなくて大丈夫ですよ。こんなことでは、怒りませんから」


 いや~こんな言葉を合言葉にするぐらいですから、そんなことはないでしょ。


「お父さんの事まで出汁にしていたのね。何て高度なアーツなのかしら」


 そろそろ、アーツから離れませんか?


 この騒ぎは、ボロダーさんが騒動を聞きつけて、真相を語るまで続くのであった。


 ・・・・・・・・・・・・


「ボロダーさん、こういう合言葉ならぬ、愛言葉を、設定するのは

 止めた方がいいと思いますよ」


「リュウイチ、面目ない。普段、思っても、なかなか言えんからの。

 偶には口にするのも、いいかと思ったんじゃよ」


 それでも、ルネタンは、ねぇだろう! ルネタンは。

一体幾つだと……(さっ、寒気が……)……まあ、ルネタンもありかな?


「リュウイチさん、主人を怒らないでやってください。

 主人は、とてもシャイな人でプロポーズの時も…………」


「ルネタン、その話は止めるんじゃ」


 おっ! 生ルネタンだ。ボロダーさんは、ルネさんの口を塞ごうとする。


「キャ、もうあなたったら、新婚の頃を思い出すわ~~」


 ご馳走様でした。一方、スーリンの方は、


「おかしいと思ったんですよね~。お母さん見たいな、

 おば……『スーリン、今何か言った?』……何も。

 それより、リュウさん、そのアイテムバッグの合言葉変えるんですよね?」


「ああ、毎回小声とは言え、アレを言うのは、ちょっとな」


「じゃあ、新しい合言葉は、『スーリン、好きじゃ~~』にしましょうよ」


「『ル…タ…、す…じゃ~』………………『生麦・生米・生卵』…………」


 俺は、曖昧に微笑みつつ新しい合言葉は、日本語で『生麦・生米・生卵』にした。


「え!? え~~!? 終わったんですか?」


「ああ。そろそろ、お暇《いとま》するよ。それじゃ、また。明日……」


 こういう時の有名な格言『負ける前に逃げろ』通り、さっさと逃げることにした。




38-3.ボロダーさんの心遣い


 スーリンと長い時間戯れていたようで、時刻は、すでに午後6時に近かった。

今回は、一度ギルドに顔を出し、達成書類とボロダー商店からの新しい依頼書を

今日中に届けておく必要があった。


 ギルド3階の受付に行くと、意外と盛況のようだ。迷宮探査を終えた冒険者たちが、換金のために素材買取窓口に並び非常に込み合っている。

俺は、いつもの依頼達成窓口に並ぶと周りの話を聞くともなしに聞くことになった。


「次の階のマップどうする? ギルドで新たに揃えるか?」

「20階までは、張り出してあるぞ」


「上階のゴブリンやコボルトは、もう楽勝だな」

「油断は禁物だ。ゴブリンやコボルトの牙で噛まれると偶に毒になるからな」


「迷宮じゃ、倒した魔物はすぐに灰になるな」

「ああ、すぐに灰にならない魔物は、まだ生きているってことだ」


「10階にある休憩所の次は何階だ?」

「休憩所は、10階ごとにあるぞ」

「今度キャンプでもしてみるか?」


「10階でキャンプをしてるやつは流石にいないが、20階以降は結構居るな」

「でも、荷物が多くなるから、アイテムバッグが必要になるよな?」

「1パーティの最大数の6人で1週間分だとすると、5~10tぐらいが必要だ」


「次の方どうぞ」


 俺は、周りの話に集中してて、自分の番になっていることに気が付かなかった。


「失礼。こっちが、依頼達成書で、これが、依頼者からの依頼の延長届と追加届だ」


 受付の男性職員にそう伝える。


「では、まずこちらが依頼達成の報酬となります」


 そう言うと、一昨日の5件分と今日の10件分の報酬、銅貨7枚と大鉄貨1枚を渡してきた。数日分を合わせてこれで合計、銅貨46枚と大鉄貨2枚になり、ギルドポイント4を加え、合計40ポイントとなった。

 

「次に、依頼延長届ですね。変更前の依頼内容は、『指定日が毎日、期間が本日

 16日まで。更新なし』の予定だった所を、延長して、『18日』までとします。

 そして、キサラギさまが、引き続き受注するということですね」


 俺は、頷き肯定する。


「後は、追加届として、19日以降は、『指定日が日曜、月曜、期間が1日』の

 単発依頼ですね? こちらは、キサラギさまの方で、受注されるのですか?」


「なるべく、受注する予定だが、必ずとはいかない。だから、単発依頼にして

 もらった。受注できない場合は、前日までに依頼主に知らせることになっている」


「では、あなたか依頼主の方《かた》から、ギルドに申告して頂ければ、

 掲示依頼としますが、それでよろしいですか?」


「……ああ、それでいい」


「変更を受け付けました。

 ところで、曜日変更の理由等はご存知ですか?」


「依頼主の脚の怪我が治った為で、

 変更後は、日曜の休日と荷物が特に多い月曜の負担軽減と伺っている。」


「なるほど、引き続き担当の要請が来ている所を見ると、昨日のあなたの不手際は、

 大きな問題にはなっていないようですね。わかりました。受注を許可します」


 男性窓口社員は、普段では考えられないようなきびきびした様子で言って来た。

ボロダーさんが、依頼を延長した理由の半分は、俺のためだったのか。


 ミス直後の契約終了では、かなり重大なミスだと判断されても仕方がなかった。

そうなれば、表面上は何もなくても、ランクBに上がる際の障害に成り兼ねなかった。ありがとう、ボロダーさん。俺は、心の中で礼を言いつつ窓口を離れた。


 貰った報酬とバッグから出したままになっていた硬貨をウエストバッグに放り込むとブリジット家への道を急いだ。


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 まとめ


 へぇ!? 女神エルエルって……。

 そうなんだ、ここら辺では、天使も神さまなんだで、エルエルって何の女神?

 豊胸? 大食? 無難なところで、豊穣の女神かな?


 この「伝説を具現せし者」ってやっぱりあれのことか?

 スーリンには、「伝説を具現されし者」っていう称号あるの?

 俯いてる。やっぱりあるんだ。 あれ!? あっち行っちゃったよ。

 アレは、伝説は伝説でもちょっと意味の違う伝説だからな。


 今のうちに、アイテムバッグの再設定を済ませてしまおう。ボロダーさんが、

 設定してある合言葉って人がいる所では、ちょっと言い辛いんだよな。


 それでは、「ルネタン、好きじゃ~~」って聞いてたのね。スーリン違うんだ。

 ルネさん勘違いです。愛言葉じゃなく、合言葉なんです。

 スーリン、そんなアーツないから、妄想はやめような。


 ………………………………


 ふう、ホロダーさんの説明で事なきを得た。

 何? 合言葉を「スーリン、好きじゃ~~」にしろ?

「生麦・生米・生卵」っと、じゃあ、また明日~~。


 ギルドで報告すると、昨日の欠勤を突っ込まれた。

 ボロダーさんの延長依頼のお陰で助かった。ありがとうボロダーさん。


 俺は、ギルドを出て、ブリジット家に向った。


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