39.パーティを楽しもう
約6000字です。なかなか、5月16日が終わりません。><
面倒な方は、ジャ~ンプ!でお願いします。
5月16日(土)つづき
39-1.サプライズ
俺が、ブリジット家に帰り着いたのは、すでに辺りが暗くなり始めた頃だった。
扉を叩くとすっとドアが開くが、玄関には誰もいない。
訝りながらも居間のドアを開けると急に大きな声がした。
「「「おめでと~う」」」
そこには、ブリジットさんとスノーさんだけではなく、見習いシスターのアニーまでいた。俺は、思わず声を上げる。
「え!? どうしたんですか?」
これって、元の世界で言う『サプライズ・パーティ』ってやつかな?
「リュウくん、神聖魔法の再現成功おめでとう! まあ、できると思ってたけどね」
スノーさんが、にこやかに言ってくれた。
続いて、クールに言ってくれたのは、ブリジットさんだ。
「リュウイチ、やったな」
「リュウイチ、おめでとう! 孤児院を代表して、私が伝えに来たわ」
アニーが、抱き付きそうな勢いで俺の所へ走ってきた。
途中、大分揺れていたが、如何せん距離が短す……ゲホゲホ………。
アニーの様子を見ると、既に昨日の事など、すっかり忘れたかのようだ。
「いいえ、魔法が再現できたのは、子供たちも含めて皆さんのお陰です。
皆さんが、俺に言ってくれた言葉の1つ1つが、訓練中に蘇って来て、
それが元で魔法の再現に成功したんです。ありがとうございました」
俺は、死に懸けたことは流石に話さなかったが、あの時に感じた感謝の気持ちが、今ここで、そんな言葉になった。
「リュウくんは、謙虚ね~。こういう時は、威張っちゃっていいのよ」
「リュウイチの謙虚さは、見習わなければな」
二人が俺を褒める中、アニーは、俺の言葉で、昨日のことを思い出したのか、少し顔が赤くなっていた。
39-2.パーティを楽しもう
「それじゃ、ちょっと手を洗ってきます」
俺は、中庭の井戸で、いつものように軽く体を拭き、水筒の水を入れ直す。
アニーが、気を使ったのか、少しだけ時間をずらしてやって来た。
ドアの傍から、声を掛けてくる。
「あっ、あの。え~と昨日は、その勝手に帰って、ごめんなさい」
「いや、その。こっちこそ、何だ。抱きしめちゃって、ごめん。嫌だったろ?」
「えっ? 別に、いっ嫌じゃない………けど」
アニーは、いつもと違って、幾分しおらしい様子で、節目がちに答える。
こんなアニーもいいが、少しだけ意地悪したくなった。
「じゃあ、うれしかった?」
「ちょっ、ちょっと、リュウイチいい加減にして!」
一転、アニーは、ドアの傍から俺に掴み掛かるように俺までの距離を詰めて来た。
結構、ご立腹のようで、顔が真っ赤だ。ちょっとやり過ぎたかな?
「しおらしいアニーも新鮮だけど、その方が、アニーらしいよ」
「リュウイチって、イジワルね」
俺たちは、そのまま目が合い、しばらくお互いの瞳を見つめ、どちらからと共なく笑い出した。しばし、笑い声が辺りに響き、やがて、また沈黙が訪れる。
「アニー、あのさ……。もし………」
俺が、そう言い掛けた時、丁度、スノーさんがやって来た。
いつまでも帰ってこない俺たちを迎えに来たのだろう。
「二人とも別れの挨拶は済んだかしら、そろそろ食事にしたいのだけれど………」
「「はっ、はい」」
俺は、続きの言葉を飲み込むと、軽く服を洗い、干してから中に戻る。
その間に、アニーは、スノーさんと一緒に家の中に戻ったようだった。
あれ!? 今、別れの挨拶って言ってなかったか?
