↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/16

ー留守番の張飛と、取られた徐州ー

 マリーが本を開くと、マトリスは机の上の小さなクッションで、羽を整えていた。


「今日は、劉備が徐州を留守にするお話です」


「コッ」


「前に、曹操も留守の間に土地を取られましたね」


 マトリスのくちばしが止まった。


「ええ。ですから、留守を誰に任せるかは、大切なのです」


     *


 徐州を任された劉備に、新たな敵が迫ってきた。


 袁術である。


「えんじゅつ、と読みます。以前、孫堅に食べ物を送らず、困らせた人ですね」


 袁術は、自分の勢力を広げようとしていた。


 その袁術の軍と戦うため、劉備は関羽を連れて出陣することになった。


 そうなると、徐州を守る人が必要になる。


 残るのは、張飛だった。


「強い人ですから、敵が正面から攻めてくれば、頼もしいですね」


 ただし、劉備には心配もあった。


 張飛は、腹を立てると、相手を厳しく打ちすぎることがある。


 そして、お酒を飲んで失敗することもあった。


「ここからも、『三国志演義』のお話で進めますね」


 劉備は張飛に、よく言い聞かせた。


 留守の間は、酒を慎むこと。


 むやみに人を打たないこと。


 人の話を聞いて、徐州を守ること。


「コッ」


「あなたも、お留守番の前には、いろいろ言われますか?」


 マトリスは、羽の間へくちばしを入れた。


 マリーは、そのまま続きを読むことにした。


     *


 劉備と関羽が出発すると、張飛は徐州に残った人々を集め、宴を開いた。


 そして、こう言ったのである。


 兄者から、酒を飲むなと言われている。


 だから、今日を最後にする。


 今日は、みんなで飲もう。


「コケッ?」


「はい。やめる前に、たくさん飲んでおこうとしたのですね」


 マリーは、本の端を押さえた。


「明日からおやつを減らすので、今日はお皿を空にします、と言われたら、私も少し困ります」


 マトリスが、おやつの皿を見た。


「お皿は、そのままで結構です」


 宴には、曹豹という武将もいた。


「そうひょう、と読みます。曹操とは別の人ですよ」


 曹豹は、酒を勧められても断った。


 ところが、酔った張飛は、それが面白くなかった。


 自分の酒が飲めないのかと怒り、曹豹を打ち据えてしまったのである。


 周りの人が止め、ようやく、その場は収まった。


 だが、打たれた曹豹の恨みは残った。


     *


 その頃、小沛には呂布がいた。


 劉備を頼ってきて、身を寄せる場所を与えられた、あの呂布である。


 曹豹は、その呂布に知らせを送った。


 劉備は留守だ。


 張飛は酒を飲み、町の守りも乱れている。


 今なら、徐州を取れる。


 マトリスが、首を伸ばした。


「困りましたね。外にいる敵だけを見ていればよい、というわけではなかったのです」


 知らせを受けた呂布は、兵を動かした。


 夜の闇に紛れ、徐州へ向かう。


 町の内側には、呂布を引き入れようとする者がいる。


 門が開かれると、呂布の兵が、なだれ込んできた。


     *


 張飛が異変に気づいたときには、もう遅かった。


 敵は、町の中まで入り込んでいる。


 兵士たちは慌て、誰がどこを守るのかも、わからなくなった。


 張飛は武器を取り、戦った。


 だが、いくら強くても、一人で町中の敵を追い出せるわけではない。


「前のお話では、食べ物がなくて戦えませんでしたね。今度は、守る側のまとまりが崩れてしまったのです」


 張飛は、どうにか町から脱出した。


 けれど、劉備の家族を連れ出すことができなかった。


 家族は、奪われた徐州に残されてしまったのである。


 マトリスが、小さく鳴いた。


「ええ。土地だけでは済みませんでした」


     *


 戦いに出ていた劉備のもとへ、張飛がやってきた。


 徐州を取られたこと。


 家族を残してきたこと。


 張飛は、自分の失敗を伝えた。


 出発する前、劉備から、あれほど言われていたのだ。


 酒を慎み、人をむやみに打たないように、と。


 それを守れず、帰る場所まで失ってしまった。


 張飛は、自分を責めた。


 そして、命を絶って償おうとした。


 劉備は、それを止めたのである。


「コッ」


「失敗したから、あなたもいなくなりなさい、とは言わなかったのですね」


 失ったものは、大きい。


 だが、張飛まで失えば、それが戻ってくるわけではない。


 今いる者たちで、この先を考えなければならなかった。


     *


 一方、徐州を手に入れた呂布は、劉備の家族に危害を加えず、保護した。


 そして、劉備と話をつけようとした。


「……自分で取っておいて、と思いますよね」


 マトリスが、マリーを見上げた。


「ただ、劉備も、すぐに呂布を倒せる状態ではありませんでした」


 外には袁術の軍がいる。


 帰る場所を失った兵士たちは、食べ物にも困る。


 ここで呂布とも戦えば、前にも後ろにも敵を抱えることになる。


 劉備は、ひとまず呂布と和解した。


 家族とも、再び会うことができた。


 そして劉備たちは、小沛に身を置くことになったのである。


     *


「ここで、場所が入れ替わりました」


 マリーは、本の二か所を指さした。


「前は、劉備が徐州を治め、呂布が小沛にいました。今度は、呂布が徐州にいて、劉備が小沛にいます」


「コケッ」


「迎えたお客さまが、家の主人になってしまったようですね」


 助けてもらった恩があれば、裏切らない。


 そう思いたくても、呂布は徐州を取った。


 張飛も、劉備を裏切ろうとしたわけではない。


 けれど、任された留守を守れなかった。


「悪いことをしようと思っていなくても、約束を守らなかったために、大変なことになるのですね」


 マリーは、しおりを挟んだ。


「そして袁術は、まだ劉備を諦めていません。次は、小沛にいる劉備を攻めようとします」


 マトリスが、クッションの上で座り直した。


「そのとき、呂布が少し変わった方法で、戦いを止めるのです」


 マリーが本を閉じると、マトリスは、おやつの皿へ首を伸ばした。


「こちらの留守番をお願いするのは、難しそうですね」


 皿の上には、果物が一つ残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。