「リュウくん、こっちよ」
居間に戻るとすぐに食堂の方から声が掛かった。
食堂のテーブルの上には、いつもよりも料理の皿が多く載せられている。
流石にケーキはなかったが、スノーさん、かなり奮発したようだ。
「ご馳走ですね~」
俺は、そう言うと思わずお腹が鳴り出し、その音を聞いた3人は声を出して笑う。
アニーを見るといつもの調子に戻っていた。この方が、俺も何だか落ち着くな。
「それでは、リュウイチの神聖魔法の再現と我が家からの独立を祝って乾杯!」
お誕生日席に案内された俺は、少し恥ずかしかったが、ブリジットさんの掛け声で、手にしたワイン入りのグラスで乾杯した。
俺は、お礼の言葉もそこそこに腹の虫を慰めるために料理を平らげていった。
39-3.教会暗部の狙い
俺の腹が、落ち着く頃には、すでに皆は、ごきげんになっていた。
俺は、あの晩にブリジットさんから受けた助言を思い出し、改めてお礼を言った。
「ブリジットさん、先日のアドバイスに助けられました。
あの話がなかったら、かなり危ない状態でした」
「そうか。あくまでも可能性の話だったが、役に立ててよかった。
後から考えると大げさな部分もあった。それで、リュウイチを変に追い詰めた
ような気がして、あの晩は少し心配してたんだ。とにかく無事でよかった」
ブリジットさんも、アニーが言うように、俺を心配してくれていたようだ。
もちろん、ブリジットさんの一言がなければ、あの晩生死の境を彷徨う事はなかったが、未だ神聖魔法の再現ができずに、誰も助ける事は出来なかったはずだ。
「その件で、スノーには、あの後、大声で怒鳴られたよ。
『リュウくんがこのまま、帰って来なかったらどうするの!』ってね。
結婚以来あんなに怒鳴られたことはなかったな」
俺が、スノーさんの方をちらっと見るとスノーさんは、さっと立ち上がって台所に行ってしまった。やっぱり、スノーさんも心配してくれてたんだな。
俺は、昨夜のアニーの言葉の正しさを改めて知る事になった。
「リュウイチ、約束よ。詳しく例の話して頂戴!」
アニーとの先日の約束通りに、俺は、危惧した点をアニーに話して聞かせたが、ボロダー商店とスーリンのことは、わざとぼかして伝えた。
教会関係者であるアニーは、その件を詳しく知らない方がいいと考えたからだ。
「それじゃ、リュウイチが神聖魔法で助けようとしてた人の命が、
あの連中に狙われていた可能性があるって言うこと?」
「最初は、店の廃業が狙いかと思ったんだが、それにしては、おかしな点が
多かったんだ。例えば、向こうからの交渉に来る頻度が少なかったり、
店への営業妨害も殆どなかった」
店に連中が来たのは、俺が知る限りで3回だ。実質、脅しに来たのは、最初の時だけだし、配達先への妨害も『娘さんが病気』という噂だけだった。
「ところが、アニーに頼んだ手紙の方は、検閲までする周到さだ。
俺は、その話を聞いて、狙いが店ではなく、人の方じゃないかと思ったんだ」
正確に言うなら、司令塔が複数あって、互い狙いが違っていたように感じた。
「人が目的だった場合、命を奪うことも平気な連中ということになるからな。
奴等が、アニーが邪魔になると思えば、アニーに命の危険があると考えたのさ」
ブリジットさんも俺の話を聞いて、頷いている。
「実際に、店に来た治療師を名乗る女が、その人を殺そうとしていた。
間一髪、それを阻止して、何とか助けることが出来たというわけだ」
俺の長い話が終わり、改めてアニーを見ると少し青ざめているようだった。
そして、重い沈黙が訪れた。
39-4.教会の大騒動と勇者降臨
「それじゃ、リュウくん、まるで物語の勇者さまみたいね」
青ざめたアニーを見て、俺が話した事を後悔し始めていると、台所からきれいに盛り付けた果物の皿を持って来たスノーさんが、場の空気を換えるように呟く。
俺は、今日見たばかりの自分の隠し称号を思い出して苦笑いした。
それを誤魔化すように果物を1つ貰って、皮のまま、その味を楽しむ。
それは、甘いだけでなく程よい酸味がある俺好みの果物だった。
俺は、昔食べた紅玉林檎の味を懐かしく思い出していた。
「勇者と言えば、昨日だったか、勇者降臨の噂が立ったな。
店の方で教会の尖塔が七色の光に包まれたと聞いたよ」
「私も、私も。でも、私は、時計台って聞いたわよ」
ブリジットさんに続いて、スノーさんも口々に勇者降臨とやらの話を始めた。
「その勇者降臨って何ですか?」
「あら、リュウくん知らないの?
神さまに選ばれた勇者が、私たちにお披露目される事よ」
「そういう事だ。我々には、勇者が誰かなんて分からないからな。
勇者が誕生したと誰にでも分かる形で神が示すのが、勇者降臨兆しだ」
どっかに勇者が現れたかも?って話か。仮称の俺には、関係ない話だな。
兆しが、教会の尖塔であったなら、アニーに事の真相を訊ねるのが早いだろう。
「アニー、教会で何か聞いてないか?」
「実は今日、私がここにいることにも関係するのですが、
どうかこれから話す内容は、内密にお願いします」
アニーは、一瞬躊躇して、俺たち全員の顔を見回すとそう言った。
アニーが言うには、昨日の昼前に王都の主教会から、カークの大教会の方に査察が入ったそうだ。理由は、行幸の件と検閲の件についてと言うことだ。
「私以外にも匿名で投書した人がいたらしく、それが、聖女さまに届いたそうです」
聖女さまは、急遽ダイス行きを延期し、カークの査察結果を望んだそうだ。
査察は現在も続行中だが、かなり高位の人物まで査問を受けているようで、上級人事にまで影響がありそうな様子を呈しているらしい。
その結果が出る前に、アニーが、カークの見習いシスターの一人として、明日にでも王都に赴き、後日正式なシスターになるための洗礼を受ける事になったらしい。
アニー達の手紙での要望に配慮したと言うカーク教会のアリバイ作りのためだろう。
「そうか、無事届いたか」
ブリジットさんがほっとした様子でそう言うと、それを聞いたアニーは、驚いて声を上げた。
「まさか、ご主人が、匿名の投書の主でしたか」
「アニーさんにもお願いしたが、念のため、王都へ仕入れに行く馬車の御者に
王都教会の投函箱に直接入れるように手紙を頼んで置いたんだよ」
なるほど、だからカークの検閲に掛からずに聖女さまの下へ届いた訳だ。
ブリジットさんは、続いて内容について説明した。
「カークで流布されている行幸の延期の理由と共に、それを訴える手紙が、検閲さ
れる可能性があると書いたのさ。カークから主教会宛ての手紙が急に減れば、
その証拠だともね。無視される可能性もあったから、お前たちには言えなかった」
検閲がなければ、アニーの手紙が届くし、検閲となれば、主教会、特に聖女さま宛の手紙の中身をすべて調べる必要があるため、到着までに時間が掛かり、一時的にだが、手紙の量が極端に減る。それが、匿名の投書の信憑性を高める訳だ。
ブリジットさんは、カーク教会と商会との関係上、信憑性に欠ける匿名の投書しか書けない。それでも、信憑性が高まれば、今回のように信用されることもある。
いつもながら、ブリジットさんの 洞察力には驚かせられる。
「それじゃ、アニーは、明日にでも王都に出発するのか?
俺が言うのも変だが、こんな時間までパーティに出てて大丈夫なのか?」
「昨日内に、アニーちゃんをリュウくんのお祝いパーティに誘っておいたのよ」
アニーの今日の予定に最初から入っていたのか。
でも、辺りも真っ暗になり、少し心配になって訊ねた。
「まだ、帰らなくて大丈夫なのか?」
「何時頃カークに帰って来られるか、わからないから、今日は、いつもお世話に
なっている人たちに挨拶回りをして、外泊するという事になっているのよ。
早朝一旦教会に帰って、手荷物を持ってから、王都行きの朝の馬車に乗る予定よ」
それにしても、スーリンに続いて、アニーも王都に言ってしまうのか、当分の間、寂しくなるな。そう俺が考えていると…。
「そういう事だからリュウくん、アニーちゃんは、今日も家にお泊りよ。
近頃の様子だと、今晩は、リュウくんのいる客間で二人一緒でも大丈夫そうね。
今夜は、たっぷり別れを惜しんで頂戴」
「スッ、スッ、スノーさん。俺は、この前と同じに居間で寝ますよ。
明日、長旅をするアニーにはゆっくり休んでもらいたいですから」
俺は、見た事もないこっちの世界の婚姻届が俺の周りをヒラヒラと飛んでいるような気がして、何とか理由をつけて断った。
それを聞いたスノーさんには、大きなため息をつかれてしまった。
アニーをちらりと見るとちょうどアニーと目が合い、急いで目を逸らされた。
少し顔が紅くなっていたような気がしたが、酔いのせいにしておこう。
俺は、嫌なイメージを振り払うために咳払いすると、改めてアニーに訊ねた。
「それで、その査察の話と、勇者降臨の話と、どんな関係があるんだ?」
アニーは、真面目な顔をすると話を続ける。
「カーク教会としては、王都主教会からの査察のことが世間に知られると威信に
傷がつくと考えているの。それで、一昨日、偶々変わった現象があったので、
それと勇者降臨を結びつけて巷に流布していると言う事なのよ」
元の世界で言うスピン報道ってやつだな。庶民に広く知られるとまずい政策や失政等の出来事があると、そのニュースとは、別のニュースをさも重要そうに大きく報道して、本当に重要なニュースを隠す報道のやり方だ。
「じゃあ、勇者降臨って言うのは、ウソだったんだな」
「そうなるわね」
アニーの答えを聞いて、俺は胸を撫で下ろした。
仮称とは言え、もし、誰かに俺の隠し称号のことを知られれば、勇者に担ぎ上げられ兼ねなかった。何の力もない俺が、そんな特攻隊長のような役に任命されされたら命が幾つあっても足りない。また、アニーに怒られてしまうところだった。
ほっとしたら俺は、仄かにもよおし席を立った。
~・~
「しかし、七色の光の件は本当と言うことになるのかな、アニーさん?」
「どうなんでしょうか? 私は、教会の方で噂を流したという話しか聞いてません」
「私は直接見たっていう人から話を聞いたのよ。正午の鐘の音と共に七色の光に
時計台が包まれて、鐘が鳴り止むまで続いたそうよ」
「だとすれば、七色の光の件は本当と言うことになるな。
『七色の光』は、勇者降臨の兆しということが過去の文献に数多く書かれている」
『神が男を指し示すとその瞬間、男は七色に輝き出した』
『天界から下された虹の袂に勇者が降り立った』
『七柱の神がそれぞれ発した七色の光が、男の下に集まり、大いなる力が宿った』
「ご主人、確かに、七色の光が関係していそうですが、
それぞれの降臨の状況に違いがあり過ぎませんか?」
「結局、最初の『男が七色に輝きだした』という記述がすべてなのさ。
仮にその男が上空から舞い降りれば、その軌跡が虹に見えるだろうし、
その男が光り出した際に、七色の光が神を表す柱にそれそれ当たれば、
見方によっては、柱が発した光がその男に当たったように見えるだろう?」
「確かにそうね。
それじゃあなた、今回の事は本当に勇者降臨の兆しだったということかしら?」
「少なくともカーク教会ではそういう話にしたいみたいです」
「そうなると、話の真偽に関係なく、勇者が降臨したという話になるな」
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まとめ(脚色あり)
ただいま帰りました……。って玄関に誰もいない。家の中も暗い。
ひょっとして、ドアを開けたのは、幽霊の類か? 恐る恐る部屋に入ると……。
血まみれのブリジットさんとスノーさんとアニーの3人が……。
「リュウくんの神聖魔法で治してもらうと、切った指をそのままにしてたのに、
リュウくんが遅いから、私……死んじゃったの……」
「私も腹を切って待ってたんだぞ。リュウイチ」
「リュウイチ、私が死んだのは……あなたのせいよ。」
「どわ~~~!!!」
「「「サプラ~~イズ!!! 神聖魔法再現、おめでとう!!」」」
「あっ、ありがとうございます」
しっ、心臓に悪いな~。ちょっと、手を洗って来ようか。
「うん!? 何やつ!!」
「ほほほほ、リュウイチ、なかなかやるわね。流石、私の弟子だけあるわ」
「アニーは、魔法の師匠だろう? それより、昨日はごめんな」
「気にしてないわよ。あっ、あんなの私にとっては、しょっちゅうだからね」
「それじゃ、こんなこともか?」
俺は、アニーに近づき、じっとアニーの瞳を見つめる。
「へっ、平気に決まってるでしょ。先に目を反らした方が負けだからね」
「よし、受けてたつ!!」
・・・・・・
「ひゅ~ひゅ~。ニクイよ。ニクイよ。お二人さん。熱くて火傷しそうだわ」
スノーさん、何処の寿司屋の出前ですか?
馬鹿なことをやってたら、お腹が減ったな。さっさとご飯にしましょう。
おおっ! 今日は、ご馳走ですね。
乾杯! ワインか、アニー飲みすぎるなよ~。
お持ち帰りしちゃうぞ。って、今日は泊まり? すいませんでした。冗談です。
カーク教会に監査が入ったんだ。へっ!? ブリジットさんの差し金!?
それで、アニーも王都で、正式にシスターになれるってわけか。
で、ここに泊まって、明日出発するのか。随分急だね。
勇者降臨? いや違うよ、俺は、仮称だもん。
俺弱いし、魔族に突っ込まさせられたら、即死亡ですから!
え!? カーク教会への主教会からの査察の目を誤魔化すためのウソ?
よかった。よかった。
だが、噂の真偽に関係なく事は、俺が望まない方向へ動き出しそうな気配だった。
